ぼくとメンデルスゾーン

作曲家ごとに、ぼんやりと「色」のイメージがある。

ベートーヴェンだったら激情の赤。ブラームスは悲哀も含んだ深い濃紺。大好きなモーツァルトは、ピーカンなお天気の日の、雲ひとつない明るい空の色。

メンデルスゾーンは「緑」だ。

なぜ緑なのかは自分でもよくわからない。交響曲第3番「スコットランド」の第2楽章の冒頭が、みずみずしい、生命沸き起こる新緑を想起させるからかもしれない。当団の第2回演奏会で取り上げた「弦楽八重奏曲」も、さわやかで生き生きとした、緑のイメージが、たしかにあった。交響曲第4番「イタリア」も、まるでシャンパンを開ける瞬間のような、幸せでめでたい雰囲気から始まる。そう、メンデルスゾーンは幸せだったのだ。

ああ、今日演奏するのはピアノ三重奏曲だった。

この曲の色は、緑だけじゃないかもしれない。やわらかで、優しさと愛情に富んだ美しい旋律の第2楽章は、ほのかに過去の回想も感じさせるアプリコット。躍動感あふれて、ちょっとおどけた要素もある第3楽章は、透明感のある水色に、絵の具箱をひっくり返してしまったような、お茶目で気品もある曲だ。


僕はピアノ三重奏という編成がとても好きだ。ピアノ、チェロ、ヴァイオリンそれぞれの魅力が楽しめるのはもちろんのこと、ユニゾンで混ざりあったり、オブリガートで溶けあったり。ぼくはヴァイオリンだが、ピアノやチェロと重なる瞬間など、極上の幸せを感じずにはいられない。そんな時は、どこかほんのり、萩色の演奏になっているかもしれない。

みなさんのメンデルスゾーンは、何色ですか?

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