2023.6.22

もうめっきり日記的な使い方をしなくなってしまったこのnoteですが、今日何故か急にムクムクとやる気が出たので、またちまちまと更新するかもしれません。しないかもしれません。週一くらいで書けたらいいですね。

映画『怪物』と新書『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか』

映画『怪物』

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。

新書『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか』

コーネリアスの小山田圭吾が東京五輪開会式の楽曲担当であることが発表された途端、過去の障害者「いじめ」問題がSNSで炎上。数日間で辞任を余儀なくされた。これは誤情報を多く含み、社会全体に感染症のように広がる「インフォデミック」であった。本書は当該の雑誌記事から小山田圭吾の「いじめ」がどのように生まれ、歪んだ形で伝わってきたのかを検証するジャーナリスティックな側面と、日本におけるいじめ言説を丁寧に分析するアカデミックな側面から、いまの情報流通様式が招く深刻な「災い」を考察する現代批評である。

是枝裕和の監督作品というより坂元裕二の脚本作品という色合いの強い『怪物』。よくできた脚本だなあと感心すると同時に、こういうことは実際に起こりうるし、この映画で起こっている出来事を人に正確に伝えることは、当事者たちにはどうやったって無理だろう、と思った。この映画自体、起こっていることをすべて伝えられているかどうか怪しいところだ。

そしてコーネリアスの小山田圭吾の「いじめ」炎上事件を検証した『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか』。①当時の記事における企画の意図と本人の意図の齟齬、②記事の掘り起こしによる文脈の切断、③我々が生きる社会のもつ「いじめ観」、この3つが共犯関係となり引き起こされた悲劇。「検索して2分で最低最悪の人物像を信じ込まされる」、その単純さを拭うために、250ページの新書1冊が必要であるという非対称性。

この2作品に触れるにつけ、とにかく人間の生というものは複雑であり、ただ一人が生きているだけでも複雑であるのに、その生どうしが接触したり、さらにはそれを人に伝えようとしたときに生じる「切り取り」というものがどれほど脆弱なものであるのかということを思い知った次第。

NORIKIYO『犯行声明』

社会に蔓延る偏頭痛 
ポリの脚本ってすげぇ苦痛 
自分勝手出すなよフェイクニュース 
人の人生にゃねぇぞ Take 2
「 ”売るために奴は大麻栽培”って流したし
証拠なんか無いんか? 起訴するにゃ無理だなんか足ん無い… (TдT) 」
って順番がなんか半端ないじゃん…
“嘘、大袈裟で紛らわしい” が盛られた
報道、余計なデマ
それ俺らでは今日止められない 
BPOやJAROもお手上げさ

ラッパーのNORIKIYOもまた、誤情報の拡散という被害を受けた一人だ。昨年8月、彼は大麻取締法違反で逮捕され、「末端価格1億1000万の大麻を営利目的で栽培」していたというセンセーショナルなニュースが報じられた。その勾留中にリリックの大半を書き上げたという『犯行声明』が今週リリースされた。

このインタヴューや、その他色んなところで本人が語っている通り、このニュースは確たる証拠もないままに報じられたものだった。NORIKIYO曰く、長期間の捜査にも関わらず彼から大麻を購入した人間は現れておらず、大麻の栽培は彼の病気(重症筋無力症)の治療のために「20年分の大麻だけ作ってしまおう」ということだったとのこと。だが裁判の結果彼の主張は認められず、リリースの直前に彼は3年間の「長期取材」へと去っていった。

かく言う僕自身もこのニュースが報じられた当時は信じてしまっていたし、ちょっとがっかりしてしまった部分もあった。だが彼は全国に広がっていたこの勝手な「がっかり」を払拭するため(だけではないと思うが)に17曲入りのアルバムを勾留中に書き上げた。それは自分のラップスキルへの自信と、ファンたちへの信頼が成せた業だろう。そして、これまで/これから同じような形で不当な制裁を受けてきた/受ける人たちへの思いをはせる。おい!どうなってんだ!

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