【解説】gnin "Rejected"

<元トラック>

Kendrick Lamarの”The Heart Part 5”という曲のトラックを尺などもそのまま流用しています。

そしてこの曲もまた、Marvin Gayeの"I Want You"という曲をほぼまんまサンプリングしています。

ケンドリックのこの曲は2022年5月8日に、彼の5年ぶりの新曲としてリリースされました。僕にとっても約3年ぶりとなる楽曲なので、同じく「帰還」という意味合いで…と言えればかっこいいのですが、単にトラックがかっこよくてシビれたのと、これくらい長いヴァースを書いたことがなかったので、チャレンジ的な意味合いでやってみたいと思いました。結果的に3年ぶりになったのも、1年間このトラックで何をラップしようか、ずっとダラダラ考えていたからです。

<歌詞>

[Intro]
“You like DnD, Audrey Hepburn, Fangoria, Harry Houdini, and croquet. You can’t swim, you can’t dance, and you don’t know karate. Just face it: you’re never gonna make it.”
“I don’t wanna make it. I just wanna-”

ここで引用されているのはMy Chemical Romanceの"I’m Not Okay (I Promise)"という曲のミュージック・ビデオの冒頭、メンバーのレイとジェラルドのやり取りです。大意としては「オタク趣味のお前には無理だ」「それで結構」というような感じです。
ちなみにこの"Rejected"のYouTubeのヴィジュアライザーもこのビデオの一部分をループさせたものです。

[Verse 1]
i just wanna interact
でも目見て話すこともできないぼくは
ただはにかむ どころか ギャグでごまかす はぐらかす
はつらつの逆 ただ待つ奴
あと回す 先延ばす 事実このバース
も書き始めてから10ヶ月 書き上げられず

"The Heart Part 5"のリリースが2022年5月、7月くらいには書き始めたのですが、結局2023年の5月まで出来上がりませんでした。しかも結局ずっと書きかけになっていた部分は全部捨てて、3日で1ヴァースずつ一気に書き上げました。

頭の中よくない考えのparades 毎夜開催中
飛び込むshadow realm

"shadow realm"は海外のゲーム実況とかでたまに聞くフレーズで、特に調べずに使ったのですが、どうやら英語版の「遊戯王」に登場するフレーズのようです。「闇の世界」とかそんな感じの意味です。

気持ちの遅さと歳月の早さ
その不確かさにただ 打ちのめされてるこの方
なぜか大事に腐らせてるかさぶた
布団の中でソリティア
やって過ぎていったいくつもの土日が
文字通り孤独だ僕は

ソリティアのアプリ、無限にやってしまう。(実はトランプに限らず)「一人で遊ぶゲーム」を指す「ソリティア(solitaire)」はフランス語で「孤独な」という意味です。だから「文字通り」。

should i see a doctor?
i'm opposite of c.o.s.a
いまだに社交的な振る舞いしかできない

C.O.S.A.の”Word For C-City”という曲に出てくる「俺ら結局未だに社交的振る舞いができない」というラインを受けて。

核心はつかない 否定しない 揉めない
分からない 正解などないし これはゲームじゃないのに 絶対に人を傷つけたくないだけ
そうやって築いた壁 気づいたらなすすべもないくらい
すべすべで掴みどころがない

ヴァース冒頭の「ギャグでごまかす はぐらかす」と大体同じことを言っています。でも、その場で言いたいことを我慢しているということではなく、家に帰ってからだったり、しばらく時間をおいてからじゃないと本当に言いたかったこととかが浮かんでこなかったりして、その場では「いい感じに」振る舞っているだけのことがよくあります。コミュニケーションの後出しジャンケンです。こういうコミュニケーションを続けていると、本当に言いたかったことに対する相手の返答は永遠に聞けないままです。それってすごくもったいないことですよね。だから僕は究極に平等なコミュニケーションは文通だと思っています。よく昔の文豪や思想家同士の文通が「往復書簡」などという形で公開されたりしていますよね、あれにすごく憧れがあります。コミュニケーションが反射神経だけで決定されてしまうのは、得意不得意があるから不平等だ!

どうしようもなくこんがらがったウォールフラワー

「ウォールフラワー」とは「パーティ等で誰にも相手されずに一人ぼっちで壁際にいる人」のことです。『ウォールフラワー』という映画をを大学生の頃に1回だけ見ました。なんだかいい映画だった記憶がありますが、あまり覚えていません。この映画を薦めてくれた友人とは今では連絡が取れません。

that's me i'm rejected

[Chorus]
自分が自分を殺すのをただ上から見下ろす
巻き戻す 巻き戻す
見つめ直す 自分は何者

[Verse 2]
取れないさ自分で自分の機嫌が
つきまとって拭えない自分への疑念が
i feel like 偽善者
だってこれまでの自分remember?
振り払った気でいる
謝った気でいる
償った気でいる
強くなった気でいる

自分の過去の行いというのは、いつまでも自分につきまとってくるものです。というかそうであるべきで、自分がしたことを忘れないでおく、というのが最低限、そこが反省のスタートラインだと思います。直接謝ったり、過去の自分と同じような過ちを犯している人を止めたりするは、それがまた違う「加害」になったりするんじゃないかと思って、できたりできなかったりしています。

署名クリックしたその右手でシコっても何だか善人になった気でいる

性差別に抗議するオンライン署名にクリックを済ませたあとで、ポルノを見て自慰行為に耽るとは何たる矛盾でしょうか。どれだけ「立派」なことを言っても所詮、僕という人間はこんなものなのです。『インターネットポルノ中毒』という本を読んでポルノ断ちをしようと思ったこともありましたが、結局だめでした。

そんな自分を斬るつもりでいる
とかいうことで自分を俯瞰で見るアピール
赤裸々に語ることで快感を得てるだけ
みっともも説得力もないな
取り繕ってfantasize me
もう四方八方塞がり
すげえ滑稽じゃん
there is no way out
でも一つだけある出口
それは簡単さ 全て忘れる
葛藤不安切り捨てる
後ろめたさも女々しさのメタファー だから解脱しな
アイデンティティクライシススパライラル
周りの目も エゴも 目盛りをゼロ にセット 迎合
100% アドプテーション reject yourself reject
でもそれだけはしないって決めたのさ

ここは作詞がうまくいっていないなと思っています。「すべて忘れる」から「reject yourself reject」という部分まで含めて「しないって決めた」ということです。文脈を読めばわかることなのですが、わかりづらいですね。「女々しさ」という言葉を地の文で僕が言っていると思われたくなくて、わざわざ釈明しています。こういうところは声を加工して自分じゃない人が言ってきてる、みたいな感じに作り込めばよかったんだろうなあ。

ベソかいても i face myself
my life 洗いざらい間違いの証
手放しはしない 轍 that's me

[Chorus]
自分で自分を殺すとしても斧は自分で振り下ろす
巻き戻す 振り下ろす 巻き戻す
何度でも自分を選び取るよ

[Verse 3]
何周も回った自意識
耳に刺さる言葉に病みつき
居心地悪くすることに必死
でもそれじゃ向き合ってない君に

「過去の自分は最低だ!」と自分をとにかく責め立てることは、裏を返すと「今の自分は優れている」と思い込むことでもあり、逆説的に気持ちいい事なんです。でもそればかりしていると、自分を自意識で覆い隠してしまうことになり、その自意識を介してしか周囲と関われなくなってしまうのです。

過去の自分は容赦なく刺す
でも今の自分をどう考えるか
素晴らしい人たちに囲まれていやしないか
運だけは味方にしたんじゃないか
ブラッシュアップの余地ありまくりのmy life
でも一人でも欠けるなら2周目いらない

バカリズム脚本のドラマ「ブラッシュアップライフ」は見ていないのですが、「ありっちゃありスパーク」の二人が感想を語り合うラジオを聞いて、見たつもりになっています。面白いドラマでしたね。

というかいつでもリスタート可能さ
大切な人とも出会い直した
失敗や後悔もいっぱいでおもんない
でも自分をちょっとなら愛せる
兄弟 姉妹 homies ならもっともっと愛してる
今日がいい 昨日より絶対

ここのライムの仕方、自分で気に入っています①。「失敗や後悔もいっぱいでおもんない」はすごく整っているけれど、そこから韻の区切り、文の区切り、小節の区切りがズレていく。このごちゃつきを「整ってない」というか、「テクニカル」というかはあなた次第です。

一生涯 変わらないもの
まだ見つけられてはいないが
忘れたくないことは増えていくばかりさ
そんな荷物捨てろと人は言うが
勲章や感傷としてではなく
この腐らせたかさぶたはガラクタじゃない
また歌うため 前に進むために必要だった摩擦さ

「かさぶた」「ガラクタ」「また歌(う)」という部分が踏んでいるようにちゃんと聞こえるのに対し、「摩擦さ」という部分は、母音はあっているし書いたときは「キタ!」と思ったのに声に出してみるとあまり踏んでいるように聞こえません。「s」の音が強すぎて霞んでしまいますね。子音同士の相性というものもあるのです。こういう部分を言語学者の川原繁人さんという方が「音とことばのふしぎな世界」の中で書いていました。

そう一歩一歩前に進んでるつもり
でも実際はスロー カタツムリ
右手はグーで 左手はチョキで

グーチョキパーでなにつくろう、ですね。カタツムリはグーチョキパーで作れる中で一番の最高傑作だと思います。パーとパーでカニとか、グーとグーで雪だるまとか、そんなものとは正直レベチ。

what i've gone through 向き合うよ一人で
だから次会うときはなるべく i wanna interact
はぐらかすことはなく 傷つけることもなく
話すか泣くか笑うか励ますさ
外せるといいな心のコルセット
止まるといいな自意識のルーレット
より明確にしたい自分のシルエット
don't let them rule you don't forget
いつでも自分で自分を選び取る
それしか僕にできることはなく
i choose me you choose you
それを繰り返すっちゅうことを自由という

ここのライムの仕方、自分で気に入っています②。

繰り返し 繰り返し その度にまた見失うだろうな自分を
繰り返し 繰り返し 過去を憎み ここに戻ってくるだろうよ
でも何度でもここから始める i'm rejected i'm rejected
でもnever rejected me ただ i represent me



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