見出し画像

2023.2.1

不定期更新にすると、とたんにサボリ気味である。おかげで見た映画や本が溜まっている。今回はただそれを書き連ねるだけ。

観た映画①
ロニー・プライス『ビリー・ホリデイ物語Lady Day at Emerson's Bar & Grill』(試写)

時は1959年、舞台はフィラデルフィアのとある寂れたジャズクラブ。これから観客の面前で繰り広げられるのは、死を4ヶ月後に控えたビリー・ホリデイによる最後のパフォーマンスである――。ニューオーリンズのカフェ・ブラジルで有観客上演された舞台を収録。

日本では昨年公開された『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』はイマイチだったけれど、今回公開されるこの映画はすごかった。もともとはブロードウェイでもかかっていた戯曲で、それを収録したのがこの映画。ビリー・ホリデイを演じるオードラ・マクドナルドがものすごくて、本当に「憑依」という言葉がピッタリで、何度も鳥肌が立った。正直、彼女のそれまでの人生(そのあたりは『ザ・ユナイテッド・ステイツ〜』に詳しい)を知らないとついていけない部分が多いのだけれど、知っているならば観ない手はない1本。

観た映画②
レイチェル・リアーズ『レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち』(NetFlix)

フルバージョンがYouTubeに上がっている(日本語字幕あり)。

巨額の富を持つ現職議員に対抗し、志固く2018年の下院議員選に出馬した女性新人候補者のうち、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスなど4人の戦いぶりを追う。

知人に勧められたので見ることにした。まず、トランプ政権がはるか昔のことのように感じられることにびっくりした(2017年からだから、もう6年くらい前のことになる)。コミュニティに根ざした草の根運動、本当に「街!!」って感じがして羨ましくなる。この間の杉並区長選挙の時はこんな感じだったのだろうか。

「私達のような候補が1人当選するには、100人が出馬しなければいけないのが現実。でもその1人からどんどん広がっていくものがあるはず」というようなことをアレクサンドリアが語る場面があるのだけれど、実際その後の下院選挙でも女性候補の数はどんどん伸びているそうだ。

観た映画③
ブライアン・フォーゲル『イカロス』(NetFlix)

自転車選手でもある監督のブライアン・フォーゲルが、スポーツ界におけるドーピング検査の有用性検証のため、自ら薬物を摂取してドーピング検査を通過できるか実験をしようとしたことをきっかけに、ロシアの専門家グリゴリー・ロドチェンコフと知り合う。しかし、ロドチェンコフがロシアの国家主導によるドーピング計画に関与していることが明らかになっていき、事態はフォーゲルにとっても思いがけない方向へと進んでいく。

NetFlixが日本上陸して流行りだしたあたりに、「独自コンテンツがすごい!」みたいな感じでよく紹介されていたような気がする。何となくこのタイミングで見た。こういう「あるものを撮ろうと思っていたら、なんだかすごい方向に発展して行っちゃった」系のドキュメンタリーってやっぱおもしろい。このグリゴリー・ロドチェンコフというおじさんがなんだか憎めないキャラクターで(第一言語ではない英語を喋っているということもあるだろうが)、なんとも面白かった。また、ロシアがソチ五輪において、ドーピングで最多のメダルを獲得した直後にウクライナに侵攻(2014年、クリミア半島を強引に併合した)したことに罪悪感を感じるとも言っていて、今の状況を彼はどう感じているのだろう、と思った。

観た映画④
ビリー・ワイルダー『サンセット大通り』(Amazon Prime Video)

ハリウッドのサンセット大通りに面するある邸宅のプールに、 若い脚本家ジョー・ギリスの死体が浮かんだ。死んだ彼はそのいきさつを語る… 。

ノーマを演じるグロリア・スワンソンがすごい。圧がすごい!もっとも、彼女だって時代の犠牲者だ、ということはできるのだけれど、限度を超えちゃっていて、とんでもなく最悪で最高だ。実際に出会ったら最悪なんだろうけど、観ている立場からすると「ここまで来たらどんどんいっちゃってくれ」となり、最後のシーンには拍手喝采、となる。

デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』はこれに影響を受けているみたいだけど、『マルホランド・ドライブ』を観たのがだいぶ前だったのでなんにも覚えておらず…無念。

観た映画⑤
マリア・シュラーダー『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(公開中)

ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

『レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち』、『イカロス』、『サンセット大通り』というたまたま観ていた3本の映画が、なんとなくここに全部つながっている気がして、こんな事があるとなんだか嬉しい。

#MeTooムーブメントの発端となった、かの有名な記事の取材班をつとめた二人の女性が主人公。当たり前のことを当たり前に積み上げていくだけの単純な取材のはずなのに、立ちはだかる壁の数々。それは映画業界に蔓延する搾取的な構造や性加害者を守るために設計された法制度のような膨大なものであると同時に、打ち合わせのために入ったカフェでしつこく声をかけられる、という日常的なものでもある。

その両方と戦いながらも、更にふたりとも家庭があり、子供がいる。家族と過ごす時間も仕事の時間と同じくらいの分量(感覚で)で描かれていて、こんな労働環境、うらやましい〜!と思った。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』でも強烈だったキャリー・マリガンの「眼差しで殺す」演技が炸裂する場面があって、それが死ぬほどかっこよかった。

各所で語られている通り、これが今回のアカデミー賞にノミネートされていないのはおかしいな…。

観た映画⑥
マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』(公開中)

1923年、アイルランドの小さな孤島イニシェリン島。住民全員が顔見知りのこの島で暮らすパードリックは、長年の友人コルムから絶縁を言い渡されてしまう。理由もわからないまま、妹や風変わりな隣人の力を借りて事態を解決しようとするが、コルムは頑なに彼を拒絶。ついには、これ以上関わろうとするなら自分の指を切り落とすと宣言する。

そんな今年のアカデミー賞で9部門にノミネートされ、特に主演男優賞は確実視されているのがこの作品。

タイトルとあらすじからちょっとダークな人間ドラマ〜サスペンスを予想していったのだけれど、しっかりダーク・コメディで不条理劇だったのでみんなも軽い気持ちで見に行ってほしい(笑いもところどころ起きてた)。コリン・ファレルの困り眉がその面白みに大きく寄与していると思う。それは事態が深刻になっていく中盤〜終盤にかけても変わらずで、そのバランスの妙!

ほぼ全編この顔です

『スリー・ビルボード』はあまり内容を覚えていないけど、とにかく脚本がすごかった印象があって、今回はさらにすごかった。何者でもない二人のおっさんの喧嘩でこんなに面白い話がかけるの、やばすぎる。

ロバとわんこがかわいいし、バリー・コーガン演じる馬鹿だけど憎めないドミニクというキャラクターが何よりもいじらしい。

読んだ本
小沼理『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』

新型コロナウイルス、東京オリンピック、元首相銃撃事件。著しい社会変化があった3度の夏、それでも生活は続いていく。
迷い、怒り、喜び、苦しみ、考え、先へ向かう、注目のフリーランスライターによる3年間の日記。

2020年〜2022年の夏(6月〜9月)の日記をまとめた1冊。日記本が大好きでね…。

ゲイであることをカミングアウトしている筆者の日記には、恋人との生活の模様、社会で起こっていることへの反応、そしてそれらによって喚起される自分の考え方への内省などがない混ぜになって現れる。特にコロナ禍における行動に対する自分の考え(と、それがどんどん変わっていくことへの葛藤)について書かれている部分は共感しながら読んだ。そして、コロナ禍に加えて巻き起こった政権による横暴の数々など、読んでいるうちに「よく僕らはこの3年間を生き延びたものだ」と思ってしまった。

そしてやっぱり、面白い日記を読むと面白い日記を書きたくなる。観た映画、読んだ本の感想を描くだけじゃ、やっぱり面白くないよなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?