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書く練習(4/3)

先輩「おお、久しぶり。元気?」
私「お疲れ様です。お久しぶりです。」

先輩「すいません、生一つください。あ、何飲む?」
私「じゃあ私も。」
先輩「じゃあ生二つ。それから、もつ煮と冷やしトマトと。ん〜、唐揚げで。あ、あと梅水晶ください。なんか食べたいものある?」
私「いえ、平気です。」
先輩「じゃあとりあえず以上で。」

私「先輩、なんか変わってないですね。」
先輩「そう?」
私「っていうか相変わらず梅水晶好きですね。」
先輩「そこか」
私「私の中では先輩といえば梅水晶なので」
先輩「もっとなんかあるでしょうよ。」
私「もちろんありますけど」
先輩「で、どうしたの?」

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私「例えば幸せな家庭を築くというのが人生の目標だという人がいたとして、それは達成することのできる目標なのか、ということなんです」
先輩「達成できる目標じゃないの?」
私「達成できる目標であるとは思います。」
先輩「じゃあいいんじゃないの?」
私「いいんですけど。でも、今私が求められているのは、行動を起こして実現できるもの、もっと言えば起こしたい行動なわけで、達成して安住したい状態ではないんです」
先輩「就活の話かぁ」
私「わたしは、たくさんの目標とする状態はあると思うんです。幸せな家庭って例は友達が言ってたことだから、私のことじゃないけど、でも、結局状態を目指していて。」
先輩「うん、まあそうだよね」
私「でも、状態を語っても仕方ないわけで。」
先輩「うん」
私「だから、人生の目標みたいなのがほしいと思うわけで」
先輩「うん」
私「…」
先輩「大丈夫?」
私「…だからぁ、先輩にいろいろ聞きたいなって、思って。聞きたいこととか、考えて。」
先輩「そっかぁ。うん、難しいよねぇ。すいません。お水いただけますか。ふたつください。」

私「わたしは結構大丈夫です。こうなってからが強いので。」
先輩「うん、わかってるよ。だからお水飲んで欲しいんだ。」
私「先輩はほんとに変わってないですね!」
先輩「あっちゃんも変わってないみたいで安心したよ。」

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私「先輩は、変わってないことがいいことみたいに言いますね。」
先輩「うーん。というと?」
私「あっちゃんは変わってなくてよかったって。」
先輩「言葉の綾だよ。」
私「わたしは、変わらなくちゃいけないのかなって思う時あります。」
先輩「どうして?」
私「だって、みんな、変わっていっちゃうんだもん。」
先輩「みんなって?」
私「みんなは、みんな。先輩の周りの人も、多分みんな。多分先輩も。」
先輩「じゃああっちゃんも変わっていってるんじゃないの?」
私「私は全然変わってない!」
先輩「じゃあ変わってないのかぁ」
私「みんな変わっていっちゃうんです。先輩、好きな映画はなんですか?」
先輩「なに、急に。うーん、そうだなぁ。じゃあ、黒澤明の羅生門、かなぁ。」
私「ほら!先輩も変わっちゃった!前は溝口とか小津が好きだって言ってたのに!映画の話となると私にハネケばっかりおすすめしたくせに。」
先輩「うん。そうだったね。」
私「それなのにクロサワでしょ!…今とっても苦しくなった。」
先輩「あっちゃんは?変わらずリトルフォレストが一番?」
私「いつの話してるんですか!それ新歓の時でしょ!」
先輩「じゃあ今は違うの?」
私「今は…セブンスコンチネントか、散歩する惑星とか…」
先輩「じゃあ、あっちゃんも変わってるよ。」
私「変わってない。先輩が卒業してから、変わってない。」
先輩「羅生門ね。昨日見たんだよね。たまたまレイトショーでクロサワ特集やってて。おれ二、三本しか見たことなくて。見ないでなんとなく避けてたの。」
私「知ってますよ。小津がクロサワの悪口言うからって。知ってます。」
先輩「でもさ、見てみたら面白かったよ。すごい。めちゃくちゃよくできてた。羅生門って、藪の中の映画化だって知ってた?」
私「…知りませんでした。」
先輩「もうそれだけで興奮しちゃってさ。京マチ子も、いままでいいと思ったことあんまりなかったんだけど、京マチ子すごいんだなぁって、感心しちゃった。」
私「ふーん」
先輩「変わっちゃうように見えちゃうんだよ。あっちゃんは。人のことをよく見てるから。その人の考えや知識が少し広がっていくだけで、変わったように見えちゃうんだよ。」
私「…」
先輩「でもさ、多分変わってないこととかもたくさんあると思うのね。あっちゃんが、一番好きな映画がリトルフォレストからハネケとか、ロイアンダーソンに変わったのって、あっちゃん自体は変わってないように思うよ。」
私「変わってない…」
先輩「おれはいいと思う。変わってなくても。もちろん変わっても。」
私「わたしだってそう思います!思ってます!でも寂しいなって思うだけです。」
先輩「そうだよね。寂しいよね。」
私「わたしだって変わりたい。前を向いて頑張ってるんだって思いたい。」
先輩「大丈夫だよ。あっちゃんは前、向いてると思うよ。」
私「どこが?!」
先輩「それは、知らないけど…」
私「やっぱ先輩変わってない!」

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私「せんぱいは、恋人とか、できました?」
先輩「できないよ。なかなかね。」
私「だめだなー!先輩は。」
先輩「そう言われてもね。」
私「社会に出たら、いっぱい知り合いが増えて、いっぱい遊べるものだと思ってました。」
先輩「あんまり変わらなかったよ。寝坊しちゃいけないくらい。」
私「じゃあ、やっぱ、モテるんじゃないですか!」
先輩「モテないんだなー。これが。なかなか。」
私「ふふ、ふふふ」
先輩「あっちゃん、まだ前と同じ家住んでる?」
私「はい!泊まって行きますか!わたしテトリスめちゃくちゃうまくなってます」
先輩「うーん、今日はやめとくよ。」
私「はい!」
先輩「はい。」
私「わたしは、はやく、結婚したいなって、思うんです。」
先輩「なんで?」
私「思うんです!」
先輩「はい。」
私「先輩は?」
先輩「おれだって早く結婚したいよ。でもさ、最近思うんだけどね。」
私「うん。」
先輩「結構、大学卒業した時に、大学から恋人がいる人って多いんだよ。」
私「ははは!そりゃぁ一定数いますよ!」
先輩「うん。それでさ、おれみたいな余り物って、結構重症でさ。社会人になって、いまから恋愛します!って、なかなか難しいなーって思う。」
私「うわー!社会人っぽい!」
先輩「ははは。でも、思うよ。難しい。だから、ひとりでも生きていけるようにしなきゃって、昔よりも増して思うようになった。」
私「じゃあさ、先輩!結婚しちゃいましょう。私と!私先輩のこと結構好きだし!」
先輩「うん、いいよ。そうしよっか。」
私「よかった!じゃあ決まりね!」

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私「タクシー代くらい大丈夫です!」
先輩「いいから。すいません。新丸子までお願いします。駅でおろしてあげてください。お釣りは彼女に渡してください。」
私「先輩、ごちそうさまでした。」
先輩「はい、どういたしまして。じゃあまたね。就活、無理せずかんばってね。」
私「はい、どうもです。」
先輩「また、飲みにでも行こうね。」
私「先輩、今月末、ブレッソン特集あるんです。またラインします。」
先輩「うん、わかった。一緒に行こうね。」
私「はい、それから…。えーっと。」
先輩「また今度聞かせてよ。多分ゆうと別れたんでしょ?」
私「なんで知ってるの?」
先輩「ほんとにそうなんだ。」
私「はい。」
先輩「また辛くなったら誘ってよ。じゃあね。」
私「冷たい!」
先輩「おやすみ、気をつけてね」
私「はい。」
先輩「じゃあ、お願いします。」

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