エモリーMPH留学記:1年目春学期の振り返り

早いもので米国に来てから1年が経とうとしている。今学期も振り返りをする時期になってしまった…。

授業

GH 572 Community Transformation

冬休みの終わりにあった集中授業で、パウロ・フレイレが提唱した「問題解決型教育(Problem-posing approach)」について学んだ。生成テーマ(Generative Theme)の抽出、コードの作成、ファシリテーション。授業のほとんどはディスカッションor実習で、毎日ヘトヘトだった。でもこれはすごくよかった。今まで僕は「銀行型教育(Banking approach)」はむしろ効率的でよいことだと考えていたのだが(医学教育がまさにそうだ)、実は学習者を非人間化(de-humanise)していたことに気づいた。研修医や学生に知識をひけらかして悦に浸るようではダメだ。ちなみに私が日本人で初参加者だったそうなので、これからロリンスに入学する日本人には是非参加してほしい。

BIOS 501 Statistical Method 2

線形回帰モデル、two way ANOVAとANCOVA、ロジスティック回帰モデル、生存時間分析(を少し)を学んだ。秋学期と比べて易しく感じられたのは、学校生活に慣れたからだったのだろうか。ROC曲線がロジスティック回帰モデルから求められることを知り、過去のEBMの実践と今学んでいることがつながった感じがした。一般化線形モデルがカバーされなかったのは少し残念だったが(ログ・リスク回帰モデルでリスク比が計算できるので)、何もかもを詰め込むわけにはいかないので、今後も生涯学習していくしかない。

EPI 591U Application of Epimiological Concept

疫学的な因果推論について学んだ。授業はロスマンのModern Epidemiologyに沿っておこなわれ、因果パイ(日本語で何と呼称するのか不明)、DAGの書き方、交絡の同定と補正、交互作用の同定、研究デザインと選択・情報バイアスの関係、バイアス解析など…いろいろ勉強した。毎回教員がマシンガントークで80分間しゃべりまくるので、理解するのが大苦労だった。Modern Epiも名著のようだが、文章が難解で読んでも全然理解できなかった。また学期を通じて、匿名化された出生診断書のデータセットから後ろ向きコホート研究をおこなって要約まで書かなければいかず、週末はだいたい学校の地下にこもってSASコードを書いていた。テストの結果は散々だった(さすがに落第はしなかったが)。僕は持てる時間を全て疫学の勉強に費やしていたわけではなかったので、正直消化不良だった感は否めない。

GH 522 Qualitative Research Method

Positivism/Interpretismの違い、Etic/Emic perspectiveの違いから、研究デザイン(Mix-methodも含む)、深層インタビュー、フォーカス・グループ・ディスカッション、観察の手法を学んだ。英語で30分ぐらいの半構造化インタビューをおこない、3日かけてテープ起こしをしたのは大変だった。家庭医というバックグラウンドがあるので相手のナラティブを聞き出すのは得意かもと思っていたのだが、中立な立場で受け答えをしなければならず、医療面接とはかなり勝手が違った。英語の微妙な表現の違いがイマイチわからず、宿題が再提出になったりもした。でも授業は非常にわかりやすく、学びが多かった。来期は質的データの解析法を学ぶ予定なので、それと合わせると基本的な質的研究法を抑えられる。

GH 542 Evidence-Based Strategic Planning

今までの中で唯一「俺はこんな授業を聞くために大金を払っているのか…」と愕然とした科目だった。今更「Aims(=Objectives)はSMARTに」とか言われても、俺が医学生のときにIFMSAで教えていた内容じゃないか!しかもタダで!VDSというメキシコ系移民の健康支援をする組織でアンケート調査をしたが、その結果がVDSのプログラムに反映されることはなかった…。何でこんなことになってしまったのかと言うと、そもそも講師の2人とも疫学研究者で、ゴリゴリ現場で開発プロジェクトを回していた人々ではないのだ。自分たちがやってこなかったことを、人に教えることはできない。

ただ1つ評価すべき点は、中間評価なる副学科長と学生の間でディスカッションが開かれたことである。日本を含むアジア圏ではこんな教員と学生の対等な対話は考えられないので、その姿勢はすばらしいと思った。しかもその結果により実際にカリキュラムが変更されたのはさすがに驚いた。さすが民主主義の国というか、眼前の問題について自ら声を挙げ、解決を試みる国柄なのだなと思った。

(追記) あとから聞いた話によると、このコースを教える教員は最後までみつからず、今回の2人も嫌々ながら受け持ったそうだ(苦笑。大学の教員に採用されるためには論文を書いてナンボなので、現場でプロジェクトを回してきた人材は大学から遠ざかってしまう。結局、翌年からこの授業は廃止になった。

GH 591Q EpiInfo

CDCが作成したEpiInfoという無料の簡易的な疫学ソフトを2日間かけて学ぶコースだった。それはそれでよいのだが、そもそもGH 542で使うから取れという話のはずが、結局使わず、何のためにこのコースを取ったのかよくわからなかった。ちなみにOS X版がないのが残念だ。

課外活動

REAL

Rollins Earn and Learnプログラムという、要は大学公認のバイトに申し込む資格を得ることができたので、いろいろ出願してみた。結果は出願12件→うち2件のインタビュー→採用0…だった。敗因は、募集開始後すみやかに提出しなければならなかったのと(First come, first servedに近い)、インタビュースキルだろう。

部活

IHI Open School Emory ChapterのQIプロジェクトに参加申し込みをしたら、希望者が多かったとか何とかでなんと落ちてしまった!こっちでは部活にさえ入れないのか…と愕然とした。他の外国人医師も落ちていたので、元々採用しないつもりだったのかもしれない。ちなみに米国人は採用する気はないのに厚顔で「応募してくれてありがとう〜♡」とか平気で言う、日本人以上に本音と建前を使い分ける人種だとわかった。

プラクティカム

「MPH中に国際機関でインターンしたい」とずっと思っていたので、昨年11月下旬頃から受け入れ先を探すべくツテをたどっていたのだが、正直こんなに大変だとは思わなかった。何回断られたか覚えていない。まぁこれからの人生もそんなもんなのだろう。最終的には苦労の甲斐あって何とか受け入れ先を見つけることができた。しかも念願かなって保健システム強化の部署で働けることになったので、ありがたい。今学期は負けっぱなしで我慢の連続だったが、何とか一勝抑えた。

GFE Award

上記プラクティカムに対して2,000ドルの助成金を出すというAwardなのだが…落ちてしまった。まぁ実習内容を詰められないままプロポーザルを提出せざるを得なかったのでしょうがない。しかも公式なインターン許可の書類が間に合わなかったのが痛かった。WHOはカントリーオフィスでインターンする場合も、所属する地域事務所のRDの許可が必要らしい。当然のように時間がかかり…ちーん。「WHOは国際機関で1番仕事が遅いから」と言われても、嬉しくない。

奨学金

渡米後でも申請できる奨学金があったので、1つ申請した。後日、落ちたことがわかったが。

修士論文

今学期中にテーマと指導教官を決める必要があった。僕はカンボジア初の貧困層を対象とした医療費自己負担を減らすスキームであるHealth Equity Fundについて書こうと考えている。

プライベート

学期頭にショッキングな出来事があり落ち込んだが、幸い恐れていたほど鬱にならずにすんだ。メンタル管理は大事だ。また毎学期ごとに料理のレシピを5個以上増やすという目標は楽に達成でき、アメリカ人っぽくPotluckを開催できるくらいになった。

こうして振り返ると今学期は負け越した感が否めない。またインプットにいっぱいいっぱいで、アウトプットがおろそかになってしまった。うーん…これではいかんな。来季はアウトプットを増やしていかないと。

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