石巻再訪の振り返り

2年ぶりに石巻市立病院開成仮診療所を再訪した。前回は震災2年後の2013年だった。忘れないうちに、考えたこと・感じたことをメモしておこうと思う。

石巻の現状:自力で移住できるような財力や家族サポートがない大半の被災者は、仮設住宅で暮らしている。ようやく今年から復興公営住宅への転居が始まった。高齢者人口は震災前とほぼ同じに戻った一方で、介護保険給付費は約1.2倍に増加している。原因としては被災者が閉じこもり、健康状態が悪化していることが考えられる。復興公営住宅へ転居する負の側面として、さらに住民の結びつきが減る可能性が指摘されている。

① ビッグピクチャーを描く:地域のinformalが結びつき(=互助)が減少し、その分をformalなサービス(=共助)で補っている(と考えられる)。2次データの分析結果が、現場の印象と合致した瞬間だった。折しもCrossoverの政策ワークショップで財務省の社会保障関連のデータをもとにディスカッションをした直後だったので、よけい印象に残った。現場の実感から社会に問題意識をもつことは大切だが、数字がわからないと全体像や時間軸が分からない。目の前の問題ばかりに対処してたら、いつのまにか根っこが腐っていた、もう手遅れという状況は避けたい。また人を説得するには数字が必要だ。家庭医は職業柄、ナラティブで人を説得しようとしてしまう。

② 行き先が地獄と分かっていても突き進む:ビッグピクチャーを描いて、真の問題を同定し、有効と考えられる改善策を提案したとしても、しがらみがあるとかないとかで、ダメだと分かっている方針を続けてしまう。昨今の新国立競技場の問題と同じように。なぜなのだろう?一度決めたら修正できない?皆精一杯がんばっているのに?Public managementについて考えさせられた。

③ 自らがありたい姿と期待されている姿:初期研修の指導医N先生は「自分のやりたいことは置いて、そこで求められたことに応えよ」と言っていた。(N先生の意図とは違うかもしれないが…)医療機関も地域のニーズに応えるべきだ。急性期医療をやりたいとか、高度専門医療をやりたいとか、在宅医療や慢性期医療は二流だとか、思うのは勝手だけれど。大学病院でおこなうような先端医療が偉くて勝ち組…みたいな洗脳をした卒前教育は罪深い。

④ 人材の流出・流動:人口が減少して内需が縮小していく日本で、意欲のある若者は東京ではなく、海外で勝負をしろとのこと。グローバルな時代に至極もっともなのだが、地方には優秀な人材がさらにいなくなってしまう。ベンチャーやグローバル企業は、優秀でない人材はクビにすればいいだけかもしれない。一方で能力が高くなかったとしても、今いる人材を活用していくしかないのが地方の現実。日本社会の問題は地方から始まっていくのに。

⑤ 資金調達:何か事業をおこなうにも資金が必要だが、その資金を地方自治体がもっているわけでは必ずしもない。資金獲得能力がある人間が、事業をある程度意に沿ったかたちで動かせる。補助金がどこに落ちるか、など知っているのは大切。

何よりも渡米する前に日本の震災復興の現状を見れたのはよかった。


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