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マハーバーラタ私訳2(水遊び・ヴァースキとの邂逅)

訳元:The Mahabharata / Kisari Mohan Ganguli 訳(英語版)
1巻 Sambhava Parva 128節より

https://archive.sacred-texts.com/hin/m01/index.htm


ジャナメージャヤ王:アルジュナの曾孫
ヴァイシャンパーヤナ:作中にも登場するヴィヤーサ仙の弟子
※マハーバーラタは過去に起こった出来事をヴァイシャンパーヤナがジャナメージャナ王に語る形式で書かれている

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ヴァイシャンパーヤナは言った。「その後、ビーシュマとクンティーは友人たちとともに、亡くなった君主のための供養式を執り行い、ピンダ(米にギーと黒胡麻などを混ぜて作る供物)を捧げました。
そして、カウラヴァたちや何千人ものバラモンをもてなし、宝石や土地を与えました。
その後、民たちはパーンドゥの息子たちを連れてハスティナープラに戻りました。 彼らは父の死による不浄から清められたのです。そして、皆(民)は亡き王のために泣きました。まるで親族の一人を失ったかのようでした。
供養式が先に述べたように行われた時、尊きヴィヤーサはすべての臣民が悲しみに沈んでいるのを見て、ある日母サティヤヴァティーに言った。
「母上、我らの幸せな日々は過ぎ去り、災難の日々が続きました。罪は日に日に増し、世界は朽ちてゆく。カウラヴァの帝国は過ちと抑圧のために、最早耐えきれないでしょう。
あなたは森へ隠遁し、ヨーガ(精神集中や心の統一を行う修行を指す)を通して瞑想に専心してください。今後、ちまたは欺瞞と悪に満ち、善行も失われるでしょう。あなたの老いた目は、一族の滅びを映すべきではない」
ヴィヤーサの言葉を受け入れたサティヤヴァティーは、奥の間へ入り、義理の娘(ヴィヤーサの妻)に向かって言った。
「アンビカーよ、あなたの孫たちの行いの結果、いずれこのバーラタ王朝とその臣民は滅びると聞きました。 もし許されるのなら、私は息子を失って悲しむカウサーリヤ【女性名:情報要検討】と一緒に森に行きたいと思います」
(ジャナメージャヤ)王よ、王妃はこう言って、ビーシュマの許しを得て森に入りました。そして、二人の義理の娘(アンビカー/ドリタラーシュトラの母・アンバーリカー/パーンドゥの母)を連れてそこに到ると、彼女は深い瞑想に耽り、やがて肉体を捨てて昇天しました。
ヴァイシャンパーヤナは続けた。「パーンドゥ王の息子たちは、ヴェーダで定められたあらゆる清めの儀式を経て、父祖の地で立派に育ってゆきました。ドリタラーシュトラの息子たちと遊ぶたび、彼らの力の優劣がはっきりと現れました。
すばやさ、狙ったものを打つ正確さ、健啖ぶり、そして土埃を舞い上げることにおいてすら、ビーマセーナはドリタラーシュトラの息子たちを打ち負かしました。
風神の息子は彼らの髪を引っ張り、互いに戦わせた。ヴリコーダラは、その百人と一人の体力がありあまる子供たちを、まるでたった一人であるかのように、簡単に負かした。
パーンダヴァの次兄は、彼らの髪を掴んでは投げ倒し、地面の上を引きずり回しました。これによって、ある者は膝を、ある者は頭を、ある者は肩を折られました。
その若者は、時には彼らのうち十人を抱え込み、ほとんど死にそうになるまで水に沈めました。
ドリタラーシュトラの息子たちが果物を取るために木の枝に登った時など、ビーマはその木を蹴り飛ばして揺さぶり、果物も果物を取っていた王子たちも同時に落としました。
実際、クルの王子たちはすばやさや技量において、ビーマに敵わなかった。ビーマは悪意からではなくただ子供っぽい心持ちで、彼らを苦しめ自分の強さを誇示したのです。
ドリタラーシュトラの長子にして力あるドゥルヨーダナは、ビーマの驚嘆すべき力を目の当たりにして、彼に敵意を抱くようになりました。そして邪悪かつ不義な彼は、無知と野心によって、罪を犯すための考えを巡らせました。
彼は思索に耽り、「武勇において、パーンドゥの次男であるビーマに匹敵する実力者は他にいない。つまり、私は策によって奴を滅ぼさなければならない。ビーマは単独で、我々百人に戦いを挑んでくる。
故に、奴が庭で眠っているとき、私は奴をガンガーの流れに投げ込もう。そののちに長兄のユディシュティラと弟のアルジュナを幽閉し、誰にも脅かされることなく私がただ一人の王として君臨するのだ」
このように決意した邪悪なドゥルヨーダナは、ビーマを傷つける機会を常に見計らっていました。
バーラタよ、ガンガーのほとりのプラマナコティという美しい場所に、彼はタペストリーや絢爛な調度品で飾られた宮殿を建てました。この宮殿は水遊びをするために建てられ、あらゆる娯楽と選りすぐりの美味で満たされました。邸の上には華やかな旗が揺れており、この宮の名前は『遊水宮』と言いました。
すべての準備が整うと、官吏たちはドゥルヨーダナにそのことを知らせました。そして、悪心深き王子はパーンダヴァたちに言いました。「どうだ、木々や花で飾られたガンガーのほとりに行き、水辺で遊ぼうではないか」
ユディシュティラが誘いに頷くと、ドリタラーシュトラの息子たちはパーンダヴァの兄弟たちとともに、途方もなく巨大な象とほとんど街にも似た豪奢な車に乗って都を出ました。
そこに着くと王子たちは従者を退け、庭園と木立の美しさを品定めし、獅子が山の洞窟に踏み入るように宮殿に入った。
中は建築家によって壁や天井に整然と漆喰が塗られ、そこを画家たちが美しく彩っていました。
窓はとても優雅に見え、ことに噴水は見事な出来映えでした。あちこちに清冽な水をたたえた水盤があり、そこには所狭しと蓮の花が咲き乱れていました。
(ガンガーの)ほとりには様々な花が飾られ、その香りが辺りを満たしていた。カウラヴァの息子たちとパーンダヴァの息子たちは座って、供されたものを楽しみ始めました。彼らは次第に遊びに夢中になり、互いの食べ物をつまみ合いました。
一方、邪悪なドゥルヨーダナは、ビーマを陥れるべく、大量の食べ物に強力な毒を仕込んでいました。
舌には蜜、心には剃刀を持つよこしまな若者は、やがて立ち上がり、親密な素振りでビーマに毒入りの食事をたらふく食べさせ、本懐を遂げられたことを幸運に思って、心の底から歓喜しました。
その頃、ドリタラーシュトラとパーンドゥの息子たちは一緒になって水遊びし始めました。やがて仕舞いになり引き上げると、彼らは白い衣を身にまとい、様々な装飾品でもって装いました。
遊び疲れた彼らは、夕方になると、庭園に備えられた娯楽のための館で身体を休めたくなりました。
他の若者たちと散々水遊びしたため【要検討】、強靱なパーンダヴァの次男は尋常でない疲労に襲われていました。
水から上がると、彼は地面に横たわりました。彼は疲れ果て、毒に蝕まれていました。冷たい空気は毒を全身に行き渡らせ、彼はたちまちのうちに意識を失いました。
これを見たドゥルヨーダナは、灌木の紐で彼を縛って水の中に投げ込み、パーンドゥの息子はナーガ王国に着くまでひたすらに沈んでゆきました。
猛毒の牙を持つナーガが何千匹も彼に噛みつき、風神の息子の血に混じっていた植物性の毒は、この蛇毒によって中和されました。大蛇は彼の全身を噛んだが、その胸板は牙を通さぬほど頑丈でした。
意識を取り戻すと、クンティーの息子は拘束を引きちぎり、蛇たちを押し潰し始めました。命からがら逃げのびた一匹は、彼らの王ヴァースキのもとへはせ参じました。
「蛇の王よ、一人の男が水の中で溺れ、灌木の紐で縛られています。おそらく毒を飲んだのでしょう。我らの間に落ちてきた時、彼は意識を失っていました。しかし我々が彼に噛みつき始めると彼は覚醒し、枷を破って我々に襲いかかってきました。どうか陛下の御名のもとに、彼が何者であるのかお尋ねください」
その時、ヴァースキは哀れなナーガ族の祈りに応じてビーマセーナのもとへ赴き、彼と対峙した。大蛇の中にアーヤカという者がいました。彼はクンティーの父の祖父でした。
大蛇の主は自らの縁者を見とめ、彼を抱擁しました。そして、すべてを知ったヴァースキはビーマとの知遇を喜び、アーヤカに満足げに言いました。「どのように彼をもてなせば良いだろうか?富と宝石をふんだんに持たせては?」。
ヴァースキの言葉にアーヤカは答えました。「大いなる蛇の王よ、陛下が彼をお気に召されたならば、富を与えるのではなくラサクンダ(甘露の器)を飲ませ、測り知れない力を身につけさせなさいませ。それらの器の一つ一つには、千頭の象に値する力がある。これをこの王子に飲めるだけ飲ませなさい」
大蛇の王は同意し、大蛇たちは慶ばしき儀式を執り行った。そして、ビーマセーナは慎重に身を浄め、東を向いて甘露を口にした。彼は一息に壺の中身を全部飲み干し、8つの壺を立て続けに飲み干して満腹になりました。やがて、蛇たちは彼のために上等な寝台を調え、ビーマはそこへ安らかに横たわりました。

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<メモ>
・Ganguli版には手ずから毒入りの食事を食べさせた記述なし



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