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[新編]山之口貘全集 第1巻詩篇

(株)思潮社発行 発行日 2013年9月

YouTubeというやつは音楽や映画だけでなく音声が主体の情報だろうと、著作権なんて全く無視して何でもあるのが今の世の中だ。先日、久しぶりに山之口貘さんの全集を手にとっていたら、本人の朗読CDが付録されていたことに気がついた。詩集『思辨の苑』から「会話」、「座布団」など5篇、『定本 山之口貘詩集』から「結婚」など2篇、詩集『鮪に鰯』より2篇の朗読が収録されている。他にも本人が沖縄民謡を歌っていたり踊っている姿などないかしらと思い検索したのだが、オーディオブックのような朗読テープがアップされていただけで、本人の映像は見つけられなかった。

僕が山之口貘さんの詩に惹かれたのは高校生の頃だったと思う。その頃は同じ男子校の仲間と演劇部に入ったり、友人と安いギターを抱えて公園でNSPや井上陽水を歌っていたりする中で、高田渡の「生活の柄」という曲を聴いて、なんだか惹き込まれてしまったのが初めだった。その頃はアルバイトをしながら一人で下宿生活をしており、授業中に居眠りをしていた僕を起こそうとした同級生が、先生から「こいつはバイトで疲れているから寝かせておいてやれ」と言われるほど貧乏高校生をしていた。文芸本など、ましてや何の役にも立たない(と思っていた)詩集など買うこともできずに、たまに山之口貘詩集を図書館で拾い読みをする程度だった。

東京に出て会社勤めをするようになってから、相変わらず給料は交際費に化けて生活費はままならなかったが、貘さんの本は新刊本や神保町の古本屋でも買えるようになった。そして一番近年に手に入れたのが、思潮社の全集ということになる。まだ全4巻中第1巻のみだけれど、古本屋のちょっと薄汚い詩集から見れば格段の出世ということになるだろう。

さて、山之口貘さんの貧乏詩人生活は沢山の本で紹介されているので、細かく書くことはしないし、たとえ短くても詩は立派な作品なので無断でここに掲載することもしない。その代わり全集には必ずといっていいほどある、投げ込みの小冊子について少し書きたい。

この冊子は貘さんに関するエピソードや『定本 山之口貘詩集』刊行におけるエピソードを茨木のり子、高田渡、ねじめ正一といった人たちが書いている。

親友の金子光晴は、貘さんは「精神の貴族」だと言ったということとか、”安ペカな洋品まがい”ではない”日本のはえぬきの詩人”と評したとか。高田渡はこれもまた貘さんと似たり寄ったりの貧乏学生だったようだが、貘さんの詩を歌にしようと思いついた頃の話を載せている。

同郷の山川岩美は琉球新報東京総局に勤めていた頃に金に困っている貘さんと出会い、上野動物園のバクと一緒に写真を撮るという記事を企てた。その時の写真が、この冊子の表紙に載っている。貘さんもバクもなんともいえない風情を醸し出しているが、ついニンマリしてしまう。ワイシャツにネクタイで袖捲りをした貘さんが、すぐ側でまさにバクに触れようとしているモノクロ写真だ。

最後に詩集『鮪に鰯』から「貘」という詩の最後の一部を引用させていただく。天国にいる高田渡から「詩をブツ切りにするな」と叱られそうだ。

ところがその夜ぼくは夢を見た/飢えた大きなバクがのっそりあらわれて/この世に悪夢があったとばかりに/原子爆弾をぺろっと食ってしまい/水素爆弾をぺろっと食ったかとおもうと/ぱっと地球が明るくなったのだ

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