音楽ライブ配信のための映像撮影(配信のオペレーションなど)

前回、映像の画質について書いた後、だいぶ間が空いてしまいました。今回は、配信のオペレーションについて書きたいと思っていたのですが、色々なケースを経験しながら、これは簡単には語れないなあと感じています。

ビデオスイッチャーと、カメラにそれぞれオペレータを確保できれば良いのですが、そういうお店は特別で、1人で配信全般の操作を行う形が多いと思います。場合によっては、お料理や飲み物をサービスしながら、配信のオペレーションを行うようなケースもあるでしょうし、そういう状況で、映像のクオリティーをどう考えて行くのか、難しい問題であるように感じます。

映像はおまけと割り切ってしまえば、楽になりますし、むしろそのほうが音楽が引き立つケースもあります。音楽配信の映像としては、過剰な映像演出は避けるべきだとも考えています。

その一方で、適切な映像のスイッチングは、音楽の良さを引き立てる効果があると感じますし、さらに、ズームなどの映像演出が加われば、より音楽を印象的にできるとも考えています。

限られたリソースの中で、どの辺の映像クオリティーを狙うのか、お店の考えもそれぞれでしょうし、本当は、演奏者側の考えも色々なのだと思います。

私が軽々しく、こうしましょうなどと言えない領域ですので、今回は、ちょっと中途半端なnoteになりますが、演奏中、映像のスイッチングとカメラの操作を1人で行うとして、その場合に参考になりそうな事をまとめておきます。


1.ズームレンズの活用

配信のオペレーションと言っても、カメラを固定してしまえば、配信をスタートした後は、画面の切り換えが中心にるのですが、少し余裕が出てくると、合間に色々カメラの操作もやりたくなります。

ビデオスイッチャーの近くで、手の届く位置に、ズームレンズを装着したカメラを置いて、スイッチングの合間にカメラの画角や方向を変化させると、カメラ1台で、カメラが何台もあるような映像を撮影する事ができます。

実際に、たった2台のカメラを使って、1台は固定の画角、もう1台で色々な演奏者にズームインするような方式で、見ごたえのある映像を配信している例があります。固定画角のカメラをアクティブにしている間に、ズームレンズのカメラを操作して、準備ができたら画面を切り替える方式ですが、この方式であれば、ビデオスイッチャーを使わなくても、OBSのシーン切り替えで対応できます。

撮影にビデオカメラを使っている場合は、アクティブ画面をそのまま滑らかにズームインしたりズームアウトしたりできるのですが、このnoteは、ミラーレス一眼を前提としていますので、この場合のズームレンズには、ちょっと課題があります。

・ ライブ撮影に使える明るいズームレンズは少し高価になる。
・ 滑らかにゆっくりズームイン/ズームアウトする事は困難である。

以前のnoteでも書きましたが、マイクロフォーサーズのミラーレス一眼の場合、できればF2.8通しのレンズを使いたい所です。この場合、使えるレンズは次のものになります。

・ LUMIX 12-35㎜ F2.8 旧型
・ LUMIX 35-100㎜ F2.8 旧型
・ OLYMPUS M.ZUIKO 12-40mm F2.8 PRO

この他にもありますが、大きさやお値段を考えると、ライブ撮影用に色々なシーンで使えるのは、これら3つだと思います。どのレンズも、中古で5~6万円程度で入手できると思いますが、固定焦点のレンズより高価になります。ちょっと高価な分、写りは魅力的で、なんとも色気のある映像が撮れるレンズたちです。なお、LUMIXのレンズには、新型がありますが、手振れ補正の違いですので、ライブ撮影には旧型で問題ありません。

お店の照明が明るければ、もっと安価なズームレンズも使えますが、F値の低い広角側での使用に限定されてくると思います。次のようなレンズも広角側であれば使えるケースがあります。

・LUMIX 12-60㎜ F3.5-5.6
・LUMIX 12-32㎜ F3.5-5.6
・OLYMPUS M.ZUIKO 12-50mm F3.5-6.3 (電動ズーム)

一部の電動ズームもありますが、殆どは手でズームリングを回す手動ズームになります。鍛錬すれば、滑らかなズームイン/ズームアウトができますが、私のような凡人にはなかなか難しい技です。電動ズームの場合も、あくまで写真用のズームですので、ビデオカメラのようなゆっくりした動きはできません。

基本的には、他のカメラに切り換えている間にズームイン/ズームアウトしておいて、落ち着いた所でカメラをアクティブにする使い方が良いと思います。


2.フルード雲台

カメラの向きを横に動かす「パン」や、上下に動かす「ティルト」も、撮影の基本的なカメラ操作であり、映像表現として効果的な場合があります。

ズームレンズと同様に、他のカメラに切り換えている間にカメラの向きを変えておいて、落ち着いた所でカメラをアクティブにする形が基本になるかと思いますが、ジャズなどのゆったりした音楽の場合に、ゆっくりカメラをパンさせても良い雰囲気が表現できます。

このように、ゆっくりとカメラの方向を動かしたい時は、フルード雲台というものを使います。フルード雲台についても、以前のnoteで簡単にご紹介しましたが、オイルの粘性を使って、滑らかに動くよう工夫された雲台です。

プロ用のフルード雲台というのは、とても高価で、カメラの値段より高かったりします。私は、そういう高級品は使わず、ベルボンのフルード雲台の小さいサイズのもの(FHD-43M)を使っていますが、雲台が安いせいなのか、私の歳のせいなのか、一定速度で滑らかに動かすのは至難の業に感じます。


最近は、電動でカメラを安定させ、向きを滑らかに動かせる電動カメラスタビライザー(ジンバル)がお安くなってきましたので、高価なフルード雲台を買うのであれば、むしろ電動カメラスタビライザーを買ってしまった方が良いと思います。


3.電動カメラスタビライザー(ジンバル)

電動のカメラスタビライザー(以後は、ジンバルと略します。)は、カメラの方向を安定させて、ブレを無くす装置で、ジンバルを使うと、手持ちであっても、カメラの方向を固定できるようになります。元々は、映画の撮影などに使う目的で開発された装置で、手持ちで移動しながら撮影しても、画面が不自然に揺れたりせず、滑らかな映像を撮影する事ができます。

ライブ撮影の場合、カメラを三脚やスタンドに固定しますので、本来ジンバルは必要ないのですが、ジンバルを使うと、パンやティルトを微妙にコントロールできますので、その機能をライブ撮影に利用します。

ジンバルには、スマホ用からフルサイズカメラ用まで、色々な大きさがありますので、積載可能なカメラの重量に合わせて機種を選びます。ミラーレス一眼の場合、ズームレンズを合わせると1Kg程度になるので、少し余裕のある機種を選びましょう。(ちゃんと重量バランスを調整すれば、かなり重量オーバーでも大丈夫ですが...)

ジンバルを固定した場合のパンやティルトは、ジンバル本体のジョイスティックで行いますが、ちょっと敏感過ぎる場合が多いので、感度を調整できたり、スマホ等でリモートコントロールできる物を選ぶ必要があります。

私は、最大積載荷重2KgのDJI RONIN-SCという機種を使っています。


RONIN-SCは、スマホのアプリから色々とコントロールできますので、離れた場所からも操作できます。ちょっと大きめですが、とても信頼性が高く、ライブ撮影には向いていると思います。本体には、フォーカスホイールも付けられますので、フォーカス調整用のモーターをセットすれば、ズームやフォーカスも滑らかに動かす事ができます。

ライブ配信の場合は、スイッチングの合間にちょっと操作する事になりますので、そう色々な機能は使いませんが、人手をかけられない撮影では、ジンバルがあると役立つ場合があります。

ジンバルは、価格が大きく下がってきていて、新品定価でも中古のズームレンズ1本分の値段ですので、検討する価値があると思います。


4.ビデオスイッチャーのリモート操作

ビデオスイッチャーは、通常は、直接スイッチャーのボタンやレバーで操作します。本当は、ビデオスイッチャー自体を持ち歩けると、カウンターの中からでも操作できて良いのですが、HDMIケーブルが繋がっていますので、どうしても置き場所が固定されます。

ビデオスイッチャーの場所が固定されると、スイッチング操作する人もそこに張り付くことになりますが、できれば、注文の飲み物を作ったりしながら、スイッチングもできると、オペレーションを柔軟にできます。

実際にそうするかどうかは、なかなか難しい問題かと思いますが、ビデオスイッチャーには、リモートから操作する機能がありますので、知っておいても損は無いと思います。

(1) ATEM miniのリモート操作

ブラックマジックデザインのATEM miniには、有線LANのインターフェースがありますので、これを活用すると、パソコンやタブレットPCなどから、リモートで操作する事ができます。ATEM miniのリモートコントロールには、ATEM Software Controlというソフトウェアを使います。このソフトウェアのWindows版は、64ビットのWindowsで動作しますので、もしタブレットPCから操作する場合は、64ビットのWindowsが導入されたタブレットPCが必要になります。中古品で良いので、64ビット Windowsが導入されたタブレットPCを探してみてください。上手くすると、1万円程度で入手できます。

ATEM Software Control は、メーカーのサポートページから入手できます。サポートページで、「ATEMスイッチャー」を選択すると、「ATEMスイッチャーX.X アップデート」というファイルがダウンロードできますので、それをダウンロードしてインストールすれば、使えるようになります。

さて、タブレットPCの接続ですが、有線LANでそのまま接続してしまっては、LANケーブルを引きずって歩く事になってしまいます。そこで、3,000円程度の安いWi-Fiルーターを使って、次の方法で無線接続にします。

1.Wi-Fiルータをアクセスポイントモードにして、配信用パソコンの近くに置きます。

2.配信用パソコンに接続しているLANケーブルを外し、Wi-FiルータのWAN側(INTERNET用ポート)に接続します。

3.配信用パソコンを、短いLANケーブルで、Wi-FiルータのLANポートに接続します。

4.ATEM miniも、短いLANケーブルで、Wi-FiルータのLANポートに接続します。

5.タブレットPCをWi-FiでWi-Fiルータに接続します。

こうする事で、配信用パソコン、ビデオスイッチャー、タブレットPCが同じネットワークに接続された形になります。タブレットPCだけは無線接続ですので、どこでも持ち歩いて操作できる構成になります。

1つ注意点があって、ATEM miniのLANのアドレス(IPアドレス)が、DHCPになっていない場合がありますので、ATEM Software Controlを配信用パソコンに導入し、ATEM mini とUSB接続した状態で、ATEM miniの設定を確認する必要があります。

Windowsパソコンの場合は、スタートメニューに、Blackmagic Designというフォルダーがあり、その中に、ATEM Setupというソフトウェアがあります。ATEM miniとUSB接続した状態で、ATEM Setupを起動すると、ATEM miniのIPアドレスが表示されますので、確認してください。

ATEM mini PROの場合は、DHCPの指定ができますので、それを選択しておけば良いと思います。PROでないATEM miniは、DHCPの設定ができないようですので、IPアドレスを具体的に指定します。ATEM miniのアドレスは、配信用パソコンやタブレットPCと同じセグメントにする必要がありますので、ちょっと専門的な操作が必要になります。

配信パソコンのWindows設定メニュー -> ネットワークとインターネット -> イーサネットと進み、「接続済み」と表示されたアダプタをクリックすると、プロパティーのIPv4アドレスとしてIPアドレスが表示されます。

通常は、「.」で区切られた4種類の数字の前3つがセグメントアドレスになります。例えば、192.168.12.3と表示された場合は、192.168.12がセグメントアドレスですので、最後の部分だけ、他と競合する心配のない200~220位の数字にして、ATEM miniのIPアドレスを設定してください。前記の例で言えば、192.168.12.200のようなIPアドレスに設定します。

ちょっと面倒な事が沢山ありますが、上手く設定できれば、タブレットPCで起動したATEM Software Controlを使って、リモートからATEM miniの全ての機能を使う事ができます。


(2) V-1HDのリモート操作

ローランドの V-1HDは、USB接続したパソコンやiPadから、全ての機能を使用する事ができます。USB接続ですので、基本的にケーブル接続になります。USBの規格で、ケーブル長は3m以内に制限されていますので、あまり自由度はありません。

USB接続を無線化する機材もあるようですので、試してみる価値はあると思います。私も、機会があれば試してみて、結果をお知らせしたいと思います。

V-1HDは、プロショップでの評価は高いようですし、私も使っていて、ATEM miniより信頼していますが、少し価格が高いので、一般では殆ど使われていません。そのため、私もV-1HDのリモート操作の調査は、後回しにしています。


5.スイッチングの自動化

ATEM miniも、V-1HDも、それぞれ映像のスイッチングを自動化する機能を持っています。

ATEM miniの場合は、マクロ機能を使って、記録した操作を繰り返し実行する事で、例えば一定時間ごとにカメラを切り換える事ができます。私はまだ使った事がありませんが、本当に手が足りない時には、役立つのではないかと思います。

V-1HDは、一定時間ごとにカメラを切り換える方法の他に、各カメラの音声の強さに従ってカメラを切り換える機能があるようです。基本的には、テレビ会議用の機能かと思いますが、音楽でも使えるケースがあるかもしれません。

自動スイッチングは、色々と試してみないと評価できませんが、実際のライブで試すというのもリスクが高いと思います。かといって、自動スイッチングのテストのためにライブをするという訳にもいかないので、なかなかハードルの高い領域になります。

一か八かでやってみたら良かったという事になれば良いのですが、私は依頼されて撮影する立場なので、まだその領域には踏み込めておりません。演奏者が自分で持ち込んだ機材を使って配信するようなケースで、自動スイッチングの実績ができてくれば、普及するのではないかと思います。


6.おわりに

以上、今回は、一人でオペレーションする前提で、色々な撮影を行う工夫をご紹介しました。どこまで省力化できるかという追及は、下手をするとどこまで妥協できるかという後ろ向きな追及になってしまいがちです。まず最初に、お店として実現可能な体制を決めて、その範囲で、できる事を増やして行く姿勢が大切ではないかと思います。

少しもたもたしているうちに、世の中はどんどん進んでしまい、マルチカメラで色々と工夫を凝らした配信が当たり前になってきました。もうこのnoteの役割もなくなってきた感がありますので、今後は、ちょっと役立つ機材や、アイデアなどを見つけた時に、ご紹介して行く事にしたいと思います。


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