音楽ライブ配信のための映像撮影(マルチカメラ撮影)

前回は、カメラの使い方を中心にお話ししましたので、今回は、ビデオスイッチャーを使ったマルチカメラ撮影についてお話ししたいと思います。

複数のカメラの映像を切り替えて配信する機能は配信ソフトのOBSにもあり、それでビデオスイッチャーとほぼ同等の事ができます。したがって、マルチカメラの場合に、ビデオスイッチャーが必ず必要という事はないのですが、スイッチング専用のハードウェアがあった方が操作性が良くなります。

ビデオスイッチャーは、依然として入手しにくい状況ですが、早くから注文していた人にはもう届いたでしょうし、ヤフオクに出品されている転売品も価格が少し下がり気味かと思います。

ビデオスイッチャーは、ブラックマジックデザインのATEM mini か、ATEM mini proが実質的なスタンダードになっています。この他、同じ4チャンネルのスイッチャーとしては、ローランドのV-1HDもあります。

私は、あまり深く考えずにローランドのV-1HDを使い始めて、それに慣れてしまいましたが、ずっと前に注文したままになっていたATEM mini proも届きましたので、両方を比較できるようになりました。

先ずは、この2つのスイッチャーの話から始めたいと思います。


1. ATEM mini / ATEM mini pro

動画をやっている人なら、ブラックマジックデザインと言えば、カラーグレーディング用のソフトであるDavinci Resolveを思い浮かべる方も多いでしょう。

また、プロ級の人であれば、BMPCC (Black Magic Pocket Cinema Camera) シリーズのカメラを使っていたりするかもしれません。

まあ、ブラックマジックデザインは、動画の世界ではブランドのある会社で、とても安心感があります。

さて、ATEM miniですが、もちろん単体で使用できますが、その場合は使える機能が限られます。ネットワークでパソコンと接続し、ATEM Software Controlというソフトから操作する事で、フル機能を使えるようになります。

嬉しいのは、ATEM miniにもDavinci Resolve的な機能があって、カメラごとの映像をリアルタイムにカラーグレーディングできる事です。カメラの設定を少し間違えても、ある程度スイッチャーで修正できるのは、時として助かります。

また、このスイッチャーと、BMPCCシリーズのカメラを接続すると、HDMIケーブルを通じて、カメラの設定をパソコンからコントロールできるようですので、ほぼ理想的な映像配信環境を作ることができます。

BMPCCシリーズの4Kカメラのボディー価格は、15万円ちょっと。都内の200万円の助成金が手に入ったら、買っても良いと思います。

なお、このBMPCC 4Kは、マイクロフォーサーズ規格ですので、私のお勧めのLUMIX GX7MK2と同じセンサーサイズで、レンズも同じものを使います。実は、カメラのソフトウェア機能は別として、光学的な面で撮影できる映像を考えれば、3万円弱の中古GX7MK2と15万円強のBMPCC 4Kは、そんなに変わらないのです。(と考えておきましょう...)

さて、話を戻すと、もうスイッチャーはATEM miniで決まりだなという所ですが、少しだけ弱点を書いておきます。

・ パソコンが必要

単体でも使えますが、最低限の機能になります。真価を発揮するためには、パソコンとLAN接続する必要がありますので、ちょっと大掛かりになります。お店常設の設備であれば、配信用のパソコンを使えば良いのですが、撮影機材持ち込みで、お店のパソコンから配信する場合には、ちょっと面倒な感じになってしまいます。

なお、ATEM mini proは、配信用パソコン無しでも単体でネット配信できますが、それを操作するためにはパソコンが必要ですので、ちょっと微妙な感じかと思います。

・ HDMI出力が1ポートしかない

HDMI出力ポートが1つしかありませんので、配信用のプログラム出力か、プレビューを含めたマルチビュー出力かを選択する形になります。

スイッチャーを1台だけ使う場合であれば、配信用の映像はUSBでパソコンに出力しますので、HDMIの出力ポートをマルチビュー出力にすれば良いと思います。もし、カメラが5台以上になって、複数のスイッチャーをカスケード接続する事になると、HDMIの出力ポートをプログラム出力にするので、マルチビューが使えなくなります。

メインのスイッチャーで他チャンネルにしておいて、サブ側のスイッチャーを切り替えれば、メインのスイッチャーのプレビューで映像を確認できますが、とても煩雑な操作になります。

まあ、この問題は、カメラが5台以上になってから悩む事にしましょう。

・ HDMIの信号の許容度が小さい(特にチャンネル2~4)

これがちょっと問題で、特にHDMIケーブルの途中に中継コネクターが入ると、HDMIの信号をなかなか認識してくれなくなります。

どういう訳か、1番のポートは許容度が広いようで、2~4番のポートに接続しても駄目な場合に、1番のポートに接続すると映像が出たりします。

一般的なライブ会場であれば、中継コネクターを使わずになんとかしちゃいますが、大きなステージで使う場合にちょっと困った問題になります。


2. V-1HD

ローランドの製品で、ATEM miniシリーズと比べると、定価レベルでちょっとお高い買い物になります。インターフェースの違いで、V-1SDIというのもありますので、もし買う時には間違えないでください。

さて、このV-1HDの特徴を一言で言えば、確実性でしょうか。ATEM miniより大きさと重量が3割増し位になりますが、どのような環境でも、確実に映像を配信するというコンセプトで作られているように感じます。

ATEM miniでHDMIの信号を認識できないケースでも、V-1HDだと大抵は認識して映像を出力できます。失敗の許されない状況では、確実性は重要な事です。

また、V-1HDの良い点は、単体で全機能を使える事です。プレビューモニターを接続する必要がありますが、パソコンを使わずに単体で全ての設定作業を行う事が可能です。また、USBでiPadを接続すれば、iPadから全ての設定とスイッチング操作を行う事も可能です。

機材持ち込みで撮影する場合は、パソコンを自由に使えない状況が多いので、単体で使えるのは助かります。

もう1つ良い点を挙げると、「Tバー」と呼ばれるバーが付いている事でしょう。このTバーでトランジション速度をコントロールする事ができますし、途中で止めたり戻ったりもできますので、スイッチングの気分を高めてくれます。次に出す画面をスイッチで選択しておける点も、慣れるとすごく便利です。

なお、ATEM miniも、パソコンのソフトを使えば、V-1HDと同じように、スイッチで次の画面を選択し、マウスでTバーを動かす事ができます。まあ、この操作が本来あるべき形だという事でしょう。

その他、V-1HD には、MIDIインターフェースがありますので、フットスイッチ等でスイッチングできるのもメリットでしょう。

どうしても自分で普段使っている方に肩入れしてしまいますが、弱点も書いておきます。

・ 配信用パソコンと接続するのに、キャプチャーデバイスが必要

V-1HDは、元々配信用という感じではなかったようで、USBポートがあっても、それはiPadと接続するためにあるだけです。したがって、パソコンのOBSに映像を出力するためには、HDMIの出力を、キャプチャーデバイスでUSBに変換する必要があります。

要するに、スイッチャーを1台のカメラとしてパソコンに接続する形となりますので、キャプチャーデバイスの費用も予定しておかなければなりません。(FHDまでの対応であれば2,500円程度のキャプチャーデバイスも使えそうですので、今評価している最中です。)

・ 冷却ファンの音がする

ATEM miniは、ファンレスで無音で動作しますが、V-1HDは常時冷却ファンが回って音がします。これまで、ライブの環境で冷却ファンの音が問題になった事はありませんが、レコーディングなどの環境で使おうとすると、問題になるでしょう。

この点も、ATEM miniとのコンセプトの違いかと思います。ATEM miniのファンレス設計がどの程度環境耐性があるのかわかりませんが、V-1HDは、どのような環境でも長時間確実に動作するという事を優先して冷却ファンを採用したのだろうと考えています。


・ 高度な画像処理ができない

ATEM miniと違って、カメラごとの画像を調整する機能はありません。全体の画像については、明るさやコントラストなどを調整する事ができますが、カラーグレーディングほどの機能はありませんので、この点はATEM miniには敵いません。

まあ、実際の配信環境で、リアルタイムの画像調整がどの位必要なのかという問題ですが、映画を撮影する訳ではなく、一般的なライブ配信の場合であれば、カメラ側で調整すれば、それで良いように思います。

もう1つ、ATEM miniでは、境界をぼかした多彩な2分割画面ができますが、V-1HDは、2分割はできても、境界をぼかす事ができませんし、斜めの分割などもできません。これは、ちょっと悔しい所です。


以上、あまり比較になっていませんが、なんとなく特徴をつかんでいただけたかと思います。まあ、価格的にも、あえてV-1HDを買う人は珍しいでしょうから、これから買うのであれば、ATEM mini proにしておくのが無難かと思います。

proモデルにある単独配信機能や、USBディスクへの録画機能はたぶん使わないだろうと思いますので、proでないATEM miniでも良さそうに思います。しかし、proでないとマルチビュー出力ができないようですので、プレビュー映像が欲しいかどうかで考えれば良いと思います。proは、約2倍の価格となりますので、悩ましいところですが...


3. カメラとの接続ケーブル

お店の常設環境であれば、大きな問題にはならない事ですが、機材持ち込みの場合は、配線も都度行いますので、配線のトラブルが多発します。

カメラ4台のシンプルな構成でも、大抵1台はへそを曲げて、画像が出なかったり、画像にひどいノイズが入ったりして慌てます。

最近になって、その原因が中継コネクターにありそうだという事が分かってきました。ATEM miniを使うと、HDMIの許容度が狭いので、不具合の切り分けに役立ちます。

カメラの近くで、Micro HDMIを通常のHDMIに変換するアダプターは、使っても特に問題ないようですが、できれば、片方がMicro HDMIで、他方が通常のHDMIの長いケーブルを用意しておいた方が無難だと思います。

HDMIケーブルは、足でひっかけたりしないよう、養生テープで固定しておきますが、カメラの位置を調整しようとしたら、ケーブルが床にテープで固定してあって動かないという失敗がよくあります。ケーブルを固定する場合は、カメラ側に余裕を持たせて固定するようにしましょう。

ケーブルの固定には、ステージ用の養生テープを使います。

テープの中央に粘着剤が無く、床に固定してもケーブルを動かせるテープもありますが、結構大きくて、ちょっと運搬時にかさばります。


4. カメラの使い分け

さて、4チャンネルのビデオスイッチャーを入手し、HDMIで接続できるカメラも何とか4台揃ったとして、そのカメラをどう使うかが問題です。お店のステージの状況でも変わりますし、演奏者の数や編成によっても変わってきますが、私は基本的に次のように考えています。

・ 1台目のカメラ

ステージ全体を写し、MCの間や、演奏が終了した場合のホームポジションとして使います。ライブ中に他のカメラが故障したり、スイッチングで迷ってしまった場合の逃げ場にもなります。

・ 2台目のカメラ

ステージの左側の半分を写します。通常は、ピアノが中心となりますが、ピアノしか映っていない映像はなるべく避けます。トリオやカルテットであれば、ベースの一部でも画面に入れたい所ですが、難しい場合は、ピアノの先に少し空間があるように写して、一人だけではない雰囲気を出します。

ピアノを使わないライブの場合、センターのギターなどを写す形になりますが、少しでも画面の端に他の演奏者が入るようにします。

デュオのライブの場合は、どちらか一人が映像の中心になりますが、中央には写さず、必ず中央からずらします。一人だけで個室で演奏しているような映像は、なるべく避けましょう。

・ 3台目のカメラ

ステージの右半分を写します。ドラムがある場合、かなり広角のレンズが必要になってきますが、2台目のカメラと同じような考えで、一人だけを写す事はしないようにしましょう。

・ 4台目のカメラ

2台目と3台目のカメラを上手く配置できると、4台目のカメラはかなり自由になります。4台目は、基本的にセンターを写しますので、ボーカルや、管楽器を写す形となりますが、このカメラも、必ず他の演奏者が画面のどこかに入っているように工夫しましょう。


以上が基本ですが、状況によって、そう簡単ではない場合も多いかと思います。重要なポイントは、撮影の目的が、ビデオ作品を作るのではなく、ライブの雰囲気をリモート観客に伝える事にあるという事です。

カメラ4台の場合、基本的に特定の演奏者一人だけをアップで撮影する事はしません。どうしてもカメラ位置とレンズの関係で、ピアノだけしか画面に入らない場合もありますが、そういう制約が無ければ、必ず画面の後ろとか隅とか、どこかに別の演奏者が写っているようにします。

考え方は色々だと思いますが、この点が、録画用の撮影と、リアルタイム配信の考え方の違いかと思います。

リアルタイム配信する映像が伝えるのは、その日その瞬間の演奏の情景であって、特定の演奏者の魅力ではありません。カメラが沢山有れば、バリエーションとして特定の演奏者に寄った映像も加えますが、それでも、原則は上半身位までで、顔だけを大きく写す事はあまりしません。楽器を演奏する人の楽器がほとんど写っていないなんてのは論外です。撮影者の自己満足の映像は、見ている側をしらけさせてしまう恐れがあります。

要するに、演奏の前面にしゃしゃり出るような映像は極力使わないという事です。メインはあくまで演奏で、映像はその引き立て役です。映像を主役にしてしまうと、ライブ映像の臨場感は急にしぼんでしまいます。

これまでのファンサービスのための配信とは一線を画すべきで、配信の映像を見るのは、演奏者のファンだけではないという事を常に意識しましょう。ライブ配信が終了した時、心に残すべきは音楽です。映像の印象は、スゥーっと消えて行く位が理想ではないかと考えています。

過去を振り返ると、私も恥ずかしい事が多く、あまり偉そうな事は言えませんが、撮影の都度心がけている事であり、撮影した映像を見ながらいつも反省する事でもあります。


5. ズームレンズの使い方

ライブの環境で、カメラを操作する人が居る場合、カメラの向きとズームレンズを操作すると、1台のカメラで色々な映像を撮影する事ができます。前項でお話しした4台目のカメラにズームレンズを付けて、だれかが操作できれば、追加のカメラが2台位増えたような撮影ができます。

マイクロフォーサーズの場合、使えるのは、次のレンズでしょう。

・ LUMIX 12-35㎜ F2.8 旧型(中古で4.5万円程度)
・ LUMIX 35-100㎜ F2.8 旧型(中古で5.5万円程度)
・ OLYMPUS M.ZUIKO 12-40mm F2.8 PRO(中古で5万円程度)
・ OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F2.8 PRO(中古で12万円程度)

小さいステージでは、12-35㎜か、12-40mm を使いますが、35㎜だとちょっと足りず、40㎜欲しい場合がよくあり、できれば、M.ZUIKO 12-40mm F2.8 PROを使いたい所です。(私はまだ持っていませんが...)

大きいステージでは、35-100㎜か、または40-150mmになりますが、ホールのような場所でなければ、100mm以上を使う事は無いと思いますので、少し広角側の範囲の広いLUMIX 35-100㎜ F2.8の旧型が使い易いと思います。(ちょっとお安いですし)

なお、LUMIXのレンズには、手振れ防止機能を強化した新型がありますが、カメラを固定したライブ撮影に関しては、旧型で十分です。

カメラの向きを変える場合、アクティブな映像を動かすのではなく、動かしておいてから切り換えるのが無難だと思います。

もし、どうしても動かしながら撮影したい場合は、動きの滑らかなフルード雲台というのを使います。がっしりした高価な三脚と高価なフルード雲台、熟練した技術の3つが揃わないと、テレビ局のようななめらかな動作は難しいので、まあ多少の映像ブレは我慢しましょう。

簡易的なものですと、私は、クイックリリースプレートが共通になるため、ベルボンのフルード雲台の小さいサイズのもの(FHD-43M)を使っています。


さて、ズームレンズですが、人物や楽器にズームインして行くと、映像的には迫力が出るので、つい寄り気味の映像になってしまいます。

前の項でもお話ししましたが、観客の立場で映像を見ると、寄りすぎてしまっているケースが多いように思います。もっと寄りたいなというところで止めて、ちょっと観客に意地悪する位が、観客を引き付けるのに効果的かもしれません。(見えそうで見えないというやり方は、ちょっと使えませんので...)


さて、自分の勝手な考えで色々と書きましたが、何か法則みないな物があって、こうしなければならないという事ではありませんので、一つの考えとして、「ふーん」と参考にしていただくだけで結構です。みんなが同じような事をやったら、それはそれで面白くありません。

これまでのnoteで、とりあえず最低限の事は書いたように思います。
ライブ配信の機材や環境は様々で、いつでもどこでも良い映像を配信できる訳ではありませんが、少しでも良い映像を音楽に添えられるよう、工夫を続けたいものです。

次回は、少し基本的なところに戻って、画質について考えてみたいと思います。


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