音楽ライブ配信のための映像撮影(配信で苦労する事など)

前回、配信のオペレーションなどついて書いた後、また間が空いてしまいました。今回は、実際にライブ配信の撮影をして来た中で、苦労する事や、その対処の試みなどを書きたいと思います。

お店が主体となって、カメラ等の機材を常設している場合と、私のように撮影機材を一式持ち込んで撮影する場合で、かなり状況が変わってきます。

常設機材の場合は、前回の配信映像を参考にして設定等を調整する事ができますし、機材の組み合わせも固定なので、一度調整してしまえば、後は微調整レベルです。短時間で良いセッティングができると思います。

機材持ち込みで撮影する場合でも、何度も撮影しているステージであれば、照明などの特性も分かっていますので、そう苦労はしません。しかし、初めての環境であったりすると、する事が格段に多くなり、時間との勝負になってきます。ここでは、そういう前提での苦労話などを書きたいと思います。


1.そこに居ない演奏者

撮影の準備をしていて、一番困るのは、カメラの前に演奏者が居ない事です。

ライブに出演する演奏者は、大抵ライブ前に音を出して音の確認や調整をします。ライブによっては、念入りにリハーサルを行うケースもありますが、慣れたメンバーの場合は、リハーサルも短時間で終わったりします。

演奏者は、リハーサルが終われば、ステージから離れ、食事や着替えをしたり、早く入店したファンと話をしたりしています。皆さんそれなりに忙しいので、カメラの調整のためにステージに戻ってもらう事は難しい雰囲気です。

お店に据え置きの機材であれば、リハーサル前にある程度カメラをセットしておいて、リハーサル中に被写体を確認しながら調整する事が可能でしょう。しかし、私のように、機材持ち込みで撮影をする場合は、出演者とほぼ同じタイミングで入店しますので、カメラをセットする前にリハーサルは始まってしまいます。

急いでカメラをセットして、ざっと画角とフォーカスを決めたあたりで、リハーサルは終わり、カメラの前から人が居なくなります。

さあ、被写体が居なくなった状態になると、撮影者は殆ど無力になります。被写体の居ない状態でフォーカスや露出とカラーバランスなどの細かい調整をする訳ですから、そこは想像と感が活躍する世界です。

露出やカラーバランスは、すこし調整不足でも見ていられますが、フォーカスの合っていない映像は見ていられません。人が居なくなったステージで、フォーカスをどう合わせるか、色々工夫はしてみましたが、結局は、人の代わりに何かを置くしかないという結論になりました。そこで、こんな簡単な道具を作ってみましたが、結構重宝しています。

フォーカス設定用ボード


2.動く演奏者

私が撮影するのは、ジャズやボサノバなどが中心のライブですので、ロックのライブのように、演奏者がステージを大きく動き回る事はありません。しかし、カメラを固定して、無人撮影をする関係で、演奏者の僅かな動きにも注意が必要になります。

(1)ボーカル

ステージ上で、一番動きがあるのは、やはりボーカルでしょう。

椅子に座って歌う場合は、あまり動く心配はありませんが、通常は立って歌うことが多いと思いますので、それなりの動きがあります。前後によく動く人、左右によく動く人、少し歩き回る人など、動きは人それぞれになります。何度か同じ人を撮影していると、その人の癖が分かりますが、初めての人の場合は、ちょっとドキドキします。

動きによってフォーカスが少しずれるのも、表現の一つだと思いますので、あまりパンフォーカスにするより、少し絞りを開けて背景をぼかした映像も雰囲気良いと思います。ただ、動いた後に定位置に戻らない場合もあるので、離れた所からズームアップして撮影する場合は、Wi-Fiでカメラをリモート操作できるようにしておきます。

少し横から撮る場合、2~3m離れた所から30mm F2.8で撮ると、1~2m位の範囲のフォーカスが許容範囲になって、雰囲気の良い映像が得られます。ボーカルが2人並んで歌う場合も、大抵この方法で対応します。

もう少し広角のレンズで撮影する場合、F2.8であれば、2~3m位の範囲がフォーカス許容範囲ですので、私は、保険として少し広角のカメラもセットするようにしています。

(2)ピアノ

ピアニストは、基本的にピアノの椅子に座っていますので、動かないように思いますが、鍵盤が左右に広いので、横には結構動いています。ピアノの撮影は大抵ピアノの横から行いますので、左右の動きは、カメラとの距離が変化する事になり、フォーカスに影響します。

近くから大口径レンズで撮影していると、結構ピンボケシーンが多くなりますので、少しレンズを絞って、被写界深度を深くします。この場合も、大抵はF2.8で撮影しています。

(3)ベース

ウッドベースは、楽器も大きいので、演奏者も基本的には動かないと思います。撮影側としては、とても助かるパートですが、前の演奏者が動くと、後ろに隠れてしまう事が多いので、その面で、カメラの配置には苦労します。

(4)ドラム

ドラマーは、ドラムに囲まれて身動き取れない訳で、動く心配はありませんが、もしズームアップして撮影する場合は、上体の動きに注意が必要になるかもしれません。私は、通常ドラムを広角レンズで撮影するので、あまりドラマーの動きは問題になりません。

(5)管楽器

演奏者は基本的に動き回ったりしませんが、演奏者の上体はよく動き、また楽器も前後左右に動く事が多くなりますので、近くから大口径レンズで楽器を撮影する場合は、注意が必要になります。通常は少し離れた所からF2.8で撮影していますが、近くからズームアップして撮影するような場合は、カメラを手元に置いてフォーカスを都度調整できるようにすると良いでしょう。

(6)ギター

ライブの撮影を始めるまでは気付かなかったのですが、ギタリストは、演奏中に手や指しか動かしません。たまに少し顔が動く程度で、微動だにしないといった感じですので、ギタリストの撮影には、F値の小さい大口径レンズが使えます。

F1.4とか、F1.8などの明るいレンズで少し寄って撮影すると、とても印象深い映像となります。撮影者としては、表現の自由度がありますので、とても好きなパートです。

但し、正面から見た時のギターの角度は、人それぞれですので、カメラのセット位置には気を使います。必ず、リハーサルの時に、ギターを持つ角度を確認しておく必要があります。


その他、ここに書けなかった色々な楽器もありますが、リハーサル中は、演奏者の姿勢や動き方を良く観察しておくことが重要になります。演奏者の姿勢や動きは人それぞれ。そこが撮影の工夫のしどころでもあります。

オートフォーカスの自動追従をONにして、フォーカスを追従させる方法もあるかと思いますが、カメラ任せは失敗するケースがあります。私は、過去の経験から、カメラのオートフォーカスの自動追従は信用していません。もっと良いカメラを買えば良い事なのかもしれませんが、少なくともギタリストの手元の微妙なフォーカス設定などは、自動では無理だと考えています。


3.映像の見えないカメラ

カメラをセッティングしていて、一番苦労するのは、後ろの液晶画面が見えないケースが多い事です。特に有観客のライブの場合、客席のお客様の邪魔にならないようにカメラを設置しますので、壁際などに配置する事も多く、後ろの液晶画面が見えません。HDMIケーブルを接続し、ビデオスイッチャーに接続すれば、モニターで映像を確認する事ができますが、画角の細かい調整などは、スイッチャーとカメラを行ったり来たりして調整する事になります。

Panasonicのカメラは、カメラとiPadなどをWi-Fiで接続して、映像を確認したり、設定を変更したりできますので、Wi-Fiで接続して調整すれば良いのですが、転送される画質が良くなく、フォーカスが確認しずらい事があります。また、カメラの台数が多いと、時間的に厳しくて、そんな悠長なことをしていられない時もあります。

Panasonicであれば、G8のようにフリーアングル液晶モニターの付いた機種を使うという手もあります。これから機材を購入する場合は、その辺も考慮に入れると良いでしょう。私は、予算も限られますので、中古のGX7MK2でもうちょっと頑張ろうと思います。

私は、ビデオスイッチャーのモニター用に、7インチの安いフィールドモニターを使っていますので、これを単体で持ち歩いて、カメラに接続して確認する方法も良いと思います。


4.変化する照明

運よく(?)リハーサルが長引いて、演奏者がステージに居る間にカメラの調整をできたとして、さて本番のステージになると、照明がリハーサルと違っていたりします。

初めての場所の場合は、一旦照明を本番用の照明にしていただく事もありますが、リハーサル中は強いスポットライトを避けるようにしていますので、出演者の顔の映り具合まではよく確認できません。微妙な所で露出やカラーバランスを迷う事が多いですが、最終的には、感で決めることになります。

背景が赤くなったり青くなったりするステージの場合、両方の色を綺麗に映す事は難しく、配信撮影を始めたころは、気にしすぎて結局カラーバランスを失敗する事がありました。今は、あまり背景を気にせず、顔色を優先してカラーバランスを決める事にしていますが、会場の雰囲気を上手く表現できない時もあります。この辺もさらに研究が必要な事項だと考えています。


5.衣装の色

衣装も、本番直前にならないと分からない事が多いので、出たとこ勝負ですが、白い衣装と赤い衣装は、いつも少し苦労します。

白い衣装は、清楚で美しいのですが、その質感を表現しようとすると、どうしても顔が暗くなりがちです。顔にライトが当たるステージの場合は良いのですが、照明が暗く、顔が影になるようなステージの場合は、衣装の質感と顔の表情のトレードオフになるケースがあって悩みます。通常のモニターで調整するのであれば、そう苦労しないのですが、配信は、OBSが絡んでくるので、実際に配信される映像の露出が意図通りではありません。モニターでは衣装が白飛びしそうな露出に見えても、実際の配信映像は、それで良かったりします。

赤い衣装は、とてもインパクトがあって、目で見るとすごく綺麗なんですが、私の使うGX7MK2では、赤がどうもオレンジ色っぽくなってしまいます。色温度設定を下げて少し青っぽいカラーバランスにすると、少し落ち着きますが、ちょっとくすんだ赤になって、あまり綺麗ではありません。これもOBSが絡んでくるので、せっかく調整したのに、実際に配信される色は、思ったよりオレンジ色がかっていたりします。

赤い衣装の見た目の華やかさを伝えようとすると、顔も黄色くなってしまい、難しい色です。これは、使っているカメラの問題もあると思いますが、他人の映像を見ても、あまり綺麗な赤というのはみかけないような気がします。イメージセンサーの限界という事もあるのかもしれません。

濃いブルーやグリーンなどの色合いは、映像としても綺麗であり、顔も明るくなり、映像も印象的になります。

茶色は、少し難しく、床や壁が木のステージだと、すごく地味になってしまうので、ステージによっては、避けた方が良い場合があります。逆に、背景が真っ白い壁だったりすると、引き立つ場合もあります。

一番リスクが高いのは、クリーム色です。私は、若い頃呉服屋に勤めていたのですが、クリーム色は色白の美人にしか勧めるなと言われていました。一般的に、クリーム色の衣装は、顔を暗くします。その先は細かく言いませんが、クリーム色の似合う人は、美人だと言って良いと思います。

濃い黄色の場合は、そう気にする必要はありません。だた、黄色は色温度の設定によって大きく印象が変わってくるので、撮影する側から言うと、ちょっと難しい色ではあります。

以上、映像側の勝手な独り言でございました。


6.パソコンとモニター

撮影する映像は、ビデオスイッチャーに接続したプレビューモニターと、パソコンのOBSの画面で確認しますが、どのモニターも、正しい色を表示している訳ではないという事を意識しておかなければなりません。

フィールドモニターも高価なものは、それなりに色を正しく表示できると思いますが、私か買えるような安価なものは、大体の雰囲気を確認できるレベルです。どうせOBSが明るさや色を変えてしまうので、あくまで画角やフォーカスの確認用と考えています。

最終的な映像の確認は、配信用のパソコンに表示されるOBSの画面で行いますが、パソコンのモニターも、正しい色を表示できる訳ではありません。パソコンに、カラーマネージメントのできる高価なモニターが付いていれば、問題ないのですが、そういうケースはまず無いでしょう。

もちろん、配信された映像を見る側のモニターもそれぞれなので、そう拘る必要もないのですが、パソコンによっては、かなり色合いが変わって見える事があります。最終的な映像の確認は、実際にテスト配信して、その配信映像をいつも使っているスマホ等で確認する必要があります。

もし、配信用のパソコンをこれから用意するのであれば、必ずIPS液晶で広視野角のモニターの付いたものにしてください。IPS以外のTN液晶などですと、配信映像の確認が難しくなります。

お店が主体で配信する場合で、いつも同じパソコンを使うのであれば、前回の配信映像をみて微調整して行く事も可能でしょうが、私のように、色々なパソコンと接続して配信を行う場合、パソコンのモニターの特性はすごく気になります。初めてのパソコンを使うケースで、テスト配信で事前確認できなかった場合は、祈るような気持ちで配信をスタートします。


7.カメラが足りない

ビデオスイッチャーは、4チャンネルの物が一般的だと思いますし、私も4チャンネルののビデオスイッチャーを使っています。当然、カメラは4台までしか接続できませんので、通常は4台のカメラで撮影する事になります。しかし、あと1台カメラを追加できると、ずっと映像の印象が良くなると思う事が多くなりました。

ズームレンズを付けたカメラをフルード雲台に乗せて、手元で操作できれば、1台のカメラで何台もカメラがあるような撮影ができますが、離れた場所から撮りたい場合は、そうもいきません。

私はいつも予備のカメラを持って行きますので、状況によっては、予備を使って5台目のカメラをセットする事があります。ビデオスイッチャーを1つしか持っていない場合、5台目のカメラを使う方法は次の2種類かと思います。

(A) 追加のカメラをビデオスイッチャーに接続せず、キャプチャーボックスを使って直接パソコンに接続し、OBSのシーン変更で切り換える。

(B) ビデオスイッチャーとカメラの間に手動スイッチを入れ、1チャンネルに入る映像を手動スイッチで切り換える。

操作の煩雑さは慣れの問題なので、どちらの方法を採用しても良いと思いますが、私は、(B)の方法を使っています。

手動切り換えスイッチ


手動スイッチは、1000円程度で入手できます。4台あれば、4チャンネルのビデオスイッチャーに8台のカメラを接続する事が可能です。

注意点ですが、手動スイッチは、HDMIケーブルを一旦切断して切り換える事になりますので、切り換えボタンを押すと、カメラとスイッチャーの通信が再開されるまでに、1~2秒映像が途切れます。したがって、切り換えは、そのチャンネルがアクティブになっていないタイミングで行う必要があります。最初は気を使いますが、慣れれば、間違えずに切り換えできるようになると思います。


8.おわりに

今は、お店の機材で配信用の撮影を行うケースが圧倒的に多いと思います。出演者が自分で配信するようなケースを除けば、私のように、機材一式持ち込んで撮影と配信を行う人はまだ少ないんだろうと思います。

ライブ配信も珍しさが薄れ、ライブ活動も少しずつ復活してきて、もう配信は旬を過ぎたという考えもあるでしょう。しかし私は、レストランが、デリバリーを重視し始めたように、音楽もデリバリーで楽しむ時代がやって来るように思います。

ライブ配信は、音楽のデリバリーです。レストランのデリバリーが、お店のクオリティーに近づける事を目指しているように、音楽のデリバリーも、コンテンツとして、鑑賞に堪える品質が求められてくるでしょう。

一方、ビジネス規模の関係から、ライブ配信にそうコストをかけられないのも現実です。今後、私のようにローコストで配信を行う人が増えてくれる事を願って、このnoteを書いています。

ライブ配信の今後について、今思うところを、次回のnoteに書いておこうと思います。


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