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私たちが見ていたあの日の景色

友だちと会う予定があって終電で帰宅。
駅を出たところで君に電話をかけた。でも、もう寝てるかなって鳴らしすぎたら起こしちゃうかもな。って、そんなに鳴らさずに切った。
さっきあの日の景色が鮮明に蘇った。駅を出たところの目の前の横断歩道での信号待ちのところ。
私はスマホに変えたばっかりで、君とのラインのやり取りを始めてまだ数日しか経ってない時だった。

翌日、予定が合えば一緒に行こうか。と話していた場所に君は来なかった。午前中に連絡を取り合って予定を合わせればいいと思っていたけど、君は電話に出なかった。LINEも既読にならなかった。
私は不貞腐れながら1人で出かけた。雨が降ったり止んだり、すごくどんよりした天気だった。
最近すこしすれ違うことがあったけど、連絡くれなくなるほどのことだったっけ?怒らせてしまったんだっけ?なんで連絡くれないんだろう。そのうち不安になってきた。

充電切れたかな?携帯無くしたかな?壊れたかな?
気に食わないことがあってもちゃんと言葉にして伝えてくれる人だったし、充電が無くなればその少し後に「ごめん充電が切れてた」といつもなら必ず連絡をくれていた。

おかしい。昨晩から連絡がついていない。
充電が切れたまま眠ってしまってまだ寝てるのか?もう午後なのに?
私の用事はもう終わってしまっていた。いつもなら途中から合流してお酒を飲んで楽しく過ごす。この日もなんだかんだこうなるんだと思っていた。でもおかしい。いつもと違う。

あれ。嫌われたのかな。怒ってるのかな。このまま連絡つかなくなるのかな。私何した?なんで電話に出ない?
いや、事故にでもあって病院に運ばれてる?突然倒れて連絡できなくなってる?
でも、嫌われてしまっているなら私の出る幕ではない??
えなんで?

君と連絡がつかないから家に帰った。
あんまり電話をかけすぎると嫌われると思って1時間おきにラインをしてみたり、電話をしてみたり。(もう電話はかからなくなってたかも)翌日の仕事の準備をしながら過ごした。

夜になってもっと不安になって。うちから君んちまでの終電がなくなる少し前、私は家を飛び出した。
とにかく不安だった。電車に乗ってる間中電話をかけ続けた。
友達に聞いたあいつと今一緒にいないか?誰も知らなかった。
連絡がつかないどうしよう。みんな返事が軽かった。そりゃそうか。
唯一、死んでるかもしれない。と伝えた友達がいた。
そんなことない。大丈夫や。そんな返事をくれたけど信じられなかった。
だって、ありえない。こんなに連絡がつかないことなんてなかった。何があっても私のことを考えてくれてたのに。

1時間弱、乗り換えは2回。最後の電車に乗りながら泣いた。涙が勝手に出てきて止まらなかった。
もう会えないと思った。LINE電話のコール音をずっときいてた。
もう、生きてない。なぜかそう思った。

君んちの最寄駅に着いた、走った。
全然走れなくて、こんな時に速く走れないなんて。とコインパーキングの隣の道を走っている時思った。

お互い自由に干渉することなく過ごしたかったから、家の鍵は渡してなかったし、もらってなかった。
でも、知ってた。
君の家に遊びに行った時、ものすごい秘密を打ちあけるように君は教えてくれた「ドア横の通気口から手を突っ込むとギリ手が届いて鍵が開けられるんだよ。服が汚れちゃうけどね。」
鍵が閉まっててもドアの開け方は知ってる。
でも怖かった。君の家に行って何があるのか、どうなってるのか、君に会えるのか。怖かった。全然速く走れなかったけど、家の前に着いてしまった。

寒いからと通気口はガムテープで内側から塞いであった。
剥がしてごめんね。後で謝ればいい。
怖いけど、そこから鍵を開けて中に入るつもりだった。

通気口に手を入れる前に一応ドアが開くか確認しようとドアノブを回してみた。
何事もなく空いた。鍵かかってなかった。
いよいよ、もう本当に死んでいるかもなと思ってしまった。
怖かった。とても怖かった。ドアを開けるのも怖かったし、中に入るのも怖かった。とにかく怖かった。

部屋の中は薄暗かった。
昔ながらのアパート六畳一間とお勝手の間取り、お勝手の小さな電気をつけて、六畳に入った。机がわりの押し入れに置いてあるパソコンの上のライトだけがついていた。布団が敷いたままだったけど、そこに君はいなかった。
古いアパートだったから電気のスイッチが壁になかった、君の家はリモコン式の照明でそのリモコンが見当たらない。
暗いの怖い。今でも暗いのすごい怖い。

薄暗い中、次にトイレ。もしかしたらここにいるんじゃないかと思っていた。トイレで倒れてしまったんじゃないかと。
また怖い。ドアを開けてみた。いなかった。
ここで少し安心した。いなければ生きてる。そう思った。

もうだめだ。これ以上書けない。
でも、君はもうこの世には居なくて、で、あの日の駅を出たところの目の前の横断歩道で信号待ちをしている時、寝てるかな起こすと悪いなと電話のコールを鳴らさなかった私を何度も悔やんだ。
まだ君が生きてたかもしれないあの時に自分の家に帰らないでまっすぐ君んちにいけばよかった。
戻れるならいつに戻りたい?その質問にはずっと戻らなくていい。と答える人間だった。それくらい過去はどうでもよかった。でも君が居なくなってからは君が生きていた時に戻りたいんだ。君と一緒に生きていきたかった。
一緒じゃなくてもいい。どこかで生きてて欲しかった。
会えなくてもいいから。どこかで笑って過ごしていて欲しかった。

君を止められるのは私だけだった。
私がみてたのはこんな景色。
大好きだよ。

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