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【E-M10】デイドリームのせつなさのワケ

シリーズ【マガジン:E-M10はいいカメラ

前回の続きです……が、直接のつづきではありません。

今日はE-M10に搭載されているアートフィルター「デイドリーム」について思慮したいと思います。


デイドリームはごらんのとおり、青かぶりをさせて明度をあげて、コントラストを下げます。

白昼夢(=デイドリーム)といわれるだけあってちょっとした非日常感をあじわえて、女子に人気のフィルターだそうです。アートフィルターの代表格ともいえるかもしれません。

さて、このデイドリーム……原理を知っていれば実はフォトショップで再現できます。

こちらは、E-M10のデイドリームをかけた写真です。

アングルが違いますが、こちらはかかっていない方の写真です。

これをPhotoshopで加工しますと……

だいたい同じになりました。

やることは、色相をやや青色にふって、明度を上げ、コントラスを下げるだけです。かなり単純な処理です。

この処理によってどうして「せつなさ」「なつかしさ」を覚えるかと言えば、これは銀塩時代のネガが古くなると現れる「黄色かぶり」、これをプリントしたときの劣化写真をエミュレートする処理だからです。

(デイドリームにはIとⅡがあって、Iがこの青かぶり、Ⅱが赤かぶり。Ⅱもネガフィルムの劣化表現のひとつです)

つまり、一瞬にして目の前の景色を劣化ネガ写真的に表現するのです。

みなさんは知らないうちに劣化したネガの写真、そしてそんな処理のされた映像を見せられています。そういうサブリミナルな無意識で見た瞬間にせつなさや懐かしさを覚えるのです。

しかしながら、劣化ネガと違ってディテールが鮮明ですから、そこに「古いはずなのにボケていない」という違和感を覚えます。

これがデイドリームがもたらす心理効果でしょう。

同じくトイカメラエフェクトは本当に古い写真をエミュレートするため多くの場合輪郭まで甘くしていきます。本来の意味で古くさくしてしまうのです。

デイドリームは「色あせてもディテールを失わない記憶」という気持ちを引き出すのかも知れませんね。

鬼籍に入られましたが、久世光彦氏の小説に「早く昔になればいい」というのがありました。

今切り取った思い出が「早く懐かしさを感じるような思い出になって欲しい」。
そういう気持ちを良く表しているタイトルで、デイドリームのコンセプトだと思います。

同じような考えはアメリカにもあります。「クラシック」という表現です。

特に良くゴルフのコンペで「XXXXXXクラシック」というのを耳にすると思います。

これは「今始まったばかりだけれど、これは歴史的な行事になるんだよ」という意味合いです。「コレは歴史に残るほどの格式あることだ!」の意味でもあります。

つまり「過去の先取り」を表現していて、まさしく「早く昔になればいい」と同意義であります。

自分の子供をこのフィルターをかけて撮ったとき、みょうに胸がきゅんとするのは、地球上で人間という種が唯一持つ「過去を顧みて未来を思う」という能力が作用するからなのだと思います。


よくデイドリームひとつでここまで語れたな……。
早く昔にならなくていい。

【続く】




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