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阿蘇がよく表現された音楽ー南阿蘇②

トロッコ列車が中松駅に入線すると、隣にはあのMT-4000形が停車しておりました!
眩しいほどに真っ白な車体に、流線型をモチーフにした、白川の青系統3色の中心的なラインと、阿蘇五岳の緑系統2色の背景的なラインが滑らかに流れておりました。
写真で見ていたよりも、何億、何兆倍もの輝きを放たれておりました。

トロッコ列車を降りて、お隣のホームに移動。
すると正方形がななめ45°傾いたような特徴的な駅舎の中に『秘密基地ゴン』さん、というカレー屋さんから美味しそうな香りが漂ってきました。

そしてついに乗車。まもなく発車。
車内チャイムとして使用されるとのお話でしたので、心の臓をバクバク言わせながら、再生される瞬間を今か今かと待っておりました。
自分の楽譜を音にする緊張感は幾度か体験してはいましたが、今回も同様、音一つ一つに対する責任感に絶大な緊張を感じておりました。

と、その瞬間を待っていると、先ほど乗車したトロッコ列車の乗務員さんが、再び観光案内を始めてくださいました。
なるほど、土日も普通列車は観光案内か!
ということで、少しロスだった案内を再び聴くことができた喜び・安堵感と共に、メロディは平日の明日へ持ち越しか、と
油断したその時。列車の扉が開く時でした。

『♪〜 この列車は、高森行きです。』

あれ、このタイミングで再生…?
予想だにしていなかった使用用途だったため、一気に顔面と脳が熱くなるような感覚に見舞われました。
初めて生で聴いた自作音源、この時点では本当に実感が湧かず…。そんな私はただただ車内を眺めながら『今、乗客の否応なしに、自作音源が彼らの耳に届いているんだ。』と、事実を受け入れることに専念しておりました。

私は高森駅に到着した後、もう一度新型車両を堪能しすべく中松駅まで足を運び、もう一度トロッコ列車で高森駅に帰りました。
乗務員さんは全く同じ方だったため、
『あ、そろそろあのカッパの話が…』
『あぁ、南阿蘇鉄道ぐらいですよね、こんな理由でスピード落とすの…』
と2往復ならではの楽しみ方ができました。

高森駅に再度到着した後、メロディに関する担当をしていただいた、総務課の職員様へご挨拶に伺いました。
実は、新型車両のデザインを統括された方で、その方に新型車両のメロディの担当をしていただいていること、大変感慨深く思います。

お忙しい中少しだけお時間をいただき(といいながら、想像を遥かに超える程のお時間を割いていただき、心より御礼申し上げます…。)、お話しを聞かせていただきました。
個人的には圧倒的に時間が足りなくて、まだまだお聞きしたかったお話がたくさんございましたので、少々後悔が残っております…(泣)

そのお話の中で心に残ったお言葉が『阿蘇がよく表現された、お洒落な音楽を、ありがとうございます。』という、お礼の言葉です。

お褒めの言葉を自らつらつらと語るのは少々お恥ずかしいですが、南阿蘇鉄道で一生懸命業務されている方から直々に頂いたお言葉ですので、ぜひ誇らせてください。

私が案内メロディ『恩恵』を制作した際、白川水源や阿蘇五岳の映像を視覚的に感受してインスピレーションを受けたことは確かですが、それが結果的に音楽として人の耳に届いた時に『これは水源を表現したの?』『これは阿蘇山を表現したの?』と言う問いに、安易に『正解!』と返答するのを、私は避けたいです。

なぜなら、私がこのメロディを作る際に大切にしたことは『乗客の想像力を掻き立てるような、余白や行間の多い音楽にしたい。』だからです。

駅メロディは確かに『サイン音』ですから、
皆さんが"山"という字を見た時に『これは山という字だ!』と読み取るように、駅メロにおいても、聞いた人からサイン音に対して『発車する音楽だ』という、一方通行のやりとりで終了してしまいます。

しかし、南阿蘇鉄道様は観光に軸を置いているという情報を目にしたので、利用客の想念を大切にしたいと、と考えました。
そのため、皆さんが鳩そのものを見た際、『平和の象徴だ。』と認識するように、そこにはない別の概念を彷彿とするような"サイン音"を目指しました。

その意図を現実にするために、和音や音色にさまざまな工夫を施してみましたが、ここで語るのは少し控えさせてください笑

もし、意識して聴いてくださる方がいたら、目に入った風景や、自分の感情と照らし合わせてみてください。そこで感じた、この音楽に対するあなたの感想が、正解であるべきです。

そんな中いただいた『阿蘇が表現されたお洒落な音楽』という感想。

東京では見ることのできない、無限に広大な阿蘇の夕空。鹿児島に住む祖父が、自分が小さい頃教えてくれた『夕焼けが綺麗やから、明日は晴れやね。』という言葉。
そして、担当者様から直々にいただけた、至極なお言葉を以て私は『この車両のメロディは自分の音楽なんだ。』と、自然や人情の恩恵を体感した上で、しみじみと実感すると共に、責任を感じました。

改めまして、このような素敵な新型車両に私の音源を使用してくださり、心より感謝申し上げます。

この先も、ずっと晴れますように。

(高森駅の駐車場で1時間弱滞在して夕陽をずっと観察していました…)

最後になりますが、その担当者の方に質問することを決めていたのに漏らしてしまったことがあります。それがこちらの写真。

私から見て、左側の青いラインは途切れなくつながっておりますが、右側は少しだけ途切れております。
これは意図したものなのか、それとも視覚的な感覚で、この方が違和感が無かったのか存じ上げませんが…。

私は勝手に2つ考えました。
1つ目は、この車両が全線開業する以前に導入されたことを意味する、これから繋がる、という希望の印。

2つ目は、この前面を見た人に向けて『完璧じゃ無くてもいいんだよ。』という慰め・励ましのメッセージ。

この点線は、そんな行間や余白、、なのかも、、。

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