科学的知識入門④
信頼性のある科学的知識を見極める方法
さて、一番最初の疑問に戻ってきた。
われわれ素人が科学的知識を判断するとき何ができるだろうか。
これには、二通りのやり方があるように思える。
・専門家に任せる
・自分が知識を増やす
自分が知識を増やすのはまあ当たり前として、なぜ専門家に任せるのが重要なのだろうか。
この図をもう一度見てほしい
この図は「誰の」目線なのだろうか。
それは、その専門分野の科学者である。その専門分野の科学者が知識と結びついているかどうか判断するのである。
科学者はその分野の多くの知識を持っているし、その分野の方法論を身に着けてるし、科学者の規範を守っている。
素人は知識を持ってないし、方法論を身に着けてないし、自分の政治的意見に合わせて科学的知識を選んでしまう。
だから、科学者に任せることが必要なのである。
「教科書や論文を読めば、知識だけなら素人でも専門家並になれるのでは?」と思う人もいるだろうが、それは違う。
科学者集団の中にいるからこそ持てる知識もある。
特定理由の要件や暗黙知である。
特定理由の要件
伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』(名古屋大学出版会)p183より引用
科学の各分野ごとに、論文が受け入れられるためにはどういう疑念に答えておかねばならずどういう疑問は無視していいか、他人の論文に対してどういう理由でなら相手の主張に疑念をはさんでよくどういう理由ではだめかについて(かなりの部分まで暗黙の)ルールを持っている。
暗黙知
ハリー・コリンズ『我々みんなが科学の専門家なのか』(法政大学出版局)を参考
暗黙知は言語で明示的に表現できない、科学者集団に入り込むことによって身につく知識である。暗黙知は科学者集団との交流によって獲得する。具体的には、どの論文が重要で、どの論文は無視しても良いか判断する力や、どこにも明文化されてない実験のコツである。
さて
・専門家に任せる
・自分が知識を増やす
についてもう少し詳しくみていこう
(話の流れをぶった切るがここで、科学哲学の本を紹介しておく。)
はじめの一冊におすすめ
・科学的思考のレッスン 戸田山和久
・科学哲学 サミール・オカーシャ
入門書
・科学哲学の冒険 戸田山和久
・疑似科学と科学の哲学 伊勢田哲治
・理系人のための科学哲学 森田邦久
・科学論の展開 A.F.チャルマーズ
科学者が書いた科学について
・科学はなぜわかりにくいのか 吉田伸夫
・科学哲学へのいざない 佐藤直樹
・物理学者が観た哲学 第四章 谷村省吾
http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/time/note.html
②専門家に任せる
注意点は三つ
「あなた、本当にその分野の専門家?」
「あなた、科学者の規範守ってる?」
「あなた、他の研究者にどう評価されてる?」
「あなた、本当にその分野の専門家?」
博士課程、大学教授はそれだけでは信用できない。
今自分が知りたい情報の分野の専門家なのか見極める必要がある。
名前を検索して、なんの専門家なのか、どの学会に所属しているか、どんな本をどの出版社から出してるのかを調べよう。
(分野というのは心理学、化学とかの大きな分類ではなく、心理学で言ったら犯罪心理学、臨床心理学などまで知る必要がある。)
見分ける方法
発言者が主張に対して、限定条件や限界、前提条件、信憑性について述べている、あるいは意識している。
「あなた、科学者の規範守ってる?」
ここでいう規範はマートンの、1普遍主義、2共有主義、3利害関心の超越、4系統的懐疑主義だ。
普遍主義を守っていない科学者は論争において人格攻撃だけをしている。
共有主義を守っていない科学者は科学者集団に情報を共有しない。
利害関心の超越を守っていない科学者は、政治的イデオロギーや企業からのお金で動く。
系統的懐疑主義を守っていない科学者は、研究結果をマスコミや一般読者向け本だけに提供していて、科学者集団の吟味を受けない。「他の研究者たちはみんな間違っている」などと科学者の吟味も受けず言い出したら危険である。
また断定するような口調で話している人は要注意である。普通の科学者は条件をつけたりして、断定はしない。
「あなた、他の研究者にどう評価されてる?」
重要な研究なら、他の研究者が後続研究を開始してる。後続研究が全くない学説は信用できない。科学は集団的な営みで正しいかどうかを徐々に判断していく営みだからだ。
③知識を増やす
知識の増やし方は、
・1からまんべんなく勉強しなおす
・科学と現実の問題が交差する分野から勉強を始める
がある。
1からまんべんなく勉強しなおす
中学理科、高校理科、大学の理系分野をちゃんと1から勉強する。(そんなやる気のあるひとはいないと思うが)
基礎的な科学の知識については国のプログラムに従って、中学と高校の内容を学べば良い。
専門家たちが何年もかけて教える内容を厳選してくれている。
教科書が味気なくて嫌なら、教えるプロがわかりやすい参考書を書いてくれてるのでそれらで学ぼう。参考書の紹介サイトは腐るほどあるので、それらを参照してほしい。
また、今の時代解説サイトはいくらでもある。
(数学も学ぼう。大学の理系分野を学ぶためには、中学と高校の数学が必須になる)
さて、大学の内容はどうすればいいだろうか。
大学数学に関してはYouTubeのヨビノリチャンネルが参考になる。
(理系分野の前準備としては、ヨビノリで十分。以降は、理系分野を勉強していて必要になたら大学数学を勉強する)
以下、大学内容の生命科学と化学と物理の良さそうな入門書を紹介する
生命科学
・アメリカ版大学生物学の教科書シリーズ
・エッセンシャル・キャンベル生物学原書6版
・理系総合のための生命科学第5版〜分子・細胞・個体から知る“生命"のしくみ
化学
有機化学
・困ったときの有機化学
無機化学
・理工系基礎レクチャー無機化学
物理化学
・量子化学基礎からのアプローチ
・基礎コース物理化学Ⅰ量子化学
・基礎コース物理化学Ⅲ化学動力学
・基礎コース物理化学Ⅱ分子分光学
・見える!使える!化学熱力学入門
分析化学
・基礎から学ぶ分析化学
・基礎から学ぶ機器分析
物理
力学
・考える力学
解析力学
・よくわかる解析力学
電磁気学
・電磁気学 初めて学ぶ電磁場理論
熱力学
・熱力学を学ぶひとのために
統計力学
・統計力学を学ぶひとのために
量子力学
・よくわかる量子力学
最先端の内容に関しては、ブルーバックスなどの新書で勉強しよう。
・特定の現実の関わりある分野から勉強を始める
遺伝子組換え作物、地球温暖化、エネルギー政策など現実と関わりがあって興味のある科学の分野を中心に知識を広げるやり方がある。
例
遺伝子組換え作物の簡単な本をまず読む。そして、よくわかんない科学用語をインターネットでどの分野の知識なのかを調べ、図書館でその分野の入門書を何冊か借りる。遺伝子組み換えの話題なら、例えば「遺伝子ってそもそもなんだ」となり、図書館で中学理科の本や上で紹介したような大学の生命科学の本を借りる。そして、また遺伝子組み換えの話題の本を読む。以下ループ
興味のある科学分野が無かったら、
科学技術をよく考えるークリティカルシンキング練習帳―
を読んで見つけてください。