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歯をなおした

この場合の漢字は、治した、でもあり、直した、でもある。
ばかすか麻酔を打ってもらったので朦朧としており、少し休んでいってくださいと言われた歯医者の受付でこれを書いている。

東京から兵庫へ帰る時、これまで忙しくてやれなかったことをしようと考えた。そのうちの1つがきちんと歯医者に行くことだった。

演劇は長時間労働だ。歯医者のやっている時間帯には間違いなく仕事が入っている。振り返れば2017年2月から休み無しで公演を入れてきた。渋谷の人気の歯医者は腕は確かだが予約が取れず、必要なはずのメンテナンスも見た目だけにかかりきりになっていた。(怒られそうだが、虫歯を置いておいてホワイトニングをしたりしていた) しかし、当然のことながら、審美だけが歯医者の仕事ではない。健康のために医者はあるのだ。(自費診療ばかりやってきたから忘れていたが、歯医者って保険の効く医者だもんね)

それに、思い出したのだ。8月の公演が終わった時。なんとなく、人生は長いということを。いつ死んでもおかしくない日々だった。数年、これを口にできないほど、逼迫した死が、いつでもわたしの後ろにかまえていた。けれど千秋楽が終わった夜の最終電車で、わたしはこれから長く生きていくのだろう。と、思った。感じた。確信した。最終の東急東横線。

ということで、9月から高校生の頃に通っていた歯医者に行きはじめ、あと二回で治療が終わる。 保険で虫歯を治し、自費で見た目を整えて、笑う時に気を使わなくてよくなった。ずいぶん気分が良い。

自分のためにゆっくり病院に行くこと、これが贅沢な数年間だった。この贅沢ができただけでも、帰郷した甲斐があったし、この贅沢を贅沢と思わないようになるまで、実家にいたいと思っている。



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