春雪

その日は凍てつく寒さだった。花街の朝は存外に早い。煎餅布団から抜け出した私はあさげの支度をするために慌てて木綿に袖を通していた。

あっ、雪

わたしにとって大森に来てから初めての雪だ。すとっ、すとっと地面に染み込むように落ちてくるそれは故郷のものより粒が大きい。「ほら皆、ぼた雪だよー」台所の方から声が聞こえる。

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