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憩いの空間「文壇バー」/さいとう・たかを※銀座百点より

今日は、20代の頃から愛読している銀座のフリー冊子
『銀座百点』の中から心にとまった漫画家のさいとう・たかをさんの
投稿をご紹介させていただきます。(上記画像は文壇バー「ルパン」)

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毎日のようにニュースでは世界中に蔓延した「新型コロナウィルス」の
話題ばかりである。
その恐るべき「新型コロナウィルス」は銀座の行きつけの文壇バーを
ここ数か月にわたり、コロナウィルス禍へと陥れている。
渦中の経営者やママ、従業員はさぞ不安や、失望落胆のうちに
過ごしているだろうと思う。
このような事態になるとは今年の1月頃までは思いもよらなかった。
締切後のひと時や、イベント帰りの時などにふらっと訪れては気分
転換していた銀座での憩いの時が、今では懐かしく思われる。
私は今年で画業65年を迎えたが、このような状況を一度も経験
したことがない。
若い頃は徹夜で仕事に追われた後、なじみの店に顔を出し英気を
養ったものだ。
しかしながら、今や持病があり高齢の私は「新型コロナウィルス」の
格好の標的である。
少しでも応援にと銀座へ向かいたいと思うが、周囲の者が許すはず
もなく、不本意ながら歯がゆい思いでいる。
そのようなときにこのエッセイの依頼が来た。
私は物書き専門ではないが、銀座に想いをはせながら少しでも
銀座の方々に私の銀座への想いが伝わればとペンを取った。
私は若い頃から地球に害をなす「人間」に疑問を感じ悩んだが、
この与えられた不思議で、精巧に動く肉体に気づき、大いにこの
肉体を楽しんでやれ、と思うようになった・・・・・・・・
その思いは今でも変わらない。
絵を描くのが好きで、幼少の頃から絵を描いていた。
ある時、同級生が持っていた手塚治虫先生の長編デビュー作
『新宝島』を見て驚いた。
「紙で映画が作れる!」当時から映画マニアだった私は、この
「漫画」と言うジャンルの将来性に確信を持ったのだ。
大半の作家は漫画が好きで、この道を選ぶ人が多いが、私は
最初から「職業」として、この道を選択したのだ。
それから姉と二人で実家の床屋をこなしながら、夜な夜な創作
活動に励んでいた。
あしかけ2年ほど費やしたが姉の協力もあり、1955年『空気男爵』
という作品で漫画家としてデビューできた。
時に「天才」と呼ばれる同業者もいた。
描きたいように作品を描き、多くのファンを掴む・・・・・・、
だが私の場合は、計算づくで作品を創作する。
常に読み手を意識しながら進めていく・・・・・。
花火で例えると「花火師」。職人魂を持っている花火師は、
おそらく打ち上げた自分の花火など見向きもせず、花火を見ている
観客の反応を観察しているはずだと思う。
デビューしてから3年めの1958年、28歳の時に劇画仲間3名で上京。
さらに2年後、国分寺に「さいとうプロダクション」を設立した。
それからというもの作品制作に没頭し、貸本屋向けの作品を数々
生みだしていた。
たまたまスタッフと観に行った映画『007』シリーズの第一作「007は
殺しの番号」を観て、「これを劇画にしたら面白いね!」と語り合って
いたところに、偶然にもタイミングよく「映画007シリーズを劇画化して
欲しい」と話が持ち込まれ、小学館の「ボーイズライフ」誌で、「映画
007シリーズ」の連載が1964年にスタートした。
忘れもしない28歳の時であった。
貸本屋作家から、商業雑誌作家として荒波に漕ぎ出していった
のである。
丁度その頃、先輩の小島功先生に誘われ、銀座の文壇バー
「眉」に行ったのが私の銀座デビューとなった。
それからおもにお世話になった店は「数寄屋橋」「摩里」「まり花」
「あし田」「ザボン」などである。
今は亡き石ノ森章太郎氏、今でも元気過ぎる藤子不二雄Ⓐ氏、
朋友同士3人で楽しく飲み明かした銀座のひと時は、今でも古き
良き時代の私の思い出となっている。
人間関係が希薄になっている昨今、大人の社交場である銀座の
文壇バーは今のこの状況に負けずに頑張ってほしい。
バブルの崩壊やリーマンショック等と、これまでの数々の困難な状況
をもたくましく乗り越えてきたのだから、今回も銀座魂を武器に
乗り切って欲しい。

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1955年創刊の「銀座百点」は、B6サイズ約90ページで、バックに
入れて持ち歩いても邪魔にならない。
様々なジャンルの方が、対談したり執筆したり、店や画廊など以外に
映画・音楽・本の情報など銀座の旬情報がギュッと詰まっている。

銀座のどこへでも1人で行ける私でも常連客が多い「文壇バー」
は、行ったことが無い。ホテルのバーとはわけが違うと思うから。


本当に銀座を愛する1人として、活気がない銀座の街のままでは淋しい。
今では銀座に行くのが最低月1回、になってしまったが、
心から「ハレ♪」気分になれる街に戻ってくれることを切に願っている。

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