気が付いたら幽狐に癒されています
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【2話:幽狐さんの学生生活】
幽狐さんが小日向葵先生だと発覚し、さらに告白まで受けて挙句の果てには神社の神様と混浴をしたその夜のこと。
「幽狐さんって神様の中のどのくらい偉い人なんですか?」
「わらわはーー…………。多分一番上じゃの。最年長じゃしな」
「そうなんですね。見た目とのギャップがすごいですね」
「そうかの?」
「そうですね。周りの人が見たらロリにしか見えないですよ」
「『ロリ』とはなんじゃ?」
「いわゆる小学生以下の女性のことですね。見た目がその人のことでも年齢が小学生ではなかったら『合法ロリ』と呼ばれたりしますね」
「難しいの……」
「現代は新しく作られた造語もたくさんありますからね」
そんな他愛のない会話しながら寝る順にを始めている。
なぜか同室で。
「そして俺からの疑問もいいですか?」
「なんじゃ?」
「なぜ同室ッッッッッッッッッ」
幽狐さんが「え? 今さら過ぎねえ?」みたいな顔してる。
またなんか考えてるんだろうな……。
「なぜって……。付人じゃしそれくらい普通じゃないのかの?」
「他の人は知りませんけど俺は普通じゃないです!!!」
全力で講義をする。
何事もないように話が進んでいくのが怖い。
しかも幽狐さんは動揺を一切しないところも慣れてるのだろうなと感じてすらしまう。
「なにをそんなに焦っておるのじゃ。誰に監視されてるわけでもなかろう。じゃから何も心配いらぬはずじゃ」
「そうだけどそうじゃないでしょッッッッッッ!!!!!!!!!」
幽狐さんが「うるせえなこいつしばくぞ」的な顔してるー。
すっげえ怖え。
と思ったらすごく悲しげな顔になった。
「香はわらわとの添い寝は嫌なのかの……?」
「うぐっ……」
無論、嫌なわけがない。
嫌と思う方がおかしい気がする。
だけど単純に恥ずかしいのだ。
「いやじゃないですけど単純に恥ずかしいんです……」
「ふむ……」
あ、何か考えだした。
なんか嫌な予感がするなあ……。
「ならこうはどうかの」
そういって幽狐さんは布団を横にくっつけた。
「これなら添い寝ではないしマシじゃろ」
ほぼ添い寝みたいなもんですけどねそれ。
より悪化してないですか?
とは突っ込まなかった。
突っ込んだら負けな気がしてできなかった。
「ま、まあそれならいいですよ」
なぜか自分は許可をしていた。
いやなんでだよ。
幽狐さんは満足気味に笑顔になってカラカラと笑う。
「そうじゃお主よ」
「なんですか?」
「お主の学校? に行ってみたのじゃが」
「え…………」
また変なこと言い出したよこの狐。
「えっと、また保健室の教師になるんですか?」
「違うのじゃ。お主と同い年になって授業を受けてみたいのじゃ。……ダメかの?」
うるうるとしたまなざしで見つめられたら許可できないものもできそうで怖い……。
と内心では思っていたが。
「別にいいですけど、入学試験……いわば入学するのにふさわしいかどうかの判断をするテストがあるんですけど、大丈夫ですか?」
口では正直らしい。
うちの高校の女子は最近では珍しいセーラー服だ。
下心の「幽狐さんのセーラー服見たい」にきっと負けたのだろう。
今回は仕方がない……。
「あ、そういえば」
「うぬ?」
「うちの高校って情報技術を扱う学校なのでPCかスマホがないと厳しいので明日にでも買いに行きましょう。
幸いなことに明日は祝祭日。
スマホを買うにはちょうど良いだろう。
「ではそろそろ寝るとするかの」
「そうですね」
そういって瞼を閉じた。
次の日。
朝早くに起きた俺、香はルンルン気分で今日の出かける準備をする。
幽狐さんは俺より早くに起きて俺を起こした後「準備をしに霊界に行ってくるのじゃ」と言って出て行った。
着替えなどを持ってくると言っていた。
幽狐さんがどんな格好で来るのか楽しみで仕方がなかった。
少し不安があるが。
いつも時間をかけない髪セットに五分以上時間をかけ、朝食は外で絵食べるため少し我慢をし、ニュースなんかつけてしまった。
『今日の運勢一位はかに座のあなた! 何事もうまくいくでしょう!』
「あっふーん」
そういって秒でテレビを消す。
起動中のテレビが即電源を切られたことにより「ブチッ」といっていた。
視聴時間が五秒なのに対し誰も突っ込まない。
「そっか、ひとりってこういうことか……」
昨日は一日中楽しかったし騒がしかった。
だからだろうか。
一日しか経ってないのに少しさびしさを抱いていた。
「っと……。そろそろ時間か。……行こう」
スマホを買いに行きそのついでにいろいろなところを回るいわゆる「デート」を遂行するだけの単純なスケジュール。
なのに異様なほどウキウキしている自分がいる。
初デートは初恋した相手かつ現恋人という最高のスタンスだった。
問題点は相手が神様だということだけだ。
集合場所は渋谷にあるとあるオブジェクトという定番だったが幽狐さんはうれしそうにしてくれた。
集合場所に集合時間の五分前についた。
(よし、ここは順調だ)
すると。
軽めの白色スカートに夏用のニットというラフな組み合わせ。
前は開けてあり下のシャツには小さく「っょぃ」と書かれていたいかにも現代風の女性が立っていた。
問題なのはその女性が和傘を差していたしたことだった。
(………………)
率直にめっちゃ目立っていた。
洋服に和傘という案外合わない組み合わせをしていたのは幽狐さんの何物でもなかった。
(何やってんの幽狐さん……。普通にくればいいのに)
あの中に行くのはかなり勇気がいることだった。
だけど幽狐さんが俺を見つけて駆け出してきた。
「香ー! 待ってたのじゃー!」
「幽狐さん、ストップ。和傘が目立ちすぎている」
「なんじゃ。わらわのおしゃれアイテムなのに……」
「俺は構わないんですけど周りからの視線が大変なことになってます。注目の的です」
「なんじゃつまらん」
そういって幽狐さんはしぶしぶ傘を閉じてなんか四次元ポ〇ットみたいな亜空間に傘をしまった。
「何でもありですね……」
半ば呆れていたが、傘をしまってくれたのでとりあえず良しとしよう。
「じゃあ、行きましょうか。スマホを買いに」
「そうじゃの」
そういってスマホを買う、もといデートが始まった。
手はしっかりと握られている。
まず向かったのは携帯ショップ。
まあ、スマホを買うとなると行くのは当たり前だろう。
「なんじゃこの薄っぺらい板は」
「それがスマホですね。ここの電源ボタンを押せばつきます」
「おお、光りよった。どういう動作なのじゃ?」
「スワイプとタップがメインですね。アプリにもよりますけど多分幽狐さんはゲームとかしない気がするのでそこまで気にしなくて大丈夫です」
「アプリ……?」
あ、完全に理解してないなこれ。
この辺りは時代を重ねた人という感じがして反応が面白い。
「問題なのは幽狐さんにマイナンバーカードとかがないので、俺とは別の回線にしちゃいますね。幽狐さんは電話とメッセージどっちが好きですか?」
「まいなんばー……? 「でんわ」は好きじゃが「めっせーじ」とはなんじゃ?」
「マイナンバーに関してはまた後日説明します。メッセージはスマホを使って文字を瞬間的に送信することですね」
「なんと! 時代は文通をせずとも相手に瞬間的にメッセージが送れるのか! 発達したの……」
感動したり疑問に思ったりの反応が面白い。
完全に反応はおばあちゃんだけども……。
そんな感じでスマホについてという超基礎的なことから説明し、スマホの操作方法は少しだけ説明した。
「とりあえずここで時間食っても仕方ないのでちゃっちゃと契約しましょう。幽狐さんはどのスマホがいいですか?」
「ふーむ……。これかの」
幽狐さんが手にしたのは4年前に発売されたiPhoe〇e12。
大して安いというわけでもなく、多少高価だが、まあ幽狐さんのためなら買ってしまう。
なんかやることが推しに貢ぐオタクみたいだった。
「香や。これはいくらぐらいするのかの?」
「そうですね。値札的には十万円程度といったところでしょうがまあしばらく使うのであればそのくらいになるのかなと」
「じゅ、十万……。どうしてこのようなものがそんなに高いのじゃ?」
「簡単に言えばそれあれば割と何でもできてしまういわば魔法の板と言えば伝わりますかね」
「そうなのかの……。香のお財布は大丈夫なのかのかの?」
「まあ、多少は高いですけど幽狐さんのためら何ともないです」
「そうなのかの……」
あ、幽狐さんがにやにやしてる。
喜んでもらえたようなのでそれで満足した。
幽狐さんのデレた姿はしっかりと網膜に焼き付けた。
「じゃあ、契約してきますね」
「了解なのじゃ」
そういって幽狐さんといったん離れる。
「すいません、新しいスマホの契約なんですけど…………」
しばらくして契約が完了して幽狐さんにスマホを渡す。
機種はiPho〇e12の128GB。
幽狐さんの容量的にそんなにスマホを使うかどうかは知らないが多くて損はないだろう。
「はい幽狐さん。これが幽狐さんのスマホです」
「うゆ! ありがとうなのじゃ!」
幽狐さんが単純に喜んでいる。
かわいい。
「じゃあ、さっそく慣れながら移動しましょうか」
「そうじゃの!」
そういって携帯ショップを出る。
「これがカメラアプリで、タップすると起動します。それで、ここを押すと写真が……」
説明をしながらスマホ慣らしをしていく。
「香よ。撮影した写真はどこで見れるのじゃ?」
「それは『写真』と書かれたアプリがあるのでそれを起動すれば見れますね」
「なるほどの……。覚えることが多くて大変なのじゃ」
「時期に慣れますよ」
そう言って幽狐さんはスマホをまだ練習していた。
「今日はスマホ契約がメインですけどどうせならほかのところも行きませんか?」
「うむ! どこに行くのかの?」
「何も決めてません」
行く当て、ツテなし。
完全にのんびりしようと思っていたのだ。
「なるほどの。今日は『のんびりデー』とやらなのか」
そんな単語どこで覚えてくるの……。
ええい、気にしたら負けだ。
気にするな。
「幽狐さんは現代数学などはできる方なんですか?」
「うーむ、古文や漢文なら得意じゃが最近の授業とやらはカリキュラムがかなり代わっているからの。ぶっちゃけあんまり自信がないのじゃ」
「じゃあ必須五科目系は全部教える必要がありそうですね。あとうちは古文漢文は出てきません」
「なんじゃと……」
「まあ、潔く勉強した方が吉ですね」
「頼むのじゃ……」
幽狐さんとそんな雑談をしながら、近くの喫茶店に入る。
その後も洋服を買ったり、アイスを共有したり、はたから見たらただのデートを楽しんだ。
はたから見たら何の変哲もないが、俺は初めてのデートだからかなり緊張している。
それでもいいかなと感じる。
だって、相手は——初恋の人なんだから。
好きな人——それも初恋の人とならばどんなところでも楽しいに決まっている。
カフェに入ってしばらく読書をしていたら幽狐さんが言った。
「たまにはこういうのも悪くないの」
「……そうですね」
何もしない休日。
それでもいい日になった。
「とりあえずは家に帰ったら勉強ですね」
「難しそうなのじゃ……」
「幽狐さんになれば簡単だと思いますよ」
「そうだといいのじゃが」
互いにコーヒーを飲み干し、咳を立って家に帰る。
「……幽狐さん」
「なんじゃ?」
俺は思っていた内心を幽狐さんに伝える。
「俺、幽狐さんに思ってたことがずっとあるんです」
「思っていたこと……」
何を察したのか、幽狐さんが少し戸惑いの顔になる。
「俺、幽狐さんがいないと寂しいっていうことを今日気が付いたんです。たった一日かもしれない。短すぎるかもしれませんが、幽狐さんの大切さに、人がいないことの寂しさに気が付いたんです。あれほど「大丈夫だ」と自分に言い聞かせてましたけど、実はそんなことないんだな、って思いました。だから——」
俺は思っていた感情が一度放たれると止まらなかった。
本心からの感情があふれ、涙が出そうにすらなった。
一人の寂しさ。
人間の弱さ。
——そばに人がいてくれる大切さ。
そして俺は一つのことを決心した。
「——幽狐さんのことをもっと教えてください」
「————っ」
幽狐さんは涙目になっている。
うれし泣きなのか、余計なお世話という感情なのか。
でも、俺にはその感情はすぐ読み取れた。
幽狐さんの何を教えてほしいとか、どんな感じで教えてほしいのかとか。
そういうのは一切言っていないのに。
「もちろんじゃ」
OKの返事をもらえた。
「じゃあ、今度こそ帰りましょうか」
「そうじゃの」
手はしっかりと握られている。
家までの帰路を、歩く。
それだけでも十分に幸せな気持ちになった。
まずは受験勉強が始まった。
驚くことに幽狐さんの理解力が人以上に優れていて一回か二回ぐらいのミスしかしなかった。
そして好きな人と過ごす夕食は、いつもの何倍もおいしく感じて。
そして迎えた編入試験当日。
正直、不安が全くないとは言い切れない。
だけど、幽狐さんを信じることしか今の自分にできることはないから、最大限に幽狐さんを信じ、祈っていた。
やることが最大限に不審者だったため、クラスメートに「お前何やってんの?」と咎められたりもした。
でも俺のできることは何も変わらなかった。
授業が終わり、ちょうどお昼ごろに編入試験も終了した。
「香ーー!! 終わったのじゃー!」
「お疲れ様です。きっと大丈夫と信じていますがどうでしたか?」
すると幽狐さんは自信満々で親指を立てた。
「香のおかげで全部埋まったのじゃ。自信も結構あるのじゃ」
「おぉっ」
俺は安堵した。
幽狐さんがそういうなら大丈夫だろう。
あとは合否発表日を待つのみとなった。
「のう、合否発表は『ネットで言います』と言っていたのじゃが、どのサイトじゃ?」
「ああ、この受験票にあるこのサイトですね——」
午後は大した授業をやらないから早退ということにしてもらった。
午後の授業は主に文化祭の出し物を決定するということだった。
「じゃあ幽狐さん、合格発表の前に試験お疲れ様のパフェにでも食べに行きましょうか」
「なぬ……パフェ……じゃと」
「まえに食べたそうな顔をしていたのを思い出したので。おすすめのところがあるので行きましょう」
「なんと……」
幽狐さんは目を光らせながら俺の手を握る。
なんというか、幽狐さんの身長が低いせいで妹と出かけている感が否めないが、不要な心配だろう。
合否発表の日までは恐ろしいほど早くにやってきた。
十日後のはずだが、流れるように日が過ぎていったため、あっという間だった。
「今日の十三時に合否発表ですよ……」
「緊張するのじゃ……」
香のパソコンに集合をし、定刻まではyout〇beを見たりして時間をつぶす。
ちなみに、この学校の人気度はかなり高く、随時編入試験を行っているため、幽狐さん以外にも受験者数は三人程度いたらしい。
ちなみに香も過去問を解いたがあっさり合格点を超えていて幽狐さんが驚いておいた。
時刻は十時。
結果発表の時間だ。
「あ、時間ですね」
「そうじゃの」
受験者のための特設サイトを開き、受験番号と氏名を入力する。
その結果は——
「 宮本 幽狐 結果 : 合格 」
「「っ――――」」
「やったのじゃぁ!!!」
「やりましたね、幽狐さん!」
無事合格を勝ち取り、後日から香と同じ学校の生徒になる夢を成し遂げた。
「これで後日から香と同じ学校の生徒なのじゃ!」
「楽しみにしてますよ」
「ふふん。待っておれ、学校の制服のセーラー服で香を脳殺するのじゃ」
「そんな変な言葉どこで覚えてくるんですか?」
「そ、そんなことはどうでもよいのじゃ!」
わいわいと話しながら幽狐さんの合格を祝う。
幽狐さんは心で思ったことを言う。
『——おぬしはもう学校でも一人ではないぞ』
「っ――――」
不意に、過去のことを思い出してしまった。
それは、俺が不登校になりかけた時、葵先生に最初にかけてもらった言葉だった。
『——保健室では、おぬしは一人ではないぞ』
その言葉を思い出し、一つの涙が、落ちた。
「かお————そうじゃったの」
幽狐さんは一瞬で何があったかを察し、俺を優しく抱きしめた。
「……大丈夫です、幽狐さん。少し昔のことを思い出しただけなので」
「わかっておる。何も心配はいらぬ。わらわが付いているのじゃ」
「……はい」
個以上泣いてはいけない。
そう思って泣くことを我慢した。
そう、思っていたのに、涙は止まらない。
嗚呼、また会える。
あの人に会える——
また、再開できる——
そう思うと、込み上げる感情が止まらなかった。
そうして幽狐さんの胸でしばらく泣いた。
* * * *
しばらくして幽狐さんの胸で泣いた後、俺は復活をし、次の行動を示した。
「次は制服の採寸をしに行かないといけません。最寄りの制服屋さんで採寸をしているのでしに行きましょう」
「採寸までしてくれるんじゃな……」
「採寸して制服代払ってなどなど……やることはたくさんありますよ」
「でも、おぬし——もとい、彼氏と同じ学校に行けるならなんでもうれしいのじゃ」
「幽狐さんは俺のことをキュン死させる天才ですか?」
「お主が分かりやすいだけじゃ」
そういい、幽狐さんは和服を翻す。
「ほれ、行くのじゃ」
そういい、手を取り合い、制服屋に行った。
そして運命の幽狐さんの入学式兼新学期。
クラスメートにはもちろんたくさんの知り合いがいる。
その中で初めましての感情を抑えることができるのか少し心配だが、幽狐さんなら大丈夫だろう。
「今日は編入生が来るんだって」
「どんな子?」
「すっごこく可愛いんだって」
「なにそれ~~!」
などと女子が盛り上がっている。
「あとあと、彼氏がいるらしいよ?」
「え、誰なんだろ」
「そこまではわかんない」
「絶対イケメンじゃん~~」
そこまで言われると逆に自信なくなりますよォ!!
女子怖え……。
先入観と偏見でどんな人か楽しむ人ことが何よりも怖い。
「ほれ、席につけー。今日は編入生が来るぞーー」
やっぱり幽狐さんのことだろう。
「じゃあ、入ってくれー」
するとドアがノックされ、女子が入ってきた。
幽狐さんだ。
セーラー服に身を包んで髪の毛をふわふわにセットした幽狐さんは率直に言ってかわいい以外のものが浮かばなかった。
「初めましてなのじゃ。わらわの名前は幽狐。今日からこの学校でお世話になるのじゃ!」
「「「「「かわいい…………」」」」」
安定の癒しボイス男子たちを魅了させる。
「なにか質疑応答あるかー?」
先ほどの女子が挙手した。
「あのー、彼氏がいるって聞いたんですけど、どんな人なんですか?」
「(言っていいのかの?)」
幽狐さんがアイコンタクトで訴えてくる。
個人的には言わない方がいいのだろうが、どうせばれるのだろうし、別にいいかなと思ってしまう。
「(まあ、いいですよ)」
「そうじゃの……このクラスにいる男児なのじゃ」
「「「「「なんと!!??」」」」」
クラスの男子たちが騒ぎ出す。
「俺だ!」
「お前なわけないだろ!?」
「いや俺だ!」
などと阿呆な喧嘩を始めている男子。
男子はわかりやすかった。
「まあ、その辺は勝手に質問しておいてくれ。じゃあ、席は……香の隣でいいか」
「はいよ」
「「「「「香ずるいぞ!!!」」」」」
「黙れ」
わっちゃわっちゃとなるクラス。
「じゃあ授業始めるぞ」
でも授業が始まるとなると一気に静かになった。
「今日は幽狐が最初の授業と聞いているから難易度は少し落とそうか。香、幽狐がついていけなくなったらすぐ教えてやれよ」
「はいはい」
「なんか香冷静じゃね?」
「そんなことない」
「いや、絶対どこかで冷血キャラやってるって」
「なんでさ」
「勘」
「…………」
そんな感じでクラスメートは陽キャが多い。
「のう、おぬしの名前は何というのじゃ?」
「へぁっ!?」
幽狐さんが俺とつるんでいたクラスメートに話しかけた。
「お、おおお、お、俺は神楽耶 誠と言います! よろしくお願いします! 幽狐さん!」
「誠……よろしくなのじゃ! 仲良くしてな」
「は、はい!」
なぜか誠はかしこまって、敬語になる。
「そろそろいいか? じゃあ授業始めるぞ————」
そして授業が始まった。
今日の単元は三角関数。
幽狐さんは困ることなく授業についていき、回答も問題なくできていた。
「起立。気を付け。あざした」
「「「「「あざした」」」」」
一限目の授業が終わり、飲み物を買いに行こうとすると幽狐さんがついてきた。
「どこに行くのじゃ?」
「飲み物を買いに自販機まで行きます」
「わらわもいくのじゃ」
「行きましょう」
行くことになった。
そして幽狐さんが驚愕していた。
「なんじゃこのでかい機械は……」
「そこからですよね…………まずはお金を入れます。次にランプが付いたらその商品が買えることを示しているので買いたいもののボタンを押します」
お金を千円入れ、ココアのボタンを押してガコンという音ともに商品を取り出す。
「そうすると、飲み物が買えます」
「なんと……時代は進んでおるの……」
「最近では似たようなもので食べ物も買えたりしますよ」
「何でもありじゃの……」
幽狐さんも飲み物を買い、教室に戻る。
教室は先ほどと変わらず喧騒している。
「二限目は英語ですね。幽狐さんなら英語は大丈夫でしょう」
そうでもないかもしれないが、中学時代に英語を推しえてくれていたから問題はないだろうと判断した。
それを何度か繰り返し放課後になった。
「香や、今日は『バイト』は無いのかの?」
「今日はお休みですね。なので帰りましょう」
「うむ!」
手を繋ぎ、家まで歩く。
「……む」
「どうしました?」
「人の気配がするの。これはたぶん誠……?」
「幽狐さんこそ何でもありですね」
「わらわはそもそも人間ですらなかったからの」
「それもそうですね」
幽狐さんは物の怪。
人間という設定にしているため、ケモミミなどは隠してもらっているが、いずればれるだろう。
もしかしたら、この幸せな時間ももう少ないのかも——
いやいや、ネガティブになりすぎだ。
もっと前向きになろう。
「とりあえずどうしますか?」
「様子見でいいかの。尾行してくるやつなんでまだ序の口じゃ。実害が出始めたら考えるぞ」
「そうしましょう」
誠なのかもしれないし、違うかもしれない。
わからないが、いったんRAINで聞いてみることにした。
「とりあえず聞いてみましょう。電話で」
「そうじゃの」
そしてRAINで電話を掛けた。
するとRAIN通話でよく流れる音が聞こえてきた。
そしてつながった。
『どうした?』
「単刀直入に聞くぞ。お前、俺らのことつけてるか?」
『つけてないと言ったら?』
「じゃあそこから動くな。本当にいないか確かめてみる。足音が聞こえたらいると判断する」
そういって幽狐さんと俺は移動を始めた。
そして——見つけた。
神楽耶誠がそこにいた。
「つけていないと言っていたな? どうしてここにいるんだ? しかもお前は電車通学だろ? ここは駅からかなり離れているぞ?」
「それを話すと長くなるんだが……」
「簡潔に」
「それは難しいというか……」
「簡潔に」
「はい……」
完全に母親に折檻されている息子の図。
いかんともしがたい。
「まず、香に彼女がいたのはつい最近なのに周知の事実で、じゃあ誰なんだろうと思っていまして。個人的に勝手に探索を始めたんですが何も手掛かりがなく。何もわからない状態が続いている期間が3か月以上続いてもう半ばあきらめた時に幽狐さんが入ってきて一目ぼれをして。でも香といる時間が長いから不自然に思って。「これは何かあるな」と思って尾行をしていました……」
やけに説明口調で説明をした誠は顔を上げ訴えるように言った。
「俺は認めない! 香と幽狐さんが従妹ということに!」
「「……?」」
二人そろってはてなマークが浮かぶ。
俺と幽狐さんが従妹……?
こいつは何を言っているんだ?
すると幽狐さんは口を出した。
「香とわらわは従妹ではないぞ。恋人じゃ」
あ、幽狐さんがとどめの一撃を繰り出した。
誠はうなだれ、口論してきた。
「う、嘘だろ……? 嘘と言ってくれよ、香」
「残念なことにこれが嘘じゃないんだ。真実なんだ」
「そんなっ…………」
すると幽狐さんが言った。
「わらわに一目ぼれしてくれるのはうれしいのじゃが、わらわの本命は香なのじゃ。あきらめることを薦めるのじゃ」
あ、渾身の一撃二回目。
完全に死んだ。
某RPGの死んだときのBGMが流れてそう。
「くっ……何故だ……こんなやつより俺の方がいいやつだって言うのに」
「自分でいいやつっていう奴は大概な奴しかいよな」
「なんでお前まで追い打ちをかけてくるの!?」
「いやだって事実だし」
てんやわんやと盛り上がりながら、幽狐さんに「反省しろ」と言われ、げんなりしながら家に帰った誠。
なんだかんだと今日の世界の平和を守った気がする。
「……なんだか、今日も濃い一日でしたね」
「……そうじゃの」
今、一瞬だけ幽狐さんが悲しげなうれしいような顔をしていた。
その原因はわからなかったが、幽狐に聞く必要もないと判断したから聞かないことにした。
「まあ、学生なんてこんなもんですよ。バカやってはしゃいでドジかます。そうして人間は成長していくんです」
「そうじゃったの。わらわの若き頃もそんな感じだったわい」
「幽狐さんの若い頃が想像できません……」
「ぬ、喧嘩売っておるのか?」
「違いますよ。今も昔も変わらないんだろうなって意味ですよ」
「……そうじゃの。わらわは何も変わっておらん。今も昔も」
「……いつか、幽狐さんの昔の話も聞かせてくださいね」
「うむ。とりあえず今日は刺身にするぞ。香の好きなマグロ尽くしじゃ!」
「おお! 好きなんですよね、マグロ」
そうして家に着く。
こんな幸せな時間、昔はなかった。
この時間を作れるのも幽狐さんのおかげだ。
感謝しなくては。
——そしてこの瞬間が、ずっと続けばいいのに。
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