深夜徘徊【短編小説】

深夜2時のこの町に、私のローファーの音以外は何一つ存在しない。

深夜の散歩を始めたのは、ここ3ヶ月のことだった。

3ヶ月前、終電で最寄駅に着き、ふと、いつも通らない道を通っていた時、「夜」が私を誘ってきたのだった。

その日から、私は時々、「夜」に誘われる。誘われるたびに、靴下を履き直し、黒のコートを着て、外に出る。

今夜の空には、星が見えなかった。雲がかかっているのだろう。

少し歩いてると、「夜」が私の隣を歩く。

「元気してた?」と夜が聞いてくる。

「元気に見える?」と少し笑いながらいうと、

「いや、いつも通りだね、いつも通りの目」と、彼も微笑みながら言ってくる。

続けて、「最近はどうなの?」と「夜」が聞いてくる。

「最近はね、彼氏がさあ、なんか慣れてきてて、まあもう半年だからそうなんだけど、なんか付き合う前のやる気みたいなのを何も感じないなってさ、一昨日さ、レイトショー行ったんだけどさ……」

「夜」は頷きながら、時々笑って、話を聞いてくれる。

「そうなんだ。それは大変だったね。彼氏の話はよくしてくれるね。いっつも悪口だけど」

「それはそうだよ。あんたくらいだもん。こんな話できるの」

「そう。それはよかった。他には何かある?」

「あ、あとはね、取引先に行った時にさ、取引先の偉い人がさ……」

私は「夜」の、なんでも話を聞いてくれるところ、そして特に解決策をくれないところが好きだ。

「夜」は、ただ、私の話を聞いて、それに感想だけ話してくれる。この関係が、今の私には、ひどく心地がいい。

明日が来たら、また仕事をすることになる。休みの日は買い物だったり、読書をして終わり。そんな生活が、もう5年続いている。

のんびりと歩き回って、家の近くに帰ってきた。スマホを見ると、時間は午前3時を回っていた。

「そろそろ帰るね」と「夜」に伝える。

「そう、今日もありがとう。楽しかったよ。」と「夜」が小さめの声でつぶやいた

「ありがとう、また呼ぶね」と私は伝え、マンションのエレベーターに1人乗る。

「夜」の記憶が消えていく。

そして私はまた、仕事に行き、日々のレールに沿って進んでいく。辛くなったら、また「夜」が呼んでくれるだろう。

気狂いの人はお願いします。気を狂わせて何かします。