"最強のチーム" 2話

■ワイド番組
司会「昨日夜、現役生活に幕を下ろした公庄選手が引退会見を行いました。そこで飛び出した衝撃の一言に一同騒然となりました」

■インタビュー風景
公庄「この度、引退することになりました公庄健です。引退のきっかけはHR王を決めたホームランです。スーパースターとして、皆さんをワクワクさせるようなプレイはもうできないと思いました。輝いているうちにやめたい、、引退理由はそれだけです。日本球界とメジャーでの15年間のプロ生活で一切の後悔はございません。」
会場、騒然。
公庄「ただ…僕の野球人生で唯一の後悔があります。それは甲子園で全国制覇ができなかったことです。
だから…監督になって3年以内に最強のチームを作って、甲子園優勝します!ということで、僕を監督にしてもいいという高校のオファーをお待ちしております!」

■ワイド番組スタジオ 司会
司会「ということなんですが、非常に驚きましたね。野球解説者の川村さん、いかがですか?」
川村「まさかですよね。引退会見でここまで堂々とセカンドキャリアについて宣言した方っていないですよ。ましてや、公庄選手のような超スーパースターが宣言したんですよ。これはたくさん高校が急ピッチでオファーの準備をしているんじゃないですか」
司会「そうですよね。ここで街にいたファンのみなさんの声をご覧ください」

■自宅兼事務所のソファーに座り、テレビを見ていた公庄とマネージャー岡村
岡村がテレビを消す。
岡村「あんなに派手なことを言うから、会見が終わらないうちから問い合わせの電話やメールが止まらないですよ。やりたいことはこれからも応援したいと思いますし、協力もします。ただ物事には順序ってものがあって…」
公庄「でもさ、岡本ちゃん。あのやり方したからこんなに話題になってるじゃん。僕が派手なことをすれば、みんなが騒ぐ。それはプロを辞めてからも変える気はないよ」
岡本「全く…」
公庄「それより、問い合わせの内容はどんな感じ?」
岡本「公庄さんが現役からスポンサー契約をしていたスポーツメーカー、飲料メーカー、製薬会社、ゲーム会社、アパレル会社、その他新規の企業が9件から資金提供や用具提供に関する連絡が入りました」
公庄「そっか。で、高校の監督のオファーの方は?」
岡本「それが…全国の強豪高から弱小高まで、120校を超えています」
公庄はニヤリと笑って。
公庄「やっぱり派手に言ってみるモンだね!」
岡本「でもこんなに多くの高校を精査・交渉にどれくらい時間がかかると思っているんですか」
公庄「そう怒らないでよ、岡本ちゃん。ちなみに僕の出身地の秋田県の高校からのオファーはある?」
岡本はパソコンのメール画面で「秋田」と検索。
岡本「秋田県の高校からのオファーは1件です。ただ…」
公庄「ただ?」
岡本「2年前に部員が集まらず廃部となった久保田高校です」
公庄「久保田高校…2年前に廃部ねえ」
岡本「グラウンドや最低限の設備はまだ残っているとのことですが、部員集めからというゼロからの再建になりますね」
公庄はソファーから立ち上がる。
公庄「それじゃあ、今から久保田高校に行こう!先方に連絡して」
呆れた様子の岡本
岡本「全く…」

■秋田へと向かう機内 隣り通しの席で話す公庄と岡本
岡本「公庄さんの突飛な行動に現段階でどうのこうのは言いません。ただ、なぜ他の強豪校からのオファーも聞かずに、1番に久保田高校なんですか?」
公庄「それは単純だよ!僕は高校野球協会の秋田支部に青春を奪われたんだよ。もちろん本部が指示を出して、秋田支部はそれに従ったってだけだろうけど。その時の雪辱晴らしたいじゃん」
岡本「え、それだけ?」
公庄「そうだよ!」
曇りひとつない笑顔でそういう公庄。
岡本「では秋田県の高校に個別でオファーしたらいいじゃないですか!なんであんなに派手にしたんですか!」
公庄「それはもう少し時間が経てば分かるさ」
岡本「全く…」

■久保田高校の前
公庄「グラウンドは確かに綺麗なままじゃん!あ!ナイターもあるし、ばっちりだね」
岡本「廃部になったのは2年前ですからね。それより公庄さん、中で理事長と校長がお待ちです。行きましょう」

■会議室  理事長の佐竹と校長の遠藤。公庄、岡本が入室
佐竹「いやいや、公庄さん。遠いところまでわざわざご足労いただきありがとうございます。久保田高校理事長の佐竹です」
公庄「とんでもございません。改めまして公庄です」
遠藤「校長の遠藤と申します」
岡本「公庄のマネージャーの岡本です」
佐竹「それにしても驚いたな。まさか昨日の今日で公庄さんが我が校にお見えになるとは!」
公庄「僕はこういうサプライズが好きなんですよ」
佐竹「本当に驚きましたよ。公庄さんも悪いお方だ。さあさあお座りください」
全員着席
公庄「早速本題に移りたいのですが、御校のオファーの詳細についてお話しいただけますか」
佐竹「実は我が校の硬式野球部は2年前に廃部となってしまいまして…」
公庄「ええ、存じ上げております」
佐竹「廃部の経緯としましては、…」
公庄「佐竹さん、僕にとって廃部の経緯はさほど問題はございません。過去1度も甲子園に出場経験のない御校でわざわざ野球をやる意味を見出せないと思われた。また、野球人気の低下によって、甲子園を目指さなくても野球をやりたいという生徒の確保ができなくなった。さらにこのままでいくと学校全体の魅力も下がってしまい、学校運営ができなくなってしまうといったところでしょう」
佐竹「おっしゃる通りでございます」
公庄「僕はオファーの詳細をお伺いに御校にやってきました。絶対に譲れない条件があれば教えてください」
佐竹「本校OB並びに関係者、そして理事長の私としても、何とか野球部を再建してほしいという1点でございます。野球部運営に関してはお任せしたいと思っております」
公庄「ということは1番重要な選手集めに関して、僕の一存で行えるということでしょうか?」
佐竹「それはもちろんです。」
公庄「全国の優秀な選手を集め、チームを構成してもいいということですね?」
佐竹「はい。こちらとしても選手集めに関して、ご協力させていただきます」
佐竹の発言に顔を曇らせる校長の遠藤
公庄「遠藤校長、どうされました?」
遠藤「いや、その…」
公庄「僕は双方が納得いく形で久保田高校の野球部を作りたいと考えております。何かあれば是非お話ください」
遠藤「はい…。基本的には理事長と同意で、野球部再建は目指していきたいと考えております。ただ、久保高はこれまで地域に根付いた学校を目指しておりました。その久保高野球部が全国各地から野球ができる子を集めた選手で構成されていたら、地元の方々は気持ちよく応援してくれるでしょうか?」
公庄は真剣な顔つきで遠藤校長を見る
遠藤「ましてや昨日の公庄さんの会見を見て、納得がいっていない方々が多くいるというもの事実です。そんな中、全国から野球がうまい子を集めた子たちを寄せ集めた野球部は地元住民から敬遠される気がしてなりません。地元住民あっての久保高。ですから、野球留学生を集めるにせよ、せめて部員の半分は秋田出身の子を入れてあげてほしいのです」
佐竹「遠藤校長!部員の半分を秋田出身にするだと?ゼロからの再建を進める中で、そんなことをしていたら、公庄さんの甲子園優勝は何年先になってしまうと思っているんだ!」
遠藤「しかし…」
佐竹「秋田で有望な選手のほとんどが県内外の競合校へのスカウトされた。今から声をかけてもロクな選手は集まらない。今手を打たないと久保高自体の存続に関わるんだよ!久保高がなくなれば、遠藤校長も職を失うんだぞ。ここは公庄さんに全てお任せするんだ」
遠藤「……」
ニヤっと笑う公庄
公庄「遠藤校長、非常に興味深いご提案ありがとうございます。その条件、飲ませていただきます」
驚く佐竹理事長と遠藤校長
公庄「枷のない自由は創造性を奪う。全国区ではない選手を半分かかえて3年以内での全国制覇、おもしろすぎます!是非、やりましょう」
佐竹・遠藤「えっ……本当ですか?」
岡本「全く…」

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