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【ゆる考察】プロメテウス火山は東京ディズニーシーにおけるリアリティの指標となるか

来る2024年、東京ディズニーシーに新テーマポート「ファンタジースプリングス」がオープンする。それに先駆けて建設中のエリア内の一部が映像で公開された。

映像では『アナと雪の女王』『塔の上のラプンツェル』『ピーターパン』の世界を再現した個性的な自然や建造物が姿を見せたが、今回はそれらではなく、その中に映り込んだプロメテウス火山の姿に注目したい。

今回の映像で見る限り、エリア内から見えるプロメテウス火山の姿はかなり小さい。プロメテウス火山といえば、パークの中央に堂々とそびえ立つシンボルのイメージが定着している(実際のシンボルはアクアスフィアなのだが)。それが見えにくいのは残念に感じる人もいるかもしれないが、逆にその見え方になにかしらの意味を見出すことはできないだろうか。

さて、要するに今回の仮説とは、偶然か必然かさておき、このプロメテウス火山の見え方こそ、ディズニーシーに渦巻く世界観のリアリティの多様性を表す指標であるというものである。ファンタジースプリングスを含めた8つのテーマポートについて、世界観やプロメテウス火山の見え方を比較しながら考えていきたい。

◾️テーマポートと火山

ということで、ここからは東京ディズニーシーの各テーマポートからプロメテウス火山を眺め、

①火山が大きく近景に見える
②火山が小さく遠景に見える
③火山がほぼ見えない

の3種類に分類し、火山が際立って見えるテーマポートほど世界観のリアリティが高いのではないかという仮説を検証する。

①火山が大きく近景に見える

まずは、プロメテウス火山の存在感が大きいメディテレーニアンハーバーとアメリカンウォーターフロントからの景色をご覧いただこう。

まずはメディテレーニアンハーバーから。

リドアイル付近から。

街を見守るようにどっしりと火山がそびえていることが分かる。プロメテウス火山のモデルとなったのはイタリアのヴェスヴィオ山であり、まさにイタリアを舞台にしたメディテレーニアンハーバーでは最も威厳のある佇まいを見せてくれる。

また、お隣のアメリカンウォーターフロントでも近距離に火山を見ることができる。ここから火山を眺めると、先ほどよりもやや木々が生い茂っているように見える。この理由は後ほど触れよう。

ハドソン・リバー・ブリッジ付近から。

現在のパークで「主役」と呼べる規模を誇るこの2テーマポートは、どちらも現実世界をモデルに作り出されている。地学的なレベルから忠実に再現された岩肌を持つプロメテウス火山も、こういった街並みに上手く溶け込んでいる。

次に、アメリカンウォーターフロントに続くポートディスカバリーの景色を見てみよう。

ニモ&フレンズ・シーライダー前から。

画像右奥に見えるのがプロメテウス火山である。ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ(手前)の存在感が強く、先の2ポートと比べると火山はやや肩身が狭そうである。さらに岩肌が変質し、木々が生い茂っているのがお分かりいただけるだろうか。

ポートディスカバリーは「時空を超えた未来のマリーナ」であり、アメリカンウォーターフロントの人々が想像した未来の科学基地である。プロメテウス火山はここでは時が経ち休火山となっている。そのため、ここからは噴煙も見えず、噴火の爆発音も聴こえないのだ。

ポートディスカバリーの人々が研究対象としてきたのは気象と海洋であり、火山にはフォーカスが当たっていない。さらにここは人々の空想が生んだ仮想的空間であり、先の2テーマポートと比べると虚構性の高い場所である。よって、仮説に従えば火山の存在感が薄いのも自然となる。

今見てきた3つのテーマポートはパークのエントランス側に位置し、船の姿が多くみられる。この「旅・冒険の始まり」を予感させるテーマポートから、“冒険とイマジネーションの海”東京ディズニーシーの奥地にいざ足を踏み入れると、だんだんと世界観が「冒険とイマジネーション」そのものに変わってくるのだ。

②火山が小さく遠景に見える

ということで、ここからは先ほどと毛色の異なる3つのテーマポートについて考える。マーメイドラグーンアラビアンコースト、そしてファンタジースプリングスだ。

結論からいえば、この2つのテーマポートにはそもそも火山の姿を視認できる場所が少ない。その中でも最も火山の姿がよく見える、2テーマポートを結ぶキングダム・ブリッジからプロメテウス火山の様子を見てみよう。

キングダム・ブリッジから(友人撮影)。画像奥はミステリアスアイランドに繋がっている。

今までと比べ火山がかなり遠くにあるように見える。それもそのはず、突如として手前に二段構えの岩肌が現れているのだ。火山の麓である隣のミステリアスアイランドから歩いたことのある人は、初めて振り返った時あんな岩肌がどこから出てきたのか驚いたことだろう。驚いてくれ。

実は奥側の岩肌はミステリアスアイランドでもみんな見ている。センター・オブ・ジ・アースが走るトンネルだ。ミステリアスアイランドにいる時はプロメテウス火山の一部として見えていた岩肌が、こちらからは火山の手前にある別の高地に見えることで、効果的な遠近感を出しているのである。

さらにダメ押しで手前に存在するのがミステリアスアイランドとマーメイドラグーンを隔てる水門である。実はこの水門は門のように見えて上に道路が走っている。にわかに信じがたいことだが、航空写真が何よりの証拠。なんと我々が楽しく歩いている真上をバックステージの道路がぶち抜き、キャストさんたちの車が爆走(?)しているのである。したがって、道路隠しの壁としてもう一段岩肌を見せることができるというわけだ。設計した人がヤバすぎる。

話を戻すと、マーメイドラグーンは「陸上に上がった海底王国をトリトン王が魔法をかけて人間が探検できるようになった」場所。アラビアンコーストは「ジーニーの魔法で作り出した」街。ディズニーシーというと、まず揺るぎないリアルな世界観が存在し、ディズニーキャラクターたちはなんとなく「お邪魔させてもらっている」感が強いが、この2つに関しては成り立ちからガッツリ『リトル・マーメイド』『アラジン』の世界の延長線上で起こっているのだ。そりゃあファンタジー以外の何物でもないじゃんね。

さて、ファンタジーに溢れるテーマポートの話をしたところで、その名を冠するファンタジースプリングスの様子を見てみよう。

https://x.com/tdr_pr/status/1694551231115805054?s=46&t=M4Jr33AO5_S5m8HyCTNC3Q より。

お分かりいただけるだろうか。画面左下にほんの少し見える出っ張りがプロメテウス火山である。今までの威勢はどこへやら、エリア内から火山はほとんど視認できないようだ。これはつまり、ここがマーメイドラグーンやアラビアンコーストよりも、よりファンタジー色の濃い世界である現れなのではないか。

ファンタジースプリングスは、3つの作品の世界が集合するというシーにしては突拍子のないテーマポートである。こうなってくると成り立ちはどうなってしまうのか。

ファンタジースプリングスは「魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界」と称されており、現状それ以上のストーリーは明らかになっていない。ただ、この一文でもう答えは出ているも同然であり、ここではついに水でさえも魔法がかかっているのである。さらに、先ほどの画像手前にそびえるネバーランドの山々が絵本から飛び出したようなデフォルメ満載の姿をしていることからも、リアルが追及されたプロメテウス火山は遠景としてですらお呼びでないのだ。

このように、パークの奥地に位置する3つのテーマポートは、実はランドも顔負けのファンタジー空間なのである。

③その他

8つ中6つのテーマポートからプロメテウス火山を眺めてきた。しかしここで、今回の仮説にとって厄介なテーマポートが2つも残っている。ミステリアスアイランドとロストリバーデルタである。8分の2が例外ならそれは仮説立証ならずなのではないか。いや、ここにきてそんな結論を出したら読者諸君の刻々と過ぎていく貴重な時間をストームディフューザーで消し去ってしまうも同然である。とりあえずこの2つについても頑張って考えていきたい。

まずはロストリバーデルタ
ここからはプロメテウス火山の姿はほとんど見えない。場所によっては山頂が顔を出す程度である。しかし、ここは遺跡調査が行われている中米のとある河口というリアル極まりない設定である。しまいにはインディ・ジョーンズまで来ている。これは「リアリティあり」と分類されるべきではないのか。

結論、否である。確かにストーリーを聞いただけならファンタジー要素はだいぶ薄いかもしれない。しかし、ここで冒険をした者はそんな事は言わないはず。クリスタルスカルの魔宮しかり、レイジングスピリッツしかり、遺跡の調査をしていると古代の神々の逆鱗に触れ、命の危険に巻き込まれるのだ。

古代の伝説が現代によみがえる事態は、もはやファンタジーを通り越してオカルトである。これはまさに調査チームの人間もほとんどが本気にしていなかった「空想の出来事」である。本気にしてないから火の神と水の神を向かい合わせにしたり、ジープで呪いの宮殿を爆走したりしちゃうのだ。

筆者は実際のオカルト事情に関してあまり詳しくないが、おそらく現実世界のこういう場所でこういう禁忌に触れてしまったとしても、トロッコの線路がグニャグニャに歪んで縦回転したり、マンガのような真ん丸の大岩が転がってきたりするような大災害は起きないだろう。

そして、最後のミステリアスアイランドである。ここはジュール・ヴェルヌの小説世界をベースに、プロメテウス火山を「前人未踏の火山島」という設定に再構築している特殊極まりないエリアである。世界観はスチームパンク!(ファッショナブルイースター談)であり、時代設定に似つかわしくないオーバーテクノロジーが闊歩している。

つまり、このテーマポートはSFに溢れている。火山の地学的作り込みはさておき、世界観は現実離れしているだろう。ところが………

ミステリアスアイランド内から。

ここは言うまでもなく火山が一番ドデカく見える。あぁ、もう万事休すである。最後の最後に火山本人にコケにされるとは………。

いや、諦めるのはまだ早い。この狭いエリアにあるアトラクションを考えてほしい。センター・オブ・ジ・アースと海底2万マイル。火山の内部と深海の果て。どちらもどうしたって火山を視認できない場所に連れていかれるのだ。

そんな事言い出したらおしまいだろう!という声が聞こえるがそんな事はない。ロストリバーデルタもマーメイドラグーンも、物理的に火山の姿を隠されるこの時こそ予想だにしないイマジネーションの始まりなのである。アメリカンウォーターフロントだって、S.S.コロンビア号の中に入ってしまえば喋るカメに会えるのだから。

※余談

ここまで、パークの中での火山の見え方を考えてきたが、この仮説にはとっておきの拡張性が備わっている。それはパークの外、言ってみれば現実世界である。

ディズニーランドを園外から眺めると、シンデレラ城以外にも目立つものが結構ある。スペースマウンテンやビッグサンダー・マウンテンは舞浜駅のホームからでもよく見える。しかし、ことディズニーシーとなると意外と目立つ建物は少ない。同じく舞浜駅のホームからシーを眺めてみると、際立って目立つのは両パークで最大を誇るタワー・オブ・テラーくらいで、とにかくプロメテウス火山がドカンとそびえたっているのが印象的である。さらに、舞浜駅から徒歩でシーに向かう際の入口前の道路や、駐車場からパークへの通路も、わざわざとしか思えないレベルでばっちり正面にプロメテウス火山が見えるのである。

ディズニーシーの中から見れば、園外は最もリアリティの高い場所、というかリアルそのものである。プロメテウス火山の見え方を考えた時に、園外からが最もよく目立って見えることは、「プロメテウス火山の見え方こそ、ディズニーシーに渦巻く世界観のリアリティの多様性を表す指標である」という仮説をメタ的に補強してくれる。

■まとめ

ここまで長々書いてきたが、個人的な結論としては「ある程度なる」ということにしたい。ディズニーシーのキャッチコピーは“冒険とイマジネーションの海”である。ただ、冒険やイマジネーションには始まりがある。“夢と魔法の王国”東京ディズニーランドにも、夢の始まり、魔法の始まりとしてワールドバザールが構えるように、メディテレーニアンハーバーやアメリカンウォーターフロントはゲストにとって冒険の始まり、イマジネーションの始まりを喚起させてくれる存在なのではないか。そして、その分かりやすい目標、“冒険の象徴”こそプロメテウス火山なのではないか。

ディズニーシーの空間は奥へ奥へと細長く伸びていく。その中央に位置するプロメテウス火山はゲストが足を伸ばす最初の目標であり、ここを乗り越えた先に、さらなるイマジネーション、ポートディスカバリーやマーメイドラグーンといった空想の世界が待ち構えていると考えると、パークの奥側にはプロメテウス火山の役割自体があまり無いのかもしれない。いずれにせよ、そんなディズニーシーの最奥として誕生するファンタジースプリングスが、“冒険の象徴”プロメテウス火山と並ぶ“イマジネーションの象徴”になることに期待して、開業を心待ちにしたいと思う。

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