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ファンタジースプリングスはディズニーシーの物語を壊す“異端のテーマポート”なのか?

東京ディズニーシーで来年に開業が迫るファンタジースプリングス。その姿が着々と明らかになっているが、当初その計画にはゲストから消極的な声もあった。

クリッターカントリー、トゥーンタウン、トイビル・トロリーパークや美女と野獣エリアなど、オープンするたび喜ばれてきた新エリア拡張だが、ファンタジースプリングスはなぜ賛否両論が巻き起こったのか。東京ディズニーシーという特殊なパークゆえに起こった一悶着を振り返ってみよう。

◆シーの世界観にそぐわない?

まず、ファンタジースプリングスに多くの人が抱いた第一印象は「シーっぽくなくね?」であった(実際筆者もそうだった)。ファンタジースプリングスは『ピーターパン』『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』の世界をまとめて再現したテーマポートだ。その名前や盛り沢山なコンセプトから「ファンタジーランドのシー版」のようなイメージが強く、直感的にディズニーランドとは異なる「シーらしさ」を感じにくいことが原因のひとつだろう。

東京ディズニーシーは、世界のディズニーリゾートで唯一、海をテーマとしたパークである。また、“冒険とイマジネーションの海”というキャッチコピーが示すように、ゲストは夢と魔法をかけられる存在としてよりも、いち冒険者・探究者として、パークを主体的に巡ることを求められているといえる。ディズニーシーはそういった強烈な個性が人気の秘訣であり、ゲストの期待の裏にはどうしても「ランドではできないことをしてほしい」というランドの影がつきまとう。

したがって「ファンタジーランドでもできそう」という第一印象がファンタジースプリングスのイメージをマイナス方向に引っ張っている感は否めない。ただ、それは本当にシーにとってマイナスな事なのだろうか?

個人的に今のディズニーシーは真の意味での全世代型テーマパークとしてレベルアップしようとしている気がする。ディズニーシーに多くの人が抱くイメージは「大人向けのディズニー」であって、実際幼少期の筆者もシーに行った時はやや退屈だった記憶がある。しかし、開業当時のパンフレットを見ると、ファミリーで楽しめるテーマパークと書いてある。そう、「ディズニーシーは大人向け」というイメージは我々が勝手に作り出していた幻想だったのだ。

しかし、そうはいっても実際に子連れのゲストが過ごしやすくなければファミリー向けとはいえない。穏やかなアトラクションや遊び場が多いマーメイドラグーンとアラビアンコーストは開園当初から人気だが、近年はニモ&フレンズ・シーライダーが、キッズが存分に楽しめるアトラクションの筆頭格として活躍している。ダッフィー&フレンズも続々増え7体になった。ファンタジースプリングスにも子供に楽しんでもらえるようなアトラクションができる予定で、親子の新たな憩いの場となるかが注目される。

◆「7つの海」だったのに…

ディズニーシーは開園以来「7つの海」という概念を大切にしてきた。現状のテーマポートは7つ。その数にもしっかり意味があるのだ。だからこそ、8つ目のテーマポートが生まれることに反対する人が多かったのである。

しかし、ファンタジースプリングスは魔法の湧き出る泉と銘打たれ、海ではない。しかも隣には、海は海でも河口の三角州であるロストリバーデルタがある。つまり、ここはロストリバー(仮称)を通り7つの海へ繋がる源泉だったというストーリーを組み立てることができるのである。

海には注ぎ込む川があり、川には湧き出る水源がある。ロスト“リバー”デルタがあるならば、川の水源もあってしかるべきである。

ファンタジースプリングスの開業は当初2022年、開業21年となる年にオープンを予定していた。東京ディズニーシーという場所が生まれて20年が経ち、幾多の冒険・探検を重ねてきたゲストたち。その成果あって我々はついにディズニーシーの最奥、心臓部となる魔法の泉に足を踏み入れるのであった。そんな隠れストーリーがファンタジースプリングスにはあるのかも。

これは公式に示された見解ではないが、ネット上でも何人かのYouTuberが同じ考察をしており、おそらくこれがファンタジースプリングスの存在意義としてスタンダードに理解されるものとなるだろう。

余談だが、「7つの海を崩さないのはいいけど、ディズニーシーは海をテーマにするパークなんだから海をテーマにしろよ(せっかく海に来たんだから、海に行こうぜ!)」という反論にもしっかり対応している。

今回再現されるシーンはネバーランドやラプンツェルのランタン祭りなど、それぞれの作中では海であった場所。全体を見れば泉でありながら、各々のエリアではそこは海なのだ。この仕掛けこそ、まさに魔法の泉の名に恥じない。しかも、そこから流れ出た水で構成されるディズニーシーの海たちも、空から見れば………?そんなメタ的な事実まで回収できてしまう。

ちなみに、「ビリーヴ!〜シー・オブ・ドリームス〜」も当初は開業20周年に合わせた2021年のスタートを目指していた。「ビリーヴ!」の内容にはファンタジースプリングスが取り上げる3作品のキャラクターもしっかり入っている。おそらくは20周年“タイム・トゥ・シャイン!”→「ビリーヴ!」→ファンタジースプリングス開業の流れでディズニーシーの新時代を盛大に幕開ける予定だったのだろう。コロナ前に想定されていた“本気”のタイム・トゥ・シャイン!を目にする事が無かったことが悔やまれてならない………

◆強まるランドとの繋がり

先ほどピーターパンを採用した意味について少し考えたが、もう少し大きな視点で見ると、ランドとシーの架け橋の象徴としてピーターパン、ないしはファンタジースプリングスがいるのではないかとも考えられる。

ファンタジースプリングスがファンタジーランドと似ているように受け取られがちなことは先ほども触れたが、実際の位置関係を見るとまんざら結びつきがあるといっても過言ではない。ファンタジースプリングスはトゥーンタウンの真裏、ファンタジーランドのお隣といってもいい場所にできるのだ。実際、ファンタジーランドからは既に工事中のファンタジースプリングスがよく見える。

ランドの地上からシーの構造物が容易に観測できるなんて事はこれまで考えられなかった。場所にそぐわない風景は極力隠す努力をするディズニーランドにおいて、ここまで露骨に見えるということは、おそらく「見えても大丈夫」と判断されているのだろう。つまり、ファンタジースプリングスはファンタジーランドと親和性が高い、結びついてしかるべきな場所なのである。

ここで、ひとつ興味深い資料がある。東京ディズニーリゾート2023カレンダーの7月ページに描かれた絵だ。ピーターパンたちがファンタジーランドを飛び出しネバーランドを目指すという構図になっているのだが、後方をよく見るとディズニーシーの姿が映っている。その位置関係を考えると、ネバーランドがファンタジースプリングスの場所と一致しているのだ。ランドとシーの越境が明確に描かれている。

そもそも当初、ディズニーシーはイベント等でディズニーランドと連動していなかった。開園2年後のランド20周年は一緒にお祝いすることはなく、リゾート全体としてランドの周年を祝うようになったのは25周年から。そこから、シーでもハロウィーンが始まり、イースターが始まり、「シーのランド化」という不満を浴びながら、段々とシーとランドが連帯する素地は整っていった。

リゾート35周年にシーで行われた「ハピエスト・セレブレーション・オン・ザ・シー」では「陸も海も、みんな一つに!」というセリフが突然登場する。「陸」「海」というのはオタクの間で使われるランドとシーの別称であり、あえてオタク用語を逆輸入してメタ的な明言を避けつつ、2パーク合同のイベントであることを強調する妙技である。

このあたりからシーのコンテンツのランドへの越境も積極的に始まる。「ベリー・ミニー・リミックス」では当然のようにランドでボンファイアーダンスが踊られ、「ザ・ヴィランズ・ロッキン・ハロウィーン」ではヴィランズの手下たちがパレードに襲来し、大きな衝撃を与えた。

そして今回のファンタジースプリングス。互いのパークにとって、別のパークの景色が堂々と見えるのは今回が初めてである。ランドにいてシーを意識させる事、それはこれまで「ランドで今かけられている魔法」を妨げる可能性があった。それが今回、ディズニーのマジックに沿う形=ファンタジーランドの雰囲気を損なわない形で、いわば“合法的”に「シーも行きたい!」を喚起させられるようになったことは大きいのではないか。

パークに詳しくない人はおそらく「あれってアナ雪のやつ?今行けるの?行けない?シーなの?」という会話をする事になるだろう。一瞬でも今自分の立っているファンタジーランドから「行けそう」と思わせてくれる、しかしそこに辿り着くにはディズニーシーを奥の奥まで冒険しなければならない。今度行ってみるかぁ。このトリックが世界観を壊さずに成立するのだ。ここにディズニーシー史上最大の商業的効果が生まれるかもしれない。

◆さいごに

唯一無二の個性を目指して作られたディズニーシーはいつの間にかランドのアンチテーゼと認識されかけてしまった。開業から20年が経ち、ディズニーシーの思想が商業的に苦戦することも十分証明されてきた。そんな中で、どのように「東京ディズニーシー」を維持していくか。両パークが緩やかにでも連帯することで、「ランドならざるもの」からの脱却、これまでよりもっと良い形でランドの強みを活用できる体制を整えている段階なのではないかと考える。ファンタジースプリングスの可能性に幸あれ。がんばれジャンヌ!

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