二輪のアネモネ



別れとは時に無常である…これは俺と彼女の別れの物語…
 「えっ…そんな…」
俺、如月桔梗は彼女胡桃鈴桜から唐突な別れの申し出にそんな腑抜けた声しか出なかった 
 「なんで…もう一度考え直してくれないか?」
そんな女々しい言葉しか出てこなかった
「私だって…私だって…なんでもない…ごめん…」
そういい鈴桜は部屋を出ていった
 「なんなんだよ…」
俺はぽつんと鈴桜の出ていった部屋に取り残された

 「はぁ…はぁ…」
私は走って桔梗君の家から出てきてしまった
 「別れたくないなぁ…」
私は本心では別れたくないと思っている 桔梗君の事が嫌いになった訳ではないそれどころか好きなのだ それでも付き合い続ける事は出来ない 私は小さい頃から難病を患っていた 徐々に体を侵食していく病気であった為そこまでといった被害はなかったものの最近は少しずつ辛くなってきていた だが医療の進歩というのはすごいもので外国でその治療法が確立されたらしい 私はその治療を受けることになった それ自体は嬉しいことなのだがなにせ確立されたばかりの治療法ということもあり成功の確率が低いものであった 少しでも可能性があるならかけたいと思ったがもし失敗した時に残された桔梗君が悲しんでしまうそう思った私はこのような行動にでた
 「後悔したってもう後戻りできない…準備しないと…」

部屋に残された俺は喪失感にみまわれていた…なんで、どうしてという気持ちが心の中で渦巻いていた
 「いったい何がいけなかったんだ…俺の何が悪かったんだ…」
その日はそのような考えがとめどなく溢れてきて全く寝ることができなかった 次の日、鈴桜のいない日常が始まり、講義にでる気も起きなかったが一刻も早く家から出たかった 家にいると鈴桜の事を四六時中考えてしまうからだ
 「いってきます」
そう言っても行ってらっしゃいと返してくれる彼女はいなかった

私が桔梗君の家から出ていった次の日私はお母さんに桔梗君と別れたことを伝えた
 「お母さん…私桔梗君と別れてきた。」
するとお母さんは驚いた顔をした だがすぐに真剣な顔になった
「あんたはそれで後悔してないのかい?」
後悔してないわけがなかった
 「うん…」
「嘘ね、そんな辛い顔しながら言われても説得力ないわよ」
 「さすが…だね…お母さん…」
「何年あんたの母親やってると思ってるのよそれくらいわかるわ 別れなくても良かったんじゃないの?」
 「でも…手術が成功したとしてすぐに帰って来れる保証なんてないしもし、失敗したら桔梗君に悲しい思いさせちゃう」
「あんたが別れるって決断をするまでどれだけかかったかなんてお母さんには分からないけど桔梗君と別れないで待っててもらう選択肢もあったんじゃないの?」
 「桔梗君は私には勿体ないくらい良い人だもん私に縛られてちゃダメだよ」
私の目からは涙が溢れてきていた
「本当のこと言ってみなさい」
 「死にたくないし別れたくない…桔梗君ともっともっと2人で一緒にいたかった!でも!でも…」
お母さんの胸の中で私は声の限り泣いた弱音や背負っていた物がポロポロと溢れ出していった お母さんはその間うんうんと相槌を打ちながら私を慰めてくれていた
「まぁあんたの人生だこれ以上後悔しないように生きなさい」
 「うん…ありがとうお母さん」
私は涙声で母に感謝を伝えた

大学の講義を受けていたが教授の声が遠く聞こえた気がした
 「はぁ…」
案の定勉強に全く身が入らなかった 本当に気が滅入ってるのだなと自分でも思った 鈴桜は講義にはでていなかった 心配なのもあるが単純に別れる原因が知りたいのだ 我ながら女々
しく醜い行為だというのはわかっているがそれが直せるところであれば直し鈴桜と仲直りがしたい そう思わずにはいられなかった
「シケたツラしてんなお前」
大学の同じ授業を取ってる友達から話しかけられた
 「うるせぇ…」
そんなささやかな抵抗しかできなかった。
「胡桃さん来てないけどなんかあったんか?」
 「別れたんだよ」
「マジで?お前から別れたん?」
 「いや、向こうから別れ切り出された理由も分からない」
「うわぁ重症だな」
 「からかいに来たんだったら帰れ」
「ごめんて、別れた時の話聞かせてよ」
鈴桜に別れを切り出された時の話をした
「ふーんまぁ俺は胡桃さんも君のことが嫌いなわけじゃないと思うよ」
 「信用出来ねぇ…」
「おいこら聞こえてんぞ」
 「まぁサンキュなちょっと気が楽になったわ」
「おう!頑張ってな」
 「やれるだけやってみるよ」
俺は乾いた笑みを浮かべ取った講義が今日はもうないということで大学を後にした

私は病院に行くための荷物をまとめていたが机の上のあるものを見てまとめる手が止まった それは桔梗君との思い出の写真だった
「この時は人が多くて桔梗君とはぐれてどうしようかって焦ってたら桔梗君がみつけてくれたんだっけ。」
私はその写真を抱きしめた
「桔梗君…会いたいよ…」
私の目からポロポロと涙がこぼれていった

俺は家に帰っていたがその足取りは重かった やっとの思いで家に着いたが何もやる気が起きず、ベットに寝転がった 最初は壁の方を見るとどこか悲しくなるから逆側を向いていたがベットの脇に置いてあるナイトテーブルの上にある写真を見たくなくて結局俺は壁側を向いていた
「鈴桜…なんで…」
そう俺は零した

私は特に容態が悪くなることも無くついに病院に行く日となってしまった
 「帰ってこれたらいいなぁ」
「帰って来れるに決まってるでしょ!!何弱気になってんの!!」
 「お母さん…私…怖いけど行ってくる」
そう私は言い搭乗口の方へ歩いていこうとした
「鈴桜!!」
その時私の一番聞きたかった声が聞こえた

俺は空港まで走っていた それは何故か…それは鈴桜の母親から俺に連絡がきたからだ。すぐに家を出て走って走ってもうクタクタになっていたが俺は足を止めることは無かった やっとの思いで空港に着き鈴桜の姿を見つけた 俺は本当に疲れているのかと思うほどに力強く大きな声でその名を呼んだ
 「鈴桜!!」

 「桔梗君…なんでここに…」
「鈴桜のお母さんから連絡もらって、それで…」
 「お母さん…ってどこ行ったの!」
その時スマホに1件のメッセージが送られてきた
『桔梗君とのお別れちゃんと済ませなさい。』
『ありがとう…お母さん』
 「桔梗君ごめんね。ちゃんと伝えられなくて」
「いいよ、俺のためにやってくれたんでしょ?なら大丈夫だって」
 「本当は会いたかった。嫌いになんてなってない。」
「俺も会いたかった。行く前に会えてよかった。」
やっぱり桔梗君と話している時間は幸せで心地よい
 「行ってくるね!桔梗君」
「あっ、これ プレゼント!」
そう言って手渡されたのはアネモネの花の形のブローチだった
「この前渡そうと思ってたんだけどあれがあってから会えてなかったから。アネモネの花言葉も相まってピッタリかなって」
 「ありがとう…嬉しい!」
その時私は桔梗君に抱きしめられた
「待ってるから。鈴桜が帰ってくるまでずっと。」
 「うん!」
そう言って私は飛行機の中へと乗り込んで行った。

鈴桜を送り出してやっと一息がつけた頃、鈴桜の母親に話しかけられた
「良かったわね桔梗君」
 「ありがとうございます。お母さん」
「いいのよ私は2人を手助けしたかっただけだから。」
少しそう会話をしたあと俺は花屋で2輪の花を買った 赤と紫のアネモネを

アネモネ全体の花言葉 「はかない恋」「恋の苦しみ」「見捨てられた」「見放された」
赤いアネモネ 「君を愛す」
紫のアネモネ 「あなたを信じて待つ」

後日談
俺はあの日と同じく今空港に来て人を待っている そろそろ来たようだ
「桔梗君!」
そう、あの時成功率が低いと言われていた手術を受けた鈴桜は手術が成功し病気を完治させることができたのだ。経過観察も含めで1年ほど向こうで暮らしていたがこの度日本に戻ってくる事ができたのだ
 「おかえり!鈴桜!」
鈴桜が俺に抱きついてきてこう言った
「ただいま!桔梗君!また会えて嬉しいよ!」
俺はそんな一言を言った鈴桜を抱きしめながら頭を撫でた
「お母さん達は?」
 「外まで車で来てくれてるよ 最初はふたりで会うのがいいだろ?ってお父さんが言ってくれてさ ほんとあの2人には頭が上がらないよ」
「お母さん達にお礼言わないとね」
 「だな じゃあ行くか」
俺たちは手を繋いで鈴桜の両親が待つ車の方へと歩を進めて行ったが俺は少しだけ足を止め鈴桜にこう言った
 「鈴桜、鈴桜に別れを告げられてもそれでも好きだった。胡桃鈴桜さん改めて俺と付き合ってくれませんか?」
鈴桜の方を見ると鈴桜が少し涙ぐんでいた
「はい、こちらこそまたよろしくお願いします」
俺は鈴桜の涙を拭いまた歩を進めて行った
〜数年後〜
 「そんな紆余曲折がありましたが俺達はそれがあったからこそより絆が強固になったと俺は思っています。鈴桜のお母さんや周りの方々にはほんとに頭が上がりません ありがとうございます」
新郎のスピーチを終え鈴桜の方を見ると日本に帰ってきたあの日のように目に涙をためていた
 「鈴桜そんな泣いてたら化粧崩れんぞ」
「だってぇ…桔梗君があんなこと言うからぁ…」
 「あはは」
「笑い事じゃないよぉ…」
 「悪い悪い」
そんな感じでどんどんと結婚式が進んでいきブーケトスの場面となった。階段の下には鈴桜や俺の友達や親戚がいた。その中に鈴桜がブーケトスをしようとしたその時だった
「きゃっ」
ブーケを投げようとしていた鈴桜が足を踏み外し階段から落ちそうになったのだ
 「危ねぇ!」
間一髪のところで俺の手が届き階段から落ちることなく助けることが出来た
 「ばーかちゃんと足元みろよ」
そう俺は鈴桜を抱き寄せながら言った
「ありがと…」
鈴桜は頬を少し赤くしながらそう言った そんな事があり改めてブーケトスをした キャッチしたのはあの時相談に乗ってくれた友達の彼女であった その時のあいつと彼女さんの顔といったら俺と鈴桜に引けを取らないほどに笑顔であった その後その友達と話す場面があった
 「ブーケ良かったな、幸せにな」
「今日の結婚式の主役がそれ言うのかよ」
 「言ったっていいだろあん時助けてくれたお前が幸せになるんだから」
「主役はセリフまで主役みたいだな」
 「るせぇ…茶化すな」
「まぁサンキュな」
 「おう」
そんな会話をしたあと友人は彼女の方へ向かい自宅へと帰っていった 俺はというと着替えをすまし同じく着替えをしている鈴桜を待っていた
「お待たせ桔梗君」
 「いやいやそこまで待ってないよ」
「そう?」
 「うん じゃあ帰るか」
「帰ろっ!」
喜びながら鈴桜は俺の腕に抱きついてきた。俺と鈴桜はあんなことがあっても尚付き合っていられその末結婚もしたが世の中の大抵の人はこうもいかないかもしれないだが諦めず成し遂げる気持ちさえあればいい方向には向くのだろう少なくとも俺はそう信じている聖人ではないが今日だけはこれを言わせてもらおう 生きている人々に幸あれ


登場人物設定
如月 桔梗(きさらぎ ききょう) 19歳 大学生 薬剤師をめざし勉強中 鈴桜と付き合い同棲

胡桃 鈴桜(くるみ りお) 19歳 大学生 小さい頃から病気だった 将来の夢は検討中 桔梗と付き合い同棲


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