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創作怪談

【肝試し】
町で有名な心霊スポットがあった。町から少し離れた場所にある一軒家。
そこにはもう誰も住んでおらず廃墟と化しており、元の持ち主は夫と妻、一人娘の3人暮らしの順風満帆で幸せな家庭であったが夫が知人に騙され、多額の借金を背負わされたところから歯車は狂い始めた。
生活は困窮し、すれ違いが起こり始め夫婦仲も険悪になり人生を寄り添う伴侶を罵り合う日々が続き、妻は娘を連れて出て行き夫だけが取り残されて最期は全てを恨みながら、自ら命を絶った。

と言うのがこの家に伝わる怪談であり、町の噂である。
有名なので町の人が知っており、肝試しに行く人も多い。というか定番である。うちの親世代に聞いても知っているがいつ頃、そんな家族が住んでいたかはわからない。そういう話がすでに伝わっていたようだ。
肝試しに定番のスポットなので私も友人数名と行ってみようと言う話が出る。

日付が変わったころの時間帯満月で明るくて、その家ははっきり映って見えた。塀に囲まれ庭に雑草が生い茂る箇所があるが、それ以外は綺麗に見えた。家の外観はスプレーでの落書きがある。先に来ていた人達の仕業なのは明白である。満月の明るさは施錠されていない玄関のドアを開いても、割られた窓ガラスを透過して誰もいない室内の床にある散乱してるゴミや落書き、穴の開いた壁をしっかりと映し出していた。
部屋を一つずつ見て回る。和室があり押入れを開いてみたが埃臭さと言うかかび臭い臭いがしただけで特に何も見つからなかった。
次に寝室。ベッドは置かれていたがボロボロになっており、マットレスには真っ黒な部分が所々浮いている。
「そういえば、ここの夫はどんな死に方したんだっけ?」
友人の一人がそう呟いたが、皆は首を横に振り誰も答えを知らなかった。
続いてキッチン。異臭はするが臭いの元はわからなかった。シンク下の収納スペースは全て開いており空っぽだ。ここも一部落書きがあった。
浴室前の洗面台は破壊されており、鏡も取り外されていた。
浴室を覗いてみたが、ここは光が当たらずにスマホのライトで照らすと「呪われる」とか「ここで死んだ」と落書きがされており、少しだけゾッとした。トイレを開くと洋室の便器だったがこれも一部破壊されており、破片が床に散らばっているのがライトに映った。
「そろそろ帰ろうか」
誰ともなしにそう言った。
少しばかり期待していた怪奇現象,が起こった訳ではなく、皆から少し落胆の色がにじみ出ているのを感じその言葉に同意して帰る事にした。

玄関のドアを開けて全員が外に出た瞬間、同じ方向を見て固まった。
家を囲うに手を掛けて私たちを見つめている男性がいた。その首は異様に長く見下ろして見つめている。その視線を避けられず全員が首を上げて男性の顔を見ている。
そんな私たちを見下ろしている男性のいやらしい笑い顔を、満月の明かりがはっきりと照らしていた。

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