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歯の手入れ #日々の大切な習慣

「これは、親知らずが原因だねぇ。」

3年前、左奥歯辺りに痛みを感じ、近くのクリニックに駆け込んだ。眩しいライトの下で口を大きく開けて診てもらったり、レントゲンを撮って調べてもらったりした結果、親知らずを抜くことを進められた。

「うちで、この親知らずは抜けないから総合病院に紹介状書くね。」
お医者さんは簡単に言うものだなぁ。近くの総合病院なんて、車で1時間程かかる。患者の私にとっては大きな事だったのだ。
「それから、結構、歯茎からの出血多いし、磨き残しもたくさんある。同年代と比べて、歯周病も進んでるから、もっと歯磨き頑張って。」
私は、はい〜、と力なく返事をしながら、今「歯周病って言ったかな」と信じられない気持ちになった。歯周病って、あの、歯を失う原因となる歯周病だよね…。歯周病はもっと歳を重ねてから気にするものだと思っていた。
歯医者さんから色んな説明を一気に言われて、ショックを受けながら、私は診察を終え、会計をして、紹介状を手に持ちクリニックを後にした。

家に帰って、「歯周病」や「歯茎下がり」などの言葉を検索してみる。すると、恐ろしいことばかりが書かれており、私は身震いした。
歯磨き、頑張らないと。

紹介状を持って、総合病院へ行くと、私はまた悩まされた。
「親知らずが重要な神経にかかりそうな感じで生えているから、神経を傷つけないようにします。あなたは口を大きく開けるのが大変そうだから、腕から麻酔を流しながら、歯茎を切開していきますね。」
麻酔…と私は心の中で呟く。
「今日は1人で来たんだよね。でも、手術当日は付き添いの方と一緒に来てくださいね。麻酔が完全に抜けきれていない状態で運転は危ないからね。」
私が同居する家族は祖父母だけ。年齢は2人とも80歳前後だ。高齢な祖父母に運転を頼むのは忍びなかった。
結局、私が頼ることのできる人はその2人しかいなかったので、祖父に頼んで、私は手術を受けることにしたのである。

手術後も大変で、頬から顎の辺りが腫れてしまった。鏡に映る自分を見て、この腫れた顔は元に戻るのだろうかと不安にも思った。そして、自由に食べ物を食べることが出来ない。お粥やゼリーなどあまり噛まなくても良いものを選んでいた。

歯は大切にしよう。
この経験が元で強く思うようになった。
それまでテキトーだった歯ブラシは、自分が磨きやすいものに交換した。歯磨き粉は、歯周病に効果があると書いてあるものし、またホワイトニングにも気を配るようにした。糸ようじも購入し、歯の表面だけでなく、歯と歯の間の掃除も入念にしよう。

鏡を見ながら丁寧に磨く。歯一つ一つを丁寧に。
そんなふうに磨いていたら、歯磨きの時間は1時間になっていた。
「いつまで磨いてるの?」
たまに会う妹は訝しげに見てくる。
そりゃそうだよなぁ。私も1時間の歯磨きを習慣にするのはキツく感じていた。

もっと継続できる歯磨きにするにはどうすればいいのかなぁ。
ふとした視線の先、自分の机の上にイヤホンが置いてあった。そうだ、これだ!私は、自分の好きなことと歯磨きを組み合わせて、歯磨きの時間を楽しい時間にすることにしたのだ。

今は、時間の取れる夜の歯磨きに力を入れている。朝はバタバタしてしまうので、無理せず時間に合わせることにした。

夜、寝る前、耳にイヤホンを装着し、歯ブラシを加えて、右奥歯から歯磨きをスタートさせる。聴きたい音楽を耳に流しながら、鏡の前で楽しく。
いつしか、夜の歯磨き時間は自分の時間になっていた。横から誰かに声をかけられることもなく、自分の世界だけで過ごす唯一の時間。私はこの時間がとても好きだ。
その日が自己嫌悪だらけの日だったとしても、流れる音楽と歯磨きが歯の汚れとともに私の嫌な思いも落としていってくれる。
うがいをして、スッキリとした爽快感は、自然と私をポジティブにしてくれるのだ。
丁寧に歯磨きをした後、どんな困難でも乗り越えられるようなスッキリした気分で、私は1日を終えるのである。

あれから、定期的に歯医者さんへ通っている。歯医者さんは厳しくて、私は行くたびに歯磨きのダメ出しを言われるのだ。それでも、日々私は歯を労りながら、自分を労りながら生活出来ていると信じているのである。
少なくとも、3年前よりは進歩しているかな…と信じて。

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