研究書評

4/11 研究書評

大久保智生、 澤邉潤、赤塚佑果「「子どものコミュニケーション能力低下」言説の検討」香川大学教育実践総合研究 29号、93~105頁)2014年

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、香川大学で行われた現代の子供のコミュニケーション能力についての研究である。2006年10月に埼玉県、香川県の公立A~E小学校5校の4~6年生874名を対象に子ども(小学生)の社会的スキルを実際に測定し,その結果を過去のデータと比較することで、現在の子どもたちの社会的スキルが低下しているかどうかを検討している。この研究は、過去との比較が目的であるため、平均と標準偏差が明示されていて、妥当性信頼性が確認されている戸ヶ崎(1993)の社会的スキル尺度47項目と嶋田(1996)の社会的スキル尺度15項目を使用している。私の研究で主となるコミュニケーション能力について現代の若者は以前までの若者と比べて本当に能力が低下してしまっているのか知見を得ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
近年、子どもや若者が変わった、危険であるという指摘がしばしばなされる。若者の変化の中で特に言及されるのは現代の子どもたちのコミュニケーション能力の著しい低下についてである。近年、多くの研究者よってコミュニケーション能力を高めるための研究も行われていることからも、現在の子どもたちのコミュニケーション能力について「低い」という暗黙の前提があることは明らかである。このように暗黙の前提としてコミュニケーション 能力の低下が述べられているが、現代の子ども果たして本当にコミュニケーション能力が低下しているのか、子どもや若者をめぐる問題や事件が数多く報道されていることから、現代の子どもや若者について否定的なイメージでとらえられ、過去と比較して悪くなった点や低下した点が話題になることが原因ではないかと仮説を立てて調査を行った。研究1ではこれまで行われてきた研究の暗黙の前提の通りなのかを明らかにするため、現在の子どもの社会的スキルを実際に測定し、その結果を過去のデータと比較することで、現在の子どもたちの社会的スキルが低下しているのかについて検討している。次に、研究2では、なぜコミュニケーション能力の低下という暗黙の前提を想定してしまうのかを明らかにするため、学生を対象として、現在の小学生のコミュニケーション能力が約10年前と比較してどのように思うかについてアンケート調査を行い、コミュニケーション能力の低下言説の流布に影響を及ぼしている要因について検討している。
 研究1の結果、戸ヶ崎、嶋田の社会的スキル尺度ともに、過去のほうが現在よりも社会的スキルが高いという結果は、みられなかった。そして、比較されたものの約60%において過去と現在で社会的スキルが変わらないという結果になり、比較されたものの約40%に おいて、現在のほうが過去よりも社会的スキルが高いことが明らかとなった。この結果から、 現在の子どもの社会的スキルは、過去と比較して変わらない、もしくは高くなっている可能性さえあり、低くなってはいないことが明らかとなった。したがって、これまでの研究が暗黙の前提としているコミュニケーション能力の低下は確認されなかった。
 研究2の結果、「低くなった」が51.2%「変わらない」が40.6%「高くなった」が8.2%であった。したがって、「低くなった」と答えた学生が最も多かった。「低くなった」と考える根拠の自由記述については,「少年犯罪の増加」が最も多く,次に「テレビ」が多かった。以上の結果から、テレビなどによる少年犯罪の増加の報道が、コミュニケーション能力が低下したと考える要因として示唆された。少年犯罪の凶悪化言説が誤りであることは疑いない事実であることから、テレビなどのマスメディアの誤った報道にのせられて現代の子どものコミュニケーション能力が低下しているように考えるのだといえる。テレビなどのマスメディアの報道によるバイアスの影響が非常に大きいことは明らかであるといえる。こうした報道を信じている学生は現在の子どもに対してネガティブなイメージを持っており、信じていない学生は現在の子どもに対してポジティブなイメージを持っていると考えられる。

〈総評〉
 今回、現代の若者のコミュニケーション能力が低下していると言われるのはテレビなどの報道機関による偏ったバイアスによる影響が大きいことが分かったため、コミュニケーション能力の低下に関して、根拠のない言説であるということが分かった。しかし、今回の論文では対象とした研究が90年代と2000年代との比較という比較的時代の差異が小さいため90年代よりも昔の若者と2000年代よりも新しい世代の若者との比較をした研究を見つけることが必要であることが分かった。さらに、この研究ではインターネットの普及について触れられていないため、2000年代以降急速に発達したインターネットによって若者へどのような影響があったのかについてより詳しく調査していきたい。

4/18研究書評

八尋風太、久保昂大「スマートフォンの使用と運動習慣およびメンタルヘルスの関連」九州大学健康科学編集委員会  46号、15~20ページ、 2024年3月25日

〈内容総括・選択理由〉
わが国におけるスマートフォンの使用率は13~19歳で81.4%、20~29歳で90.4%と報告されている。その中で79.6%がスマホの過剰使用、スマホ使用制御の困難、他の活動よりスマホが優先される、スマホが使用できない際のいらいらや不安、スマホ使用時間の延長、生活上の障害が生じているのにもかかわらずスマホの使用を続けるといったスマートフォン依存と報告されている。そんな中、本論文ではスマートフォンの使用が運動にも悪影響を与えていると言われている。清野ほかが大学生を対象とした研究によると、運動日数が多い方がスマートフォンに依存していないことが明らかにされた。また、運動習慣定着に必要な運動自信感とスマートフォン依存の間で関連があったことが示された。運動習慣との関連性を調べることに加え、メンタルヘルスにも悪影響があるのか関連性を調べる。
〈内容〉
 本研究の調査対象者において、使用していたアプリのカテゴリで1番使用しているのはSNS、エンターテインメント(動画配信サイト,音楽配信サイト)、ゲームの順であり、平均使用時間(直近 1 週間あたり)は377.9分であった.2番目に使用していたのは、SNS、 ゲーム、エンターテインメントの順であり、平均使用時間は196.3分であった。3番目に使用していたのは、SNS、エンターテインメント、ショッピングであり、平均使用時間は111.4分であった。運動習慣の平均得点は32.46±30.45(100点満点)、メンタルヘルスの平均得点は37.98±4.33(44点満点)であった。スマートフォンの使用状況と運動習慣についてスマートフォンの使用時間と運動習慣の関連を検討したところ、1~3番目に使用していたアプリのカテゴリのいずれも相関関係が認められなかった。また,使用時間が長いアプリのカテゴリ間で運動習慣の差を検討したところ、いずれも有意な差は認められなかった。スマートフォンの使用状況とメンタルヘルスについてスマートフォンの使用時間とメンタルヘルスの関連を検討したところ,1~3番目に使用していたアプリの カテゴリのいずれも相関関係が認められなかった。また,使用時間が長いアプリのカテゴリ間でメンタルヘルスの差を検討したところ、いずれも有意な差は認められなかった。「ながら使用」を測定することができず、詳細に検討する必要性が指摘されていたため、スクリーンタイムという客観的な指標を基にしたところ、関連は認められなかった。このことから、運動習慣がある学生は、運動時間を確保したうえで、余暇時間をスマ ートフォンの使用にあてていることがわかった。
〈総評〉
 今回の調査結果の原因として、自身の運動の成果を共有し運動に対するモチベーションあげることに活用出来るようになったことや細かな運動の情報の共有などにSNSを利用することで運動習慣が促進される可能性があることなどがあげられる。また、動画配信サイトではトレーニングやフィットネスに関する動画コンテンツを提供していることから,運動習慣の形成や維持の一助になることが予想される。さらに、スマートフォンのゲームにおいてはポケモンGOやドラクエウオークなど実際に歩くことでゲームの中のプレイヤーも歩くといった連動するゲームも存在しており、ゲームと運動習慣を両立することが可能であることなども挙げられる。

4/25 研究書評

増加するうつ病とSNSとの関連について
マスターズ2024年3月号
https://e-gyousyu.com/feature/melancholia_sns/

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は世界的に増加傾向にある鬱病とSNSとの関連性について調べたものである。不安定で複雑な現代社会で、日本においては10代の若者の自殺率が高まっている。日本だけでなく世界的にみてもうつ病患者が増加している。これらのメンタルヘルスと関連性が高いと考えられる要素として、SNSが注目されている。SNSとメンタルヘルスの関連性を調べるためにこちらを選んだ。
〈内容〉
 うつ病の患者数が増加傾向にある要因として挙げられるもののうち、SNSと関連のあるものを取り上げる。社会全体が急激にIT化し、職場、家庭、学校などで1人あたりが処理しなければならない情報量が膨大になっていることである。また、SNSの急速な普及により情報発信・共有・拡散が便利になった一方で、攻撃的な投稿を目にして精神的ダメージを受けるなど、いわゆる「SNS疲れ」からメンタルヘルスに悪影響を及ぼすケースもあげられている。
 つぎに、日本の自殺率についてみていく。厚生労働省と警察庁の発表によると、日本全国で2022年の自殺者数は2万1,881人。このうち小中高生が514人と、過去最多となった。小学生は17人、中学生が143人、高校生が最も多く、354人だった。自殺の原因として多いうつ病は子どもにも発症のリスクがあり、自殺対策としても早期発見と治療が求められている。しかし、日本では子どものうつ病に対する治療法や医療体制が確立しておらず、思春期における「反抗期」として見逃されることも多いという。子どものうつ病が増えている原因はどこにあるのだろうか。コロナ禍において、自粛やリモートワーク、感染への不安など、新型コロナウィルスの影響による日常生活の変化は、大きなストレスの原因となった。それに伴ううつ病患者の増加もあって、「コロナうつ」という言葉も生まれ、子どもたちにも大きな不安を与えた。しかし、現在はすでにアフターコロナとなっているのにも関わらず、コロナの影響がピークだった時以上の精神的脅威になっている。そこで今回注目するのがSNSとの関連性だ。これは、子どもに限らず大人のうつが増えている原因とも予想される。
 匿名性のあるSNSでは、身近な存在ではない相手を簡単に誹謗中傷できてしまう。思いやりのない言葉で精神的に落ち込み、SNSに疲れることで、うつ病の発症などにつながってしまうケースも存在する。10代の若者の自殺率の増加や世界的にうつが増加傾向にある事実と、SNSの関係は無視できない。『米保健福祉省(HHS)』は2023年5月23日、「SNSには若者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす『重大なリスク』がある」と警鐘を鳴らし、さらなる研究と規制の検討を呼び掛けた。米国の公衆衛生政策を統括するマーシー医務総監は、「SNSを1日平均3時間以上使う若者はうつ病のリスクが倍増する」と警告。「10〜19歳の若者は脳が発達段階にある」とした上で、「アイデンティティや価値観が形成される思春期初期は、脳の発達が社会的圧力や仲間の意見、仲間との比較に特に影響を受けやすい」と指摘。SNSの頻繁な利用が、若者の感情や衝動に影響する可能性があるとした。また、『米疾病対策センター(CDC)』が発表した調査によると、2021年には3割の米国女子高生が「真剣に自殺を検討した」と回答。SNSの多用はボディーイメージや自尊心の悪化につながるという研究結果もある。
 日本では、『日本体育大学体育学部』の野井真吾教授と城所哲宏准教授らの研究チームが、電子メディアの利用とうつ病の関係性を明らかにするため、東京都世田谷区の公立小中学校の8〜15歳の3万4,643人にアンケート調査を実施。小学校・中学校の男女別に、利用するスクリーンの種類、使用時間を調べ、メンタルヘルスにどんな影響を与えているのかをまとめた。そして発表された研究論文によると、2時間以上の動画視聴およびSNSの使用が、うつ病のリスクを高める可能性が示された。城所准教授によると、これには大きく2つの理由が考えられる。①スクリーンタイム(画面閲覧時間)の増加に反比例して運動や睡眠の時間が減り、結果的にメンタルヘルスに悪影響を及ぼす(置き換え理論)②他人のSNSの投稿を見て劣等感を抱き、メンタルヘルスがマイナスに傾く(社会的比較過程論)このうち②については、利用するSNSによっても影響が異なるという興味深い研究がある。なお、「社会的比較過程論」については、先ほど紹介した米国の研究による「SNSの多用はボディーイメージや自尊心の悪化につながる」とも関係する。
〈総評〉
 コロナが落ち着いた今でも自殺率がどの年代にも多くみられ、自殺率だけでなく、鬱病など、メンタルヘルスにもSNSの関連性があることがわかった。具体的にはSNSを1日平均3時間以上使う若者はうつ病のリスクが倍増すると言う数値も手に入れることができた。10〜19歳の若者がメンタル面で悪い影響を及ぼす傾向にある要因としては、アイデンティティや価値観が形成される思春期初期は、脳の発達が社会的圧力や仲間の意見、仲間との比較に特に影響を受けやすいためであることがわかった。SNSの頻繁な利用が、若者の感情や衝動に影響する可能性があることを知った。今回は選んだ記事の途中までとしたが、次週は最後に出てきた置き換え理論、社会的比較過程論について深く調べていきたい。

5/2 研究書評

増加するうつ病とSNSとの関連について
マスターズ2024年3月号
https://e-gyousyu.com/feature/melancholia_sns/

〈内容総括・選択理由〉
 今回は、先週ではまとめきれなかったSNSの違いによるメンタルへのプラスの影響、マイナスの影響について、社会的比較過程論についてまとめていく。

〈内容〉
 現代では、複数のSNSを利用する人がほとんどであり、日本人が使っている代表的なSNSは、X(旧Twitter)、Facebook、LINE、Instagramあたりである。『東京都健康長寿医療センター研究所』の、都民2万1300人を対象としたアンケート調査によると、全世代を通じてLINEを使っている人が多かった。そして主観的な幸福度は、若者はInstagramの閲覧、中高年者はFacebookへの発信、高齢者はLINEでのやり取りと相関があったという。年代に応じて、これらのSNSを利用することはメンタルヘルスに好ましいとの結果だ。LINEのような家族、友達との連絡ツールとなるSNSは、リアルでの関係が上手くいっている場合は、現代に欠かせないコミュニケーションツールとして有効に機能する。反対に、使いすぎるとメンタルに悪い傾向が見られたのがXだった。匿名での発信や、やり取りが多いXでは、攻撃性に富んだ誹謗中傷が問題となりやい。実名で発信している著名人が、度を越した人格批判や誹謗中傷に耐えかねて、メンタル不調を起こす事件も起こっている。
 また、XだけでなくInstagramにネガティブな結果も見られた。先の『東京都健康長寿医療センター研究所』のアンケートでは、若者の利用に関してInstagramは良い結果であったが、マイナスに働くとする考え方もある。高級なホテルやレストランの写真のアップ、子どもが難関校に合格したなどの投稿は、本人にその意図はなくても、自身の優位を無意識にアピールしている可能性がある。嫉妬や羨望が生じれば、見た人にとってメンタルに好ましいとは言えない。Xにおける誹謗中傷などの分かりやすい悪影響とは、また違った種類のものだ。『英王立公衆衛生協会』による調査では、YouTube、Instagram、Snapchat、Facebook、X(旧Twitter)を比較し、Instagramが最も悪い影響を与えるとしている。これは14歳から24歳の1,479人を対象にした心の健康に与える影響を調査したもので、SNSで経験する不安感やうつ、孤独感、いじめ、自分の外見への劣等感など14項目について質問。若者の心に与える否定的な影響が、Instagramは他のSNSよりも高かった。次いでマイナス要因が高かった順にSnapchat、Facebook、Xと続き、YouTubeは不眠がマイナス要因として強かったものの、自己表現やコミュニティづくり、孤独感の解消などプラスの要因がこの中では最も強かった。同協会は「(InstagramとSnapchatは)どちらのSNSも画像重視で、それが若い人の劣等感や不安感を高めている可能性がある」とコメントしている。この劣等感や不安感を覚える現象が、「社会的比較過程論」で説明できるとしている。
 社会的比較過程論とは、米国の心理学者レオン・フェスティンガーが提唱したものだ。周囲の人々と自分を比較することで、自分の社会的な位置を確かめて自己評価することを指す。例えば、学校で容姿や成績などを同級生と比べて劣等感を感じた場合は、社会的比較によってメンタルヘルスがマイナスに傾いたと言える。社会的比較には「上方比較」と「下方比較」がある。上方比較とは、自分より実力や実績がある人と比較することだ。これによってモチベーションを高め「あの人のようになりたい」と思うことができれば、自己成長につながる。ただ、比較対象が自分よりも立場が高すぎたり、自分が成果を出せなかったりすると、却って自信喪失につながる場合もある。下方比較は、自分より不幸であったり、優れていなかったりする人物や集団と比較することだ。この考えが続くと「私はあの人よりマシ」と安心してしまい、自分の成長を妨げることになるだろう。一方で、自信を喪失していたり精神的に病んでいたりする状況では、気持ちを安定させることに有効だとも言える。他者との比較として望ましいのは、自分と同等の立場の人と比較することだという。上方比較にしろ下方比較にしろ、自分から離れすぎているとネガティブな方向に働いてしまう。『東京都健康長寿医療センター研究所』のアンケートでInstagramに良い結果が出ていたのは、対象となった若者がポジティブに使用しながら上方比較している傾向があったからではないか、対照的に『英王立公衆衛生協会』の調査では、充実度をアピールするような劣等感を感じる意見が多かったために、否定的な結果になったのではないかと予想されている。自分が属する集団、年齢、価値観などを考えた上で、各SNSが有する性格を把握して使用しなければ、ストレスにつながる可能性は高い。特に10代の多感な時期であれば、もろに影響を受けてしまう。
 米国『バーモント大学』のクリス・ダンフォース教授らの研究で、Instagramに投稿された写真の特徴からうつ病を予測するモデルが開発された。画像の明るさや色彩などを、心理学研究で確立された病識をもとに解析した結果、健康なユーザーの写真と比べてうつ病のユーザーの写真には青みが強く、明度や彩度は低い傾向がみられた。他にもいくつかの特徴を発見。これらをコンピュータに学習させ、投稿写真を解析したところ、うつ状態の検出の正確性は70%と高い数値を見せた。この研究成果について、『ハーバード大学』のアンドリュー・リース教授(心理学)は「うつ病の診断は医師によって行われるべき」とした上で、「SNSの投稿写真からうつ傾向を早期発見できる可能性があります」と期待を寄せた。苦しみながらも他人には言えない人がSNS上で出しているサインを拾うことができれば、より多くの人を救えるだろうと考えている。

〈総評〉
 SNSの種類によって、また、年代やそれらの使い方によってプラスの影響にも、マイナスの影響にもなりうる可能性があることがわかった。社会的比較過程論でも述べられていたように、他者との比較が全て悪い影響を及ぼすと言うわけではないことがわかった。むしろ比較する対象や限度を見極めることでメンタル面で良い影響を与えることが可能になることがわかった。さらに、鬱を患う若者はInstagramの投稿にもある程度の傾向があることから鬱らしい兆候が現れたら事前にそれを対処できるようにできる方法があることもわかった。次回以降は置き換え理論(スクリーンタイムの増加に反比例して運動や睡眠の時間が減り、結果的にメンタルヘルスに悪影響を及ぼす)について詳しく調べていきたい。

5/16 研究書評

スマホはどこまで脳を壊すか 朝日新聞(2023/2/13) 榊 浩平 、川島 隆太

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献はインターネットの使用が直接身体的にどのような影響を及ぼすのかついて調べたものである。以前まではインターネット、特にSNSが人間に与える精神面での影響についての論文を探していたが、今回からは身体的にどのような影響を及ぼしていくのかについての論文を集めていくことにしたためこの論文を選んだ。
〈内容〉
 東北大学加齢医学会研究所が2021年度の小学校5年生から中学校3年生、約3.7万人にアンケートを取った結果、学年ごとのスマホ保有率は小5:65.5%、小6:66.6%、中1:77.3%、中2:84.6%、中3:88.4%と言う結果が出た。このように、小中学生がスマホを持つことは、当たり前になっている。内閣府が2022年3月に発表した「令和3年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、1日あたりの「インターネット使用時間」は、小学生平均3時間27分、中学生平均4時間19分で、そのうち「スマホを使用している割合」は小学生が38.6%、中学生が72.6%だった。
 スマホだけに限ったインターネットの使用時間の実態は示されていないものの、このデータから、かなりの割合の小中学生が1日3~4時間スマホを使用していることが推測できる。また、使用目的で最も多かったのが「趣味・娯楽」で、中でも動画視聴が人気だった。
 同研究内において、スマホの使用時間が長ければ長いほど、脳の発達が損なわれ、学力が低下する可能性があることが明らかになった。前頭葉は小学校高学年から20歳頃にかけて特に発達しますが、この時期にインターネットを使う時間が長いと、前頭葉の発達に悪影響が出てしまうと判明したためである。心の発達や学業に大きく関わる脳の部位は「前頭葉」であり、前頭葉は思考力・自制心・コミュニケーションなどに重要な働きをする。平均年齢11歳の子どもたち223人を3年間追跡した調査では、インターネットを使っている子どもほど、認知機能を支える前頭葉や記憶に関わる海馬などの発達に悪影響が見られた。特にインターネットを「ほぼ毎日使っている」と回答した子どもたちの脳は、3年間でほぼ発達していなかった。小中学生はスマホを使えば使うほど、脳の発達が損なわれる可能性がある。
 また、仮に勉強を1日3時間以上して十分な睡眠時間を確保しても、スマホを3時間以上使っている子どもたちは成績が平均未満だということがわかった。スマホを長時間使用すると、睡眠時間を十分にとってもたくさん勉強をしても、成績が落ちてしまう。これは脳の発達が損なわれることと、スマホを見ながら勉強することにより、勉強の質が低下することが原因と考えられる。実際、ながら勉強をしている勉強時間3時間以上の子どもと、ながら勉強をしていない勉強時間30分以内の子どもたちの成績はほぼ同等だった。そして、小6と中1の子どもたち14,411人を2年間追跡調査したところ、スマホの使用時間が増えるほど成績が落ち、使用時間が減るほど成績が上がった。子どもが習慣的に長時間スマホを使っていたとしても、使用時間を減らすことで、挽回できる可能性があります。子どもの脳の発達を守り、学力を上げるには、スマホの使用時間を減らすことが重要であるとされている。

〈総評〉
 今回はインターネットが与える身体的な悪影響について調べた。スマホをさわれば学力が落ちるとはなんとなくわかってはいたけど、ただ、勉強時間が少なくなることだけが原因だと思っていた。しかし、そんな単純なことだけではなく、脳に直接影響を与えているということを初めてしった。スマホは睡眠の質を下げるとよく耳にするが、科学的根拠を取り入れて理解した上で今後取り扱っていきたい。

5/23 研究書評

スマホはどこまで脳を壊すか 朝日新聞(2023/2/13) 榊 浩平 、川島 隆太

〈内容総括・選択理由〉
 先週からインターネットが与える身体的な悪影響についての論文を探している。今回参考にした文献は、先週と同じもので、先週にまとめきれなかったものをまとめていく。

〈内容〉
 脳の発達が活発に行われる小中学生の子どもたちにとって、スマートフォンは発達を阻害してしまう悪影響をもたらすことが先週の内容で分かった。脳の成長には、ただただスマホが与える効果で悪影響を及ぼすと言うだけではなく、スマホを使いすぎることによって、顔を合わせたコミュニケーションをする機会が減るために脳を健全に発達させないことがわかった。
 平均年齢約11歳の子ども208人を3年間追跡した調査によると、親子で過ごす時間が長い子どもたちほど言語に関する脳の領域が発達していて、言語能力が高いことが確認された。また、親子でたくさん会話をしているほど、言語の発達に良い影響があることもわかった。子どもだけでなく、親も長時間スマホを使っている現代では、親子のコミュニケーションが希薄になる傾向にある。子どもの脳を健全に発達させるためにも、親子でスマホの利用を減らしてコミュニケーションを増やすことが大事である。
 スマホの利用率が色々と悪影響を及ぼすとのことだったがスマホの使用目的のうち、子どもたちのインターネット使用時間の多くを占めているのが動画視聴である。YouTubeやTikTokのようにおすすめ動画が次から次へと表示されると、長時間視聴し続けてしまう傾向にあるのである。特に、ショート動画の視聴では、1つのことに長時間集中し続けることがない。好奇心のままに次々と動画を視聴するため、集中力・自制心が低下するリスクがある。
 スマホをついつい触りすぎてしまうことへの対処法は、自分が何時間スマホを触ったのかを把握し、使用時間を制限することが大事である。使用時間を制限する機能があるフィルタリングアプリなら、強制的にスマホの使用時間を制限できる。平日・土日など、曜日ごとに使用時間を制限できるアプリなら、平日を減らして土日を増やす、といった細かい使い方もできる。
 小学校高学年は約66%、中学生は約77〜88%がスマホを保有しており、平均3〜4時間ほど使用している。スマホの使用時間が長いと脳の発達が損なわれ、学力が低下する恐れがある。特に、スマホを3時間以上使用すると、勉強を頑張っても睡眠時間を確保しても、成績が平均未満になってしまうことがわかった。平均の使用時間が3時間を超えているため、子どもの脳の発達と学力を守るためにもスマホの使用制限は必須であるといえる。

〈総評〉
 インターネットの使用が学力や脳の発達に直接関係があることが判明した。今後は、何がここまで中毒性を高めているのか、ショート動画など、タイパが重視されより短時間で刺激の強い(好奇心をくすぐる、面白い)コンテンツが生まれる現代で、それを見続けることによって生じる身体的な悪影響(一つのものを最後まで見続ける集中力、物事を深く考える能力、が失われるのでは?自制心がなくなるとあったがそれについても詳しく)は何なのかついて、調べていきたい。
 発達した脳もスマホを触りすぎることによって弱体化してしまうのか、脳が発達しきったとされる大学生くらいの年代の若者への脳の影響はあるのか気になった。

5/30 研究書評

佛教大学教育学部学会紀要、第22号、2022年9月、篠原正典
「ネット検索した情報を覚えよう、理解しようとしない傾向」
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/KK/0022/KK00220L015.pdf

〈内容総括・選択理由〉
 前回の書評において、インターネットの普及によってタイパが重視され、簡単に答えを得られるようになったため、一つのものを最後まで見続ける集中力、物事を深く考える思考力が失われるのではないかという仮説をたてた。そこで、今回はネットで検索した情報とそれを覚えよう、理解しようとすることの関連性についての論文で調べた。

〈内容〉
 OECDのPISA調査や令和3年度の全国学力学習状況調査では、児童生徒が勉強のためにICT機器を使った時間が長くなるほど成績が低下する結果を示している。この原因は不明であるが、容易にネット検索により情報が得られるようになった弊害として、ネット検索した情報を覚えよう、あるいは理解しようとしていないことが考えられる。この傾向を確認するため、大学生に対してネット検索して解答することも可とした問題を解かせる実証実験を行った。その結果、問題種にも依存するが、「思考力が必要な問題」「既有知識が少ない問題」「文章で解答する問題」などは、検索して一度正解を得たとしても、それを覚えていない、あるいは理解していない割合が40%以上に至ることがわかった。
 小・中学校ではGIGAスクール構想によりー
人1台のコンピュータが普及され、2021年7月末現在、1,744の自治体(全体の96.2%)において、児童生徒が学習用端末を使える環境が整備された。高等学校もこれに習って生徒一人1台のコンピュータの普及が進んでいる。OECDの調査では2018年度時点、日本の学校の授業でのICT活用は、参加国中で最下位の状況であったが(OECD,2018)、GIGAスクール構想により、学校でのICT活用が一気に加速されることが期待される。しかし、ICT活用は科目による効果の違いによって効果があるといった結果や、ほとんどの国で学校での利用より家庭での利用が大きく、コンピュータ利用は家庭環境に依存するという結果を示しており、学校でのコンピュータ利用を促進する必要はあるのかという結果も出ている。
 「普段(月曜日から金曜日)1日当たりスマートフォンやコンピュータなどのICT機器を勉強のために使っている時間と正答率」において、30分未満勉強のために使っている場合が最も正答率が高く、それ以上使うと正答率が低下する傾向があることがわかった。この他,グラフは示さないが、児童生徒が授業でICT機器を使用した頻度と正答率との関係においても、月1回未満に比べて月1回以上使う児童生徒の正答率は上がるが、それ以上の頻度で使うと逆に正答率が低下する傾向が見られている。実は、このような傾向はOECDの報告でも既に伝えられている。2015年のPISAの読解力の点数と学校内及び学校外での勉強や学業のためにコンピュータを使用した頻度との関係を見ると、学校外での使用では、宿題のためのコンピュータ使用や勉強に関する友達とのメールのやり取りなど、使用形態によって若干傾向の違いはあるが、ブラウジング(ネット閲覧)の場合、週に1.2回の使用頻度の場合が最も点数が高く、毎日使うほどの使用頻度になると急激に点数が減少している傾向を示しており、その差は30点以上にも及んでいる。この傾向に対して、同OECDの報告書では「ICTが単に生徒の気を散らすだけである可能性がある」という指摘がなされているが、PISAによる報告以前にICT活用による記憶保持の低下等に関する研究結果が報告されている。インターネット利用が人間の認知に及ぼす影響が心理実験から明確にされ、「グーグル効果」と命名されている。「グーグル効果」とは別の場所に保存されているから脳が自分では覚えようとしない現象を意味する。
 「グーグル効果」と類似であるが、Kaspersky研究所(2016)はデジタルデバイスに情報を保存したことで安心してしまい。その情報を忘れてしまう現象を「デジタル健忘症」と命名し、日本でもその傾向があることを明らかにしている。被験者となった18~69歳のインターネット利用者623人を対象に、7割以上の人が「デジタルデバイスに頼ることで、昔に比べて記憶しなくなった」という結果などを質問紙調査により明らかにしている。
 スマホが日常生活に不可欠になった現在、その利用に関しても、脳神経外科の視点から、スマホを使いすぎることによる「考えない脳」すなわちスマホ認知症やスマホ脳といった症状への鐘も発せられている。この他、斎藤ら(2016)はSNS利用がテキストの読みに与える実証実験を行い、利用頻度が高いほど、テキスト内容の記憶保持が弱くなり、読み時間が長くなるという結果を報告している。
 本研究では、検索した解答(情報)を覚えているか、理解しているかを調査するために、既有知識とのズレが考えられる「言葉の意味」問題、漢字そのものの既有知識はあるが熟語となった漢字のイメージがつきにくい「漢字」の問題、身近ではあるが既有知識がない「惑星の大きさ」の問題、考えて理解する必要がある「三平方の定理の証明」問題を設定し、ネット検索して得られた解答が、その後の同じ試験で検索せずに正解できるかを調べた。主に不正解となる割合に着目し、それをネット検索した情報を覚えていない,理解していない程度と判断してそれと問題種との関係を調べた。
 「言葉の意味」問題は、既有知識とのズレを生じさせる問題であり、正解を覚える可能性が高いと想定されるが、不正解率が40%程度あることがわかった。三平方の定理を証明する問題では、ネットで正解を調べたとしても、数式の流れを考えてそれを理解する工程が必要となるはずである。ところが、不正解率は60%存在し、考えて、あるいは理解して解答していない,すなわち、ただ解答を写して書いている可能性が高いことがわかった。また、解法に着目すると、中学時代に最も多く説明されていた解法を用いた場合と、利用が少ない解法を用いた場合を比較すると、少ない解法、すなわち既有知識が不足している、あるいは無いケースでは70~100%と非常に高い不正解率となることがわかった。太陽系惑星の大きさを問う問題は、身近な惑星ではあるが、大きさに関する既有知識が少ない問題であることから、このケースでも45%という高い不正解率が見られた。
これらの結果から、明らかにネット検索した情報を覚えていない。あるいは理解していない状況が存在し、「思考力が必要な問題」「既有知識が少ない問題」「文章で解答する問題」において、その傾向が高いことがわかった。
 今回の実証実験では検索した場合でも、比較的記憶に残りやすい情報を敢えて用いたが、検索した情報を覚えていない、理解していないという状況は明確に存在し、その割合は無視できない値であることが明確になった。ネットの中に必要な情報が掲載され、それらの情報がデジタルデバイスにより容易に取り出せるから、敢えて覚えなくてもよい、あるいは理解しなくてよいと考え、それが無意識のうちに習慣となっているのかもしれない。

〈総評〉
 三平方の定理の証明問題など、インターネットで検索して回答した際には正解を出すことができても、もう一度インターネットを使わずに回答する際には不正解になる割合がとても可能性は高くなった。このようにインターネットを学習に用いる際には、物事の過程をすっ飛ばして答えを先に知れるため、真の学習には適していないことがわかった。学習目的のインターネットの使用頻度においても、一定の時間や頻度を超えると逆に成績が悪くなるという結果が出ることがわかった。さらに、インターネットで調べることによってデバイス上に答えが記憶されるため、より一層調べた情報を覚えようとしないということがわかった。今までは根拠がなく、実体験から漠然と感じているだけだったが、実際に研究結果と結びつけることができた。今後はさらにインターネットが身体に直接与える悪影響について詳しく調べていきたい。

6/6 研究書評

「大学生のインターネット依存傾向と健康度および生活習慣との関連性」
片山友子、水野(松本)由子 2016年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhep/43/6/43_657/_pdf/-char/ja

〈内容総括・選択理由〉
 今回の記事では、インターネット依存が与える心身の悪影響について、健康度および生活習慣に着目してどのような影響を及ぼすのかについて調べた。

〈内容〉
 総務省の調査によると、20代のインターネット利用は99%を超え、スマートフォンでの利用は約88%となっており、スマートフォンの使用者は急増している。文部科学省はインターネット依存はギャンブルや買い物依存と同様、行為への過程への依存とみなされ、インターネット依存問題は日本にとって今後さらに重要となる問題であり、調査・研究の必要性を示唆した。しかし、文部科学省の調査では、 日本の現状、現時点での子どもたちの実情を考慮し、時期尚早との判断から、インターネット依存傾向にあるという視点を採用した。
 インターネット依存傾向尺度による分類から、インターネット依存傾向群をI群、非依存群をⅡ群と分類した。この2群について、心身の健康および生活習慣、気分状態の調査を行い、その特徴を分析した。調査の結果、対象者156名中、1群は58%、I群は42%であった。1群はI群と比較すると、身体的健康度、精神的健康度、睡眠の充足度が有意に低値を示した。1群は、睡眠不足のため、昼間に眠たくなり、勉強がスムーズにはかどらず、大学生活に影響を及ぼしていることが示唆された。また、就寝時間が遅くなることから夜食の習慣化が生じ、目覚めの体調不良から朝食の欠食などがみられ、イライラ感や肥えすぎ・やせ過ぎなどにも繋がると考えられた。心理検査では、1群はI群と比較すると、不安感、抑うつ感、イライラ感がつのっていることが分った。これらの結果から、ネット依存傾向のある者は、睡眠習慣と身体的および精神的健康に相互に悪影響を与える可能性が示唆された。さらに、1群の約65%にインターネット依存傾向があることを自覚しているが、約17%には自覚がなく、依存傾向が進行する可能性が示唆された。
 本研究ではネット依存傾向があると自覚している学生が多く、自覚しながらも依存していることがわかった。ネット依存についての調査研発においても、悪影響を及ぼしていると自覚はあるものの利用してしまう傾向がうかがえると述べている。これは、アルコールや薬物などの物質依存とギャンブルや買い物など行動によるプロセス依存の特徴を、繰り返し続ける(反復性)、意思と判断を越えて繰り返される(強迫性)、意思と判断の抑制がはずれる(衝動性)、執拗で徹底している(食欲性)、好きでやっている、何もかも忘れられる(自我親和的)、自己に不利な悪影響を及ぼす(有害性)と同様のものだと述べられている。ネット依存は、ギャンブル依存と同様、行為への過程への依存である。
 また、Ⅰ群の身体的健康度、精神的健康度、睡眠の充足度の平均得点は、II群と比較すると、有意に低値を示した。Ⅰ群は、睡眠不足のため昼間に眠たくなり、勉強がスムーズにはかどらず、大学生活に影響を及ぼしていることが推測できる。大学生を対象としたインターネット利用状況と睡眠習慣、食習慣、運動習慣との関連に関する先行研究では、インターネット使用量は睡眠習慣や食習慣の乱れと関連していると報告されている。
本研究においても、ネット依存傾向のあるⅠ群の睡眠の充実度、身体的健康度、精神的健康度は、非依存群であるII群と比較すると、低値を示した。因子別では「食事の規則性」に有意差はみられなかったが、I群の「食事の規則性」の平均得点はI群と比較すると、低値を示した。「食事の規則性」は高得点ほど朝食・昼食・夕食のずれが少なく、欠食がない傾向が強くなる。これらの結果から、I群は就寝時間が遅くなることから夜食の習慣化や目覚めの体調不良から朝食の食などに繋がることが予測される。また、このような影響は、イライラ感や肥えすぎ・やせすぎなどにも繋がると考えられる。ネット依存傾向のある者は、ネットの多用により、睡眠習慣、身体的健康と精神的健康が相互に悪影響を与える可能性が示唆された。

〈総評〉
 本研究では、ネット依存傾向のある者に関して、ネットの多用が睡眠習慣、身体的健康と精神的健康に影響を及ぼしていることがわかった。また、依存傾向のある者には、ネット依存の自覚がある者が多かったが、自覚がありながらも依存してしまう傾向にあることがわかった。また、自覚がない者は多くはなかったが、自覚しないまま依存傾向が進行する可能性があり、自覚を促す必要性があると考えられた。
健康状態の悪化、生活習慣の乱れから生じる生活習慣病など様々な疾病につながることはわかった。

6/20

「中学生における部活動の取り組み、インターネット依存と学校適応―生活習慣の視点を含めた交差遅れ効果モデル分析―」 上沼あずさ、石津憲一郎 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 教育実践研究 第12号 通巻34号 平成29年12月

〈内容総括・選択理由〉
 私の研究ではインターネットが与える悪影響について調べているが、主な対象者は中高大学生などのわかものである。そこで、とくに中高生にとって身近なものであるインターネットと部活動の双方の関連について調べていく。
 特にインターネットは今後さらに学校教育において導入されていくことを考えると、様々な要素と関連づけてインターネット依存について検討していくことは重要なことであると思われる。すでに、中学生のインターネット依存については、対人場面に関連する問題を抱えていたり(鄭,2008),日常生活に支障が生じている(鄭・野島、2008)ことが指摘されている。ただし、これまで蓄積されてきた研究の多くは横断的なデザインによる研究が主であり、学校内の対人関係や、日常的な生活習慣に着日した研究は、より蓄積されていく必要がある。そこで本研究では、中学生の学校生活に関連している部活動,全般的な学校満足感,生活習慣とインターネット依存との関連について、短期縦断的な研究デザインを用いて、その双方向の影響性について検討している。

〈内容〉
 本研究の第一の目的は、部活動での積極性がインターネット依存に影響を与えているのか、反対にインターネット依存が部活動での積極性に影響を与えているのかといった、その双方向性について検討することとする。
 また、生活習慣、学校適応についての関係性を示し、学校適応や学校生活に寄与する要因を、インターネット依存という視点から検討することを第二の目的とする。第二の目的において、生活習慣や学校適応がこれらにどのように関わっているのかを、2回の調査により短期縦断的に調査することで、それらの要因の短期的な因果関係を探ることを目的とする。
「部活動での積極性」に関しては、「学業コンピテンス」「学校生活満足感」との間に有意な正のの相関がみられた。吉村(1997) による先行研究により、部活動への満足感が学校生活全体への満足感にも結び付くとされていることから、学業・学校生活ともに影響しあっていると考えられ、今回の分析結果は先行研究の結果を支持するものであったといえる。
 また、「部活動での積極性」と「インターネット依存」との間に有意な負の相関がみられた。 Sinkkonen,Puhakka & Merilainen (2014) によると、フィンランドの15歳~19歳に対する調査で、青少年たちは、インターネットに費やした時間は浪費され、それをもっと便利に過ごせたと考えている。時間を使うという面で、部活動は放課後の時間を利用し、休日にも活動を行う場合があるので、多くの時間を費やし活動することになる。その結果、インターネットをする時間が減少することが考えられるため、部活動での積極性」と「インターネット依存」間に負の相関がみられたことは、先行研究の結果を支持するものであったといえる。
 「インターネット依存」と、「学業コンピテンス」「学校生活満足感」との間にも有意な負の相関がみられた。津田ら(2015)によると、小学生においてインターネット依存傾向群は、学習時間が短いということが示されており、学習時間が短いということは「勉強をした」という自信を持ちにくくなると考えられ、これが学業への意欲を減少させているのではないかと推測できる。そのため、「インターネット依存」と「学業コンピテンス」においての関係は、先行研究の結果を支持するものであるといえる。また、三島ら(2014)による先行研究により、携帯電話に対する依存傾向が強い生徒ほど欠席日数が多く、学校適応が低いことが示唆されている。これより、「インターネット依存」と「学校生活満足感」の負の関係も、先行研究の結果を支持するものであったと考えられる。
最後に、「学業コンピテンス」と「学校生活満足感」関して、有意な正の相関がみられた。これは学校適応における要因として、友人との言頼関係,学業・進路の双方が関係しているため(渡辺・大重、2011)、正の相関がみられたのではないかと考えられる。

〈総評〉
 インターネットに依存してしまうことで学校生活の満足度を上げる要因である部活動など勉強以外の学外での活動時間に費やす時間が減ってしまうために、相対的に学校生活に不満を持つようになる傾向があることがわかった。また、学業に対しても勉強している時間が少なくなってしまうために、自信がなくなってしまうという結果につながることがわかった。今回ではまとめきれなかった部分があるので来週はさらに深掘りしていきたい。

6/27

青年期における運動部・スポーツクラブ活動がストレスおよびメンタルヘルスに及ぼす影響
一高校生を対象とした15か月間の縦断研究一108、1~7、2010年
永松俊哉、鈴川一宏、須山靖男、松原功、小山内弘和、越智英輔、甲斐裕子、植木貴頼、若松健太、青山健太

〈内容総括・選択理由〉
 前回の研究書評ではインターネットに依存することで相対的に部活動の時間や、勉強時間が減ってしまうために、学校での満足度が下がったり、ストレス値、メンタルに悪影響を及ぼしたりすることがわかった。今回は何がそれらに影響を与えるのか具体的に調べた。

〈内容〉
 全日制・普通科の私立学校であり、カリキュラムに応じて4つの設置コースがある福岡県内のH高等学校に通う1年生男子787名を対象とした。当高校では部活動(体育系:17種目、文化系:18種目)をはじめとした課外活動が奨励され、全国レベルでの優れた成績を収める運動部ならびに文化部を有する。課外活動状況および気分について自記式調査票を用いて集合調査法により実施した。課外活動状況は、①中学生時代の運動部活動あるいは地域のスポーツクラブへの所属の有無と活動終了時期、②ベースライン時点における運動部活動あるいは地域のスポーツクラブへの所属の有無と1週間の活動日数、③運動部,地域スポーツクラブ、体育の授業以外での運動実施の有無をそれぞれ調査した。気分の調査には、Profile of Mood States (POMS)正規版(65項目)を基に作成された日本語版POMS 短縮版3)を用い。先行報告 18)に準じて実施した。
 測定項目は、ストレス反応の指標として唾液中の分泌型免疫グロブリン A(S-1gA)を測定した。対象者は、唾液採取に際して 100mlの蒸留水で口腔内をすすぎ、5分間座位安静を保持した。口内の唾液を飲した直後に滅菌綿を口に含み1回/秒✕60秒間咀嚼し、その間に分泌された唾液を滅菌綿に吸着させた。その後滅菌綿3000rpm ✕5分間遠心して試料を採取し、分析に供するまで凍結保存した。S-lgAの定量は外部検査機関(SRL 社)に委託し、酵素免疫法にて実施した。
 結果としては、慢性ストレス反応の指標として用いた S-IgAは、近年では心理要因に反応して変動するストレスマーカーとして注目され、その分泌動態は慢性ストレス条件下で低下するとの見解が示されている。運動との関連では、10日間の高強度トレーニングで分泌が低下し、その影響はトレーニング終了後も数日間継続するとの報告がある。本研究ではS-IgAの調査時の値がNA群に比較してSA群で低値であった。このことに関して、SA群は入学直後から上級生とともに競技力向上を目指した練習をほぼ毎日実施する状況にあったと考えられる。そのような環境でのトレーニングがベースライン調査時点ではストレッサーとして作用し、慢性ストレス反応の亢進に繋がった。運動・スポーツの心理的効果として、感情の調節や適応性の向上、あるいは自信の高揚が挙げられる。他方、青年期はスポーツの場面でのライバルを競争的のみならず協同的に認知する時期とされている。SA群にはこれらの心理効果や認知作用が生じることで怒り一敵意、活気、混乱のレベルが良好となった可能性が考えられ、その効用は慢性ストレス反応の存在下でも発現されることが示唆された。

〈総評〉
 高校での運動部活動は学校生活への適応や満足感を強く規定し、部活動の精神的健康面への効果は1年生よりも2年生で顕著であることが示されている。また、アスリートトレーニング合宿においては1回目よりも2回目の合宿で精神状態が良好であったとの報告があり、運動・スポーツ活動における身体的馴化が心理面に何らかの恩恵をもたらすことがうかがわれる。本研究のPOMS の項目では疲労と抑うつに交互作用を認め、身体疲労の常態化が想定される SA群の疲労の値が減少していた。このことから、青年期の運動部・スポーツクラブ活動の長期継続は身体疲労への馴化・適応を通して精神的疲労の軽減に寄与することが推測される。未成年の抑うつの問題は今日におけるメンタルヘルスの維持改善を図るうえで極めて重要な内容であるにもかかわらず高校生に関する実態調査は小学生や中学生に比べて極めて少ないことが指摘されている。

7/4

「部活動継続者にとっての中学校部活動の意義
ー充実感・学校生活への満足度とのかかわりにおいてー」
お茶の水女子大学 角谷詩織、無藤隆 2001年

〈内容総括・選択理由〉
本来の研究はインターネットの使用による影響であるが、インターネットを使用することによって、相対的に部活動などの時間が削られるため、学校満足度が下がることがわかった。今回は中学校における部活動の意義についての資料を選択した。

〈内容〉
 この研究は、中学生の生活における部活動の重要性に焦点を当てている。研究では、7年生と8年生が5月と10月に行われた2段階の質問紙調査に参加した。研究者は、発達段階-環境適合理論(Eccles、Wigfield、&Schiefele、1990)を用いて、課外活動が学生のニーズにどの程度適合しているかを分析した。その結果、課外活動が学生の発達上のニーズを満たすかどうかが、その生徒の学校生活における充足感や満足感に影響を与えることが示された。特に、7年生が課外活動に対するコミットメントが、5月よりも10月における学校生活の満足度に与える影響が強かったという興味深い結果も得られた。この研究から、クラスで何らかの理由で不安を感じている生徒にとって、課外活動は安心の機会を提供していることが示唆された。課外活動は、学生たちが学校生活全体でより満足感を感じる手段として重要である可能性が示唆される。この研究は、学校教育における課外活動の役割を理解し、生徒の発達や学校生活に対する影響を考える上で貴重な示唆を提供している。

〈総評〉
部活動継続者にとって、クラスだけでなく、部活動においても中学生の欲求が満たされていれば、充実感や学校生活への満足度が高まる可能性があることがわかった。特に、クラスでの欲求満足度の低い中学生にとって,部活動は学校生活への満足度を高めてくれる要因となりうることが示唆された。そして、中学生に対する部活動の影響力は、1年生の5月から 10月にかけて増加し,変容すると考えられる。

7/18

第11回 日本小児耳鼻咽喉科学会教育セミナー2
「子供の言葉の発達とメディア」川上一恵 2016

〈内容総括・選択理由〉
インターネットの使用によって脳の発達が阻害されることがわかったが、幼少期において過剰に使用することはどのように影響するのかと言う記事を選んだ。

〈内容〉
この資料は、日本小児耳鼻咽喉科学会の教育セミナーでの講演内容をまとめたもので、特に子供の言葉の発達とメディアの関係について詳述されている。2004年に日本小児科医会が乳幼児のテレビ、ビデオ、ゲーム機器の使用に関する提言を発表し、情報通信技術(ICT)の発展が子供の発達に与える影響を懸念し、10年以上にわたり研究が進められている。
子供の言葉の発達では、聴覚が言語発達に重要であり、新生児期から適切な言語刺激が必要。過剰なメディア接触が乳幼児の言語発達に悪影響を与えることが確認されている。
生後12-18か月の幼児では、親の直接的な関わりが言葉の獲得に重要である。テレビ視聴の時間と番組の質が言語発達に影響を与える。小中学生においても、過剰なメディア接触が学力低下や攻撃的行動の増加に関連。
紙の絵本とデジタル絵本の比較では、紙の絵本の方が物語全体の理解に優れる。親子での対話的共有視聴が語彙量の増加に有効。メディア非接触時間の重要性が強調され、外遊びや家族とのコミュニケーションが奨励される。
乳幼児期のメディア接触には注意が必要で、親子のふれあいや会話が重要であるとしています。日本小児科医会では、ポスターを作成し、啓発活動を行っています。

〈総評〉
紙媒体の絵本とデジタル絵本を比較した場合、紙媒体の方が物語の理解に優れると言うことがわかった。なぜこのような結果が出たのか詳しく調べたい。また、幼少期には家族とのコミュニケーションが必要だとのことだったが、思春期においても家族とのコミュニケーションの有無は関係あるのか調べたい。

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