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カバチレビュー

2週間前の『#マンガ新聞』に掲載した『カバチ!!!』のレビュー原案です。マンガ新聞さんへの掲載の際には編集をしていただいてるのでこちらは生原稿?になります。
最近下書きをnoteでしてるのでせっかくなので掲載します。

マンガを読んで心が震えるって感覚は

僕らみたいにマンガが大好きでしょうがないって人でもそうそうあるものではありません。
ましてや、読み続けている長編作品だと尚更そんな機会は少なくなったりもします。

今回は僕自身が久しぶりにガッツリ痺れて心が震えたこの作品をレビューします。

それは『カバチ!!!』の第26巻です。

『カバチ!!!』

は『カバチタレ』のサードシーズンの現行作品でこの26巻は発売されたばかりの最新巻。
毎度様々な法的トラブルを大野事務所の面々が法律と共に取り扱う人間ドラマです。

今回の作中テーマは『法律は誰が為のものか?』という非常に重いテーマです。

事の始まりは昨今問題になってきた『空き家問題』から始まります。とある朽ちた空き家の処理を巡り法律相談に来た町内会の人達からの依頼を受けて主人公田村は解決に向けて動き出しますが、所有者の捜索から相続者とのやり取りと非常に交渉は難航します。

もう少し詳しく説明すると今回のこの空き家問題ですが、
所有者の死後に普通こういった資産は相続され相続人の中の誰かの手に渡るのが一般的ではありますが、今回のケースでは相続者がそもそも所有者と縁遠く、また所有者の身内も居なかったことから相続している事すら知らなかった事やまたこの空き家自体が朽ちかけており、また現行法でここに新しく家を建てるということが難しいことなど様々な要因が含まれていたためにお話がよりややこしくなってしまっていたのです。

現実の世界でもこの空き家問題は非常に問題になっており社会問題化してきています、家を相続しても修繕費や相続税、固定資産税など単純に家が手に入ってラッキーということだけでは実は無く、家屋は文字通り負の遺産になることも珍しくない時代になっているのです。

そして並行して描かれるもう一方では、リタイア中の前所長である大野が旧知の依頼人からの案件に頭を抱えていました。
こちらの問題は相続した土地というか“山”が問題になっていました。所有しているのは高齢の女性の方で今は身よりもなく一人で暮らしており、人生も晩年に差し掛かってきた、そんな身の上の方です。
そんな彼女が相続をして守ってきた山でしたが、悪天候による土砂崩れなどが頻発しその都度近隣トラブルや行政の指導に従い多額の費用をかけ修繕をして来たものの、とうとう金銭も底を尽きたためその土地を処分したいと申し出たもののそれを国が許さないというものでした。

このカバチシリーズ全編を通しても“ラスボス”と言っていいほどの活躍を見せてきた大野と言えどこの依頼に関しては当初より旗色が悪く手を打とうにも上手く事が進まない状況になっていました。

そして事態は更に悪化していき個人間のトラブルから行政を巻き込んでいくことになります。

片側の物語では行政の力を借りながらもう片方の物語では行政の力に対抗するというストーリー仕立てになっており非常に緊迫したシリアスな展開になっていきます。

『カバチタレ』シリーズは法律事務所を舞台にした物語でこれまでに様々な法律トラブルを取り扱って来ましたが、ここ最近のエピソードではいわゆるマンガ的なフィクション的なわかりやすい解決策である、『勧善懲悪』のドラマではなく、
“一応の解決はしてるように見えるけれど実は根本的な解決は出来ていない”
という結末の物語が増えてきていました。

マンガとして物語としてはきちんと解決して終わるのが良いのかもしれないですが、現実のお話ましてこういったトラブルっていうのは得てしてお互いが納得出来たり、どちらかだけが利を得たりせずに、モヤッとした感じが残ったりするものなので、本作も無理に解決はしない方がリアリティがより出ていき説得力が増しているようにも思います。

今回のお話のように法律は僕達のことを何から何まで片をつけてくれたり守ってくれるのではなくて、時に法律というのは誰かにとっては味方になって力を貸してくれる反面で誰かにとっては人生を狂わせるほどの大きな力にもなりえるということを今回のエピソードで強く描かれました。この観点は『カバチタレ』の連載開始時の最初のエピソードでも提示されていたので、改めて原点回帰を今巻で果たしたのではないでしょうか?

法律とは本来そういった多面性を含んだもので、今回のお話の中で片方にとっては役に立ったけどもう片方にとってはどうしようも無い程の権力として行政側が描かれました。
もちろんこの行政側の言い分は実は至極真っ当なお話でにされるような描かれ方ではなく、依頼者や対峙する相手方など全ての人の立場が今回はより丁寧に描かれていて、読み応えがある巻になっています。

法律とそしてそれを取り扱う人達の矛盾や葛藤そしてそれでも戦わざるを得ない物語は社会問題についても詳しくなれるお仕事マンガです!

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