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「革漉き」革の厚みを調整する

厚みのある革をスライスして薄くすることを「漉き(すき)」といいます。

革の厚みの調整はとても重要です。
例えば財布をつくるとして、表の革は全体に何ミリで、縫い目の手前からコバまでを更に薄く何ミリに斜めに漉いて、内側の革は何ミリでコバ付近は何ミリ、重なるパーツは何ミリ・・・と勘案します。
多数の革が重なる小物の場合、耐久性との兼ね合いもありますが、
「たくさん重なる部分だからそのままでは厚くなりすぎる、でも重なっていないところと全く同じ厚みは逆に違和感があるから合計で0.4mm増やそう」なんて試算して、調和のとれた美しい品物を目指します。

漉き機

ghoeの品物が手縫いであることをお伝えすると、工房の奥にある機械を指して「あのミシンは使わないんですか?」とお尋ねになられることがあります。

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この一見ミシンみたいな機械は「漉き機」といって、刃が回転して漉きを行う機械です。手縫いの革工房にとっては唯一必要な電動機械です。
非常に頑丈なつくりで、シャフトが曲がっていなければ何年でも使えます。
うちの漉き機はNIPPYの昭和55年製。古い機械ですが調整はバッチリでたまに同業者が借りに来るほどです。

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漉き機って格好良いです。金属の重厚感や思い切りの良いフォルムはクラシックカーに似た格好良さがあります。必要ではないけれどもう一台欲しくて、漉き機のロールスロイスと呼ばれる今はなき西山製作所の状態の良いものを手に入れたいと伝手を辿っております・・・

ちなみに我々が持つような漉き機は、小さなパーツのベタ漉きや段漉きや斜め漉きを行うものです。
それ以上に大きな漉きは、割り漉き屋さんの領分です。バンドマシンという巨大な刃を回転させる機械を使って、大きな革を丸ごと漉いてくれるプロフェッッショナルです。

手漉き

漉き機ではなく、革包丁で漉くことも多いです。
コバに出さないパーツ、縫い目とコバの間で終わる裏地などは、先端がゼロになるように革包丁で漉きます。品物の表情を演出するためと、コバの仕上がりや耐久性を求めての作業です。(基本的にコバに異素材が出るとよくない)
革の重なりを表に出したくない場合や、芯材のアタリを表に出したくない場合も先端ゼロの漉きを行います。

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「手漉き」と呼ばれる作業です。必要なのはよく研いだ革包丁と手先の感覚。
削るのでなく、斜めに切るイメージです。
「お刺身を引くように」と教わりました。革を漉くより魚を捌くことの方が遥かに少ないので、刺身を引くときに「革を漉くように」と意識します。笑

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漉きは大事。

漉きは品物の表情や耐久性を左右する重要な工程です。
お使いいただいた数年後の表情も漉き次第で大きく変わります。

パーツの「強弱」も漉きによって定義します。
曲がって欲しいところだけ薄くすると、革は自然にそこで曲がります。
パーツ同士の関係も、漉き加減の差で決めることができます。
鞄の胴体がマチに負けると不細工だけど、胴の張り感を決定付けるためにはマチからのわずかな影響が必要、なんて場合は、胴の革とマチの革、それぞれの厚みの差で強弱を付けます。
いろいろな要素が、漉きでコントロールできるのです。

話は逸れますが・・・
「この製品は革が厚いから高級!」という言説が稀にありますが、それは間違った認識です。
厚くしたいならいくらでもできます。しかし良い品物にはなりません。
小物の場合、パーツによっては元々の革の厚みの5分の1くらいの厚みに漉くこともあります。厚い革を薄くして使うことで上品な品物に仕上げる訳です。
一方で、厚い革を使ってこそのふくよかな表情と頑丈さはあります。それは確かに高級といえますが、あくまでも仕立てによります。
重要なのは調和のとれた美しさと耐久性で、それを実現させるべく漉きの加減を検討します。

ちなみに革全体にスライスすることを「割り」(関東では割り漉き、関西では漉き割り)
パーツ全てをスライスすることを「ベタ漉き」
一部をスライスすることを「漉き」と呼ばれます。
今回は漉きについてのご紹介でした。関連して接着の仕方や芯材についてもお話したいです。また改めて。

(過去のブログ記事に加筆して公開)

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