見出し画像

第二弾投稿作品 海辺のセレンディピティ

セレンディピティ、という言葉に出会ったとき、あっ、これだ!と思った。

この企画に投稿するにあたって、私がゲストハウスで体験したことってなんだろう?とずっと考えていたのだけれど、ようやく、それらしい言葉に出会えた。

セレンディピティとは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。(byウィキペディア)

これはまさに、私が鎌倉のゲストハウス亀時間で体験したことではないか!

すこし年上のお姉サマに、「人生ってサ…わかんないもんよ( ´―`)y-~~」なーんつって、しっとり言われちゃう感じ。あの感じです、コレ。

いつか私がそれらしいgrandmaになったら、そのたった一言でセレンディピティってやつを感じさせちゃいたいけれど、今は無理だし、何より鼻息荒く亀時間の魅力を語りたいので、今回は逐一説明させていただきますね。

私が亀時間で体験した、“偶然の幸福”の数々を。

① 泊まるだけのつもりが、亀時間の宿直スタッフにスカウトされる。

2019年の夏、私は初めて亀時間に宿泊した。本当に、ただ泊まるだけのつもりだった。
鎌倉にひとりで旅行(旅行というほどでもない、首都圏からちょっと遠くに遊びに来て、そのまま現地で泊まって翌日ゆっくり帰る、というプチ贅沢)をすることは何度もあって、この日も同じように、鎌倉でちょっとゆっくり過ごそうと思って宿を予約した。

今までの旅行と違ったことは、ちょうどこの時が、仕事を辞めたタイミングだったことだ。
辞めたばかりで、次の仕事が決まっているわけでもなく、かといってすぐに探すような気にもなれず、とりあえず心身ともに癒されたくて、鎌倉に来た。そういえばこのゲストハウス、気になっていたところだったし…。

やつらは、その絶妙なタイミングを、逃さなかった。
何故にそんな話になったのかは、正直覚えてない。たぶん、カウンターに腰かけた時点でなんとなく運命が決まっていた様な気もする。気づいたら、キッチンで作業をしていた亀時間スタッフと話し込み、アレコレと聞き出し聞き出され、最終的に促されるままに亀時間の宿直ボランティアの応募フォームに必要事項を入力していた。初めて亀時間に足を踏み入れた、その日のうちに。
鮮やかな手口。お勧め美容グッズをネットでポチるみたいなノリで応募してしまった。

チェックインで初めてお会いしてからたった数時間の私に対して、ここで一緒に働けたら素敵~♪って本気で言えちゃう亀時間スタッフ、それにサラッと乗っかっちゃう宿直スタッフ。
このふたりとの時間が楽しくて。その時間を過ごしたラウンジの空間があちこち魅力的すぎて。

泊まるだけでハイさようならっていう気分には、もう戻れなかったのだと思う。

画像3

鎌倉でひと休みするつもりが、なにやら次のステップが早々にやってきてしまった。
帰宅した自宅で我に返り、夢から醒めたような気分でそう思ったけれど、後日オーナーのマサさんから面談のお知らせが来たことで、ワタクシ、完全に目ぇ覚めました。
せっかくならこのチャンス、つかみ取ってやる!
そう腹をくくって面談を受けて、無事、宿直スタッフとして働くことに。
旅って、何が起こるか…わからんなぁ。

② 宿直ボランティア期間で自分探しをするつもりが、移住先が見つかる。

私が応募した宿直ボランティアの期間は、一週間と決まっていた。どうやらこの一週間だけ宿直スタッフが不在になるらしく、その穴を臨時で埋めてくれる人を募集していたようだ。
たった一週間、されど、一週間。
ゲストハウスで過ごしたことがある人ならば、一週間が決して短い時間ではないことはおわかりだろう。旅人との夜は、一晩がとーっても濃厚なのだ。それが、7回も!
普段の生活では出会わないような人たちと濃厚な時間を過ごすことで、私はなにか、変われるかしら。

そんなワクワクを胸に始まった亀時間の宿直ボランティア1日目。
マサさんが夕飯準備と朝食の仕込みをしていたのでそれを手伝う最中、今後、何かやりたいことは?という会話になった。

「かおりちゃんはどんなことが好きなの?」
「うーん…宿でいろんな人と食卓を囲む感じが、いいなぁって思います。お料理を大皿で盛って、みんなで取り分けるのがいい。同じ釜の飯を食うって、やっぱ特別な思い出になりますよ。」
「確かになぁ。…ここのキッチン、せっかくだから何かに使いたいと思ってたんだよね。ごはん会でもやってみるかぁ。」
「あぁ、いいっすね、ごはん会。楽しそー。(他人事)」
「明日とか。どう?」
「え。…明日?」
「うん。だってかおりちゃん、一週間くらいしかいないしさ。献立とSNSに載せる文章、考えられる?今夜募集してみるよ。」
「…ぇぇえええ?!(私が?!)」

ここは、亀時間じゃなかったのか。
この時ばかりは、タタタターン!とウサギの時間で物事が進み、気づけば一週間で4回、計15名のゲストに私のつたない手料理を振る舞っておりました。いやはや、火事場の馬鹿力というか、土壇場の底力というか。
そして、それをガッツリ引き出させるマサさんの手腕よ…。料理のサポートから英会話の翻訳まで、たくさんの気遣いと絶対的安心感で、このイベントを支えてくださり、私にとって今までにない挑戦をマサさんに見守っていただいた。

おかげさまで想像以上に濃厚な出会いがたくさんあって。毎回新しい価値観や情報に触れて、今まで話した事ないような事を話して。このごはん会が無かったら、絶対話すことなかったなぁって人たちと、くだらない話から深い人生観の話まで。

画像1

その参加者の中の一人に、「かおりちゃん、あなた絶対ここへ行ったほうがいいよ。」と長野県のあるちいさな村を勧めてくれる方がいた。聞いたこともない場所だったけれど、ごはん会を通してその方のことがすっかり好きになっていた私は「絶対行きます!」と答え、実際に亀時間のボランティアが終わってからすぐに、その村へ旅に出た。

その旅の中で、私はその村に移住することを決めたのである。

最初から移住する目的で旅に出たのではない。でも、その旅先で出逢う人びとの穏やかさやその村が持つ風景の美しさにすっかり魅せられて、気づいたら「ここに住みます」と言っていた。

あのごはん会での出会いがなかったら、初日にマサさんとあの会話をしなかったら、そもそも亀時間の宿直ボランティアになってなかったら…。そんな数々のパラレルワールドを想像するのが怖いくらい、水が上から下に流れるくらいの自然さで、物事が動いていくのを感じた。

そのきっかけを、亀時間がくれた。いま改めて、そんな風に思う。
亀時間って、何が起こるか…わからんなぁ。

③知識と経験を養うつもりが、心の目が養われる。

移住を決めたのは2019年の秋だが、長野への移住は来春3月末ということで話がまとまった。それまでの冬の間、ただひとりぼーっと過ごすにはあまりにも長すぎる。
私は再び亀時間の宿直ボランティアに応募した。今度は、約3か月。一週間であれだけのことがあったのだ、この3か月間、いったいどんな出来事が待っているのだろう?
そんな期待を胸に、冬の亀時間へ。

前回と同様、マサさんに今後やりたいことは?と聞かれ、私は「宿をやりたい」と答えた。あのごはん会のような事ができる場所を、移住先の村で、自分で作りたいと思ったのだ。
マサさんをはじめとする亀時間スタッフの方々は、それを聞いて「いいね。協力するよ!」とあたたかく肯定してくれた。この3か月間、亀時間で学べることはいくらでも教えるから、と。

最初のうちは、宿のコンセプトやどんなサービスをしていきたいか等、宿の運営をするに際して考えなければならないことを教えていただいたり、夢を夢で終わらせない為に必要なことが何なのかを考えたり。やりたいと思ったことをそのまま叶えていくことに、なんの疑いもなく進めていた。

しかし、それはすぐに続かなくなった。
世の中の情勢が、今までとは変わったのだ。

まずは、海外からのゲストが激減した。続いて、国内からのゲストも。ついには、ゲストがひとりもいない日が、ぽつりぽつりと出始めた。
これは亀時間の開業以来初めてのことだ、とマサさんは言った。

予約表の空欄を眺めるたびに、不安な気持ちになった。宿をやりたいと思っていたけれど、このまま旅人がいなくなったら、やる意味がないんじゃないだろうか。じゃあ何のために、私は移住をするんだろう?
描いていた夢は、どんどん輪郭がぼやけて、色味が薄れていった。自分の未来を形づくる為の足元が、少しずつ崩れて、わからなくなっていった。

それは私だけではなくて、宿のオーナーであるマサさんにとっても、それを支える亀時間スタッフの方たちにとっても、同じことのようだった。たくさんの前提が崩れていく中で、今までの経験を軸に出来ることが少なくなり、これからを予想することも難しい。様々な情報が溢れて何を信用すれば良いのかも定まらないまま。
とりあえず品切れが続くマスクの確保や感染対策の消毒など、今できることをただやっていくしかない状況が続いた。

いつ、何が変わっても、おかしくない状況だった。

そんな中で、私が宿直ボランティア期間を終えるまで、変わらなかったことがある。
マサさんとスタッフの方たちは、毎日美味しいごはんを作って、私と一緒に食べる時間を過ごしてくれたのだ。私が亀時間にいる日は、必ず。

こんな状況だから、「ご飯くらいは自分で何とかしてきて」と言われても、おかしくないんじゃないかと私は思っていた。今まで当たり前に享受していたモノが無くなっても仕方がないし、それを受け入れようと思っていた。

だからこそ、変わらずに与えられる亀時間での夕飯の時間が、なによりも嬉しかった。楽しみだった。マサさんたちも、その時の気持ちをありのままに話してくれた。取り繕ったり、隠したりせず、不安な時には不安だと、正直に。
だから私も、その時に感じたままを話した。今はただ、それだけで良いと思った。
こんなことが無ければ、味わえない幸福だった。

画像2

将来を夢見て見過ごしていたようなことが、見えるようになった気がした。
いろんなことが不確かで何もわからない状況の中でも、確かなものを自分でちゃんと見つけられるのだと知った。
人生って何が起こるか…わからんなぁ。

この海辺にはセレンディピティがある。

こうして、私はゲストハウス亀時間で、抱えきれないほどの偶然の幸福、セレンディピティってやつを体験した。全ては、私の目的や予想とは全く別の角度から放り込まれる幸福だった。

これは、フィギュアスケートの演技後にリンクに放り込まれるプーさんのぬいぐるみのようなものかもしれない。目的(目標)は金メダルかもしれないが、プーさんのぬいぐるみもまた、ただぼーっとしていて得られるものではない。目標に向かって努力しつつもプーさん好きをはっきりと公言し、与えられたときにそれを心から喜べる人でなければ、ファンはあんなにプーさんを投げない。

好きなものを好きと言える勇気と、自分に向けられる優しさを素直に受け取る心。
これをただ信頼する、という体験の素晴らしさを、私は亀時間で教えてもらったのだ。

この幸福は、移住後もずぅっと、続いている。
宿をやるつもりだったけれど、今ではその目的とは違ったところで素敵な出来事にたくさん恵まれて、村内のあちこちに自分の居場所が出来た。
きっと私がどこで何をしていても、この幸福はこれからも続いていく。

それはオーナーのマサさんをはじめとする亀時間スタッフの方たちが、どんな瞬間も、心を砕いて人として真摯に私と向き合ってくれたから。
そして、それを丸ごと温かく見守ってくれたご近所の方々がいてくれたから。
その温かいつながりを引き寄せて紡いできた、亀時間という舞台がそこにあったから。
もう私、鎌倉に足を向けて寝れません。私にとっては神社レベルのパワースポットです。

そのパワースポットは、海まで徒歩3分の場所にある。
亀時間の扉を開けて、右を見ると、材木座海岸へと延びる道路がある。
その道を、ゆっくりと、まっすぐ進む。八百屋に並んだカラフルな果物たち、湘南しらすの幟、コーヒーの匂い。コンクリートの坂を下って、四角いトンネルをくぐると…靴の裏に、柔らかい砂の感触。靴を脱いで、裸足で波打ち際まで歩いていく。目の前に、青い海が広がる。

海は、全ての水が流れつくところだ。
私が住む長野の山から湧き出た水も、毎日流しているトイレの水も。いろんな所を通って、いろんなものを清めたり清められたりしながら、全てがこの海に流れて、混じって、漂って、透き通っている。

それは、日本以外のすべての国でも、同様に。
どこからどこまでが日本の水で、そこから先は外国の水、とかいう境界線も、ない。
今、この足を撫でていく海水は、もしかしたら3日前くらいまでオーストラリアの海辺あたりに漂っていたのかもしれない。その前は陽気なオージーが浴びたシャワーの水だったかもしれないし、その前は森林の湧き水だったのかも。

そう考えれば、この髪を揺らす風はそのうちハワイのヤシの木を揺らすかもしれないし、この足が踏みしめている地面の下の下の下は、ブラジルの土だったりするんだろうし。

この海を、ゆっくりと、丁寧に捉えなおすだけで、きれいとか汚いとか、国境だとか、距離だとか、自分たちが勝手に作り出したいろんな概念が、あやふやになる。

本当は何処にいて何をしていても、私たちはいつでもこの世界を感じることができるはずなんだよな。
でも…それを普段の日常できちんと体感するのは、とっても難しいことだから。

だからきっと私たちは、旅をするんだろうなぁ。

世界中の人が、心から旅を楽しめる未来が、早く訪れますように。
いつか訪れるその未来で、旅人たちのセレンディピティをつないでいくだろう全てのゲストハウスに、心からエールを送ります。

ま…とりあえず、そんなに難しく考えずに、日々の疲れを癒しに亀時間へ行ってみるのがいいのかも。

その思いつきが、この世界のどこかの、まだ見えない何かに、つながっているのかもしれないから。

投稿者:kaori


---------------------------------------------------------
たくさんのご応募ありがとうございました!
思い出ノートの募集は10月31日をもって締め切りました。
11月15日の結果発表を楽しみにお待ちください!
---------------------------------------------------------

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?