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『フューチャー・オン・ファイヤー』

ケロッピー前田『フューチャー・オン・ファイヤー』

身体改造ジャーナリストとして活躍するケロッピー前田は、ツァイトリッヒ・ベルゲルターのドラマーを務めた過去を持ち、現在もディジュリドゥを吹き、電子音や打楽器でストイックな演奏を聴かせる。DJ TKDとのトラック作品、ソロ音源、さらに元BURST編集長ピスケンの朗読、伝説の編集者にしてペーソスでサックス担当する末井昭を交えた「BURST公開会議」でのライブ演奏を加えた最新アルバム。あなたの未来は燃えているか?

Future on Fire

Electronics Didgeridoo Percussion
Ryoichi Keroppy Maeda
×
DJ TKD
TRAXX

+ BURST on Fire
Akira Suei Sax
Pissken Poetry 

フューチャー・オン・ファイア
ケロッピー前田  (K)
×
DJ TKD (T)

Intro        K mix T
Cave       K&T
Jomon     K&T
The first jomon man     K
Outro        K mix T
Play with children          K
Jomon-1     K&T
+
BURST on Fire 
ケロッピー前田
末井昭 サックス
ピスケン ポエトリー
Live at Asagaya TABASA on 7/27 2023
Recording Kousuke Takahara
Mastering Natsuki Ishikura OTOlab
(c)2023 Futrdure Works Ryoichi Keroppy Maeda 

BURST on Fire 詩 by ピスケン(曽根賢)
「まともな親も学歴も仕事も顔もない
女たちへ贈る皆殺しのバラッド」
(よりアドリブで抜粋)

まともな親も学歴も仕事も顔もない女たちよ
暑い国道を投票所まで舌を出し歩くくらいなら
皆殺しににしろ
犬という名の犬どもを
「飼殺しにする」なんて眠たいことを言わないで
 
年金の不安から二十歳で人格を売る女たちよ
貧困や性病のネジを回すくらいなら
皆殺しにしろ
豚という名の豚どもを
「生殺しにする」なんて哀れな呪いを吐かないで
 
工場前のバス停に並ぶ壁穴みたいな女たちよ
神々の黄昏や工場長の右手が
人生の恥はかき捨てだと真実を突きつけるのなら
皆殺しにしろ
隣人という名の隣人どもを
「見殺しにする」なんてさもしいユニオンを組まないで
どうせ朝を告げるヒバリやカラスを殺す甲斐性もない夜鷹なら
今夜、夜空に光る不滅の〈スト破り〉となれ
 
まともな親も学歴も仕事も顔もない女よ
まだ年若いのに、あなたの股ぐらのスイング・ドアは
ウマル・ハイヤームの四行詩を受け入れてる
なら朝から酒を楽しみなよ
初めて海の水を腹一杯飲んだ、あの海水浴場を思い出しながら
道端で胸にスイカを抱いて死ぬ夢を見たそうだね
大丈夫。あなたのあやまちはみな許される
許されるに決まってるじゃないか
もともと無理矢理連れ出されたこの世界
こんな腐った生活と、死でいっぱいのむかつくゲロと
クズの日々の終わりに、なんの罪も罰もありはしない
一匹の蠅は風とともに来りて風と共に去りぬ
あいつの言ったことはただの生臭い風だよ
 
学食の皿洗い機へ身投げする女たちよ
裸足のニワトリのように小銭をついばむ女たちよ
あなたの扉という扉は皆コールタールで塗りつぶされてる
霧雨の降るキッチンで悩みのシチューをかき回し
挽肉にされた若さはたちまち腐った臭いをたてる
池袋の北口に立つ、精薄の、淋病持ちの、十四歳の娼婦みたいに
長い髪の毛には赤子たちが蛆のようにハイハイしてる
首を切られたニワトリが無限に吊るされてゆくように
死ぬまで時間を稼ぐのは止めにしよう
帰る旅人の姿を見なかったそうだね
大丈夫。あなたの足音もまた永遠に宇宙をそよがせる
一匹の蠅は風とともに来りて風と共に去りぬ
あいつが首を振ったのはただの汗臭い風なんだよ
 
神社の前を素通りできない腰痛持ちの女たちよ
モルヒネでシーツを洗う女たちよ
絞殺され犯され埋められるような暗い森の奥へ奥へと歩いてゆき
あなたは気持ちよく横になれるくぼみへ座る
レンブラントの焚火で湯を沸かし
蜂蜜を落とした紅茶でウイスキーを割って体をあたためる
ニンニクと唐辛子を詰めたギリシャ産の黒オリーブ
厚く切ったカナディアン・ベーコン、山羊のチーズに干し柿
アザラシと月の輪熊の缶詰
あなたはサパティスタみたいに赤いマフラーを巻いた口を開く
「叫ぼうが悪態をつこうが、この世の全てはつかの間の
はかなく危ういものでしかないのだから」
一匹の蠅は風とともに来りて風と共に去りぬ
あいつが笑ったのもただの饐(す)えた風なんだよ

午前四時に人目を避けて野良猫に餌をやる女たちよ
明け方に世界を呪う女たちよ
女は泣いちゃいけない
恋人を棄てたときと金を落としたとき以外は
あなたは百人の味方と百人の敵をもって生まれてきた
味方は減るが敵の数は減らないサバイバル・ゲームだ
そう深刻に取るなよ「平壌の水槽」に生まれたわけじゃなし
大丈夫。まだ味方は数人どこかに隠れてる
あなたの挫折を繋ぐバトンは長い
それ以上にあなたのエストロゲン・ホルモンの触手は長い
だからあの世の約束に手を出すなよ
遠くから届く太鼓の響きはいい音に聴こえるけれど
あれはそこらじゅうで人が人を喰ってる骨が鳴らす音だ
 
さあ、そろそろ大空の大鎌があなたの首を掻く
見ろよ、空を、真黒だろ
もうすぐ嵐がこんな世界を吹っ飛ばしてくれるさ
なんて、泣き言をほざくな
淋しさの丸太を天地に刺して、両手両足でしがみつけ
そのうちきっと、とんでもない嵐が涙を吹っ飛ばしてくれる
そのときだ、あなたの唇が歌いだすのは
喜びが悲鳴のリズムを刻み、針金が糸引くように、
まともな親も学歴も仕事も顔もない女たちへ贈る
皆殺しのバラッドを

「20世紀の戦争が女の顔をしていないなら、
21世紀の戦争は兄弟の顔も剥ぐだろう」 

粉砕した戦車のニュース映像を見るたび、
去年の秋に離婚したという自衛官の弟を思う。
三人の娘とも別れ、官舎で暮らす、弟の操縦する74式戦車のハッチへ、
ジャベリンが垂直に炸裂し、内部の砲弾が誘爆、砲塔ごと吹っ飛んだ様子が、
ビックリ箱だと笑われる光景が眼に浮かぶ。
 
次いで、17万ルーブルの月給を信じた新兵たちの手足や首を拾う、
肌に染み一つない禿げた小男の姿が眼に浮かぶ、その柔和な笑みと、
花摘むような手つきが見える。
黒帯を締め、源氏物語を、皇室の近親相姦スキャンダルの暴露本だと
唾棄する彼は、明かなテストステロン・ジャンキーだ。
なにより彼は、兄2人を幼くして亡くした、一人っ子育ちである。
20世紀の戦争が女の顔をしていないなら、彼の起こした21世紀の戦争は
兄弟の顔も剥ぐだろう、柔和な笑顔と花摘むような手つきで。
 
その朝、戦車内で目覚めた北コーカサス出身の青年は、
たった一杯の一生を、コーヒー・スプーンで測りつくした。
その夜、クレムリンのグルジア出身の料理長は、胡桃のソースをかけた
鶏のグリルの出来に満足し、厨房で独り、ショットグラスで
甘いチョコレートリキュールを呑んだ。
ギリシアの史書の記述によれば、ある若い王は、
噴泉と園庭に囲まれながら、飢餓ゆえに憤死したという。
その朝、青年は空っぽの胃袋を晒して死んだ。新鮮なキャベツが届いたことも
知らずに。
けれど彼の操縦するツギハギだらけのキャタピラは、その夜も次の夜も、
飢餓ゆえにあてどなく、物陰ひとつない盲目の麦畑をさまようのだ。
 
季節は廻り、駐屯地を囲む水田の緑から、初夏の風が吹くとき、弟は
蛇の健康を祝す。
アパートの共同便所の窓から、恐怖の前兆に混乱し、顔色を変えるアジサイの
色を眺めては、守る者のいない兄は、せめて蝦蟇の健康を祈る。
シベリア抑留7年を誇る祖父は、戦争の予感がしたら塩を買い溜めろと、
春夏秋冬孫たちへ訓戒を垂れたが、我ら兄弟は、その首吊りの行列に並ぶことは
決してないだろう。たとえ塩をまかれたり、その死体が塩漬けになることは
あったとしても。
 
弟はこのさき退官まで、稲穂の風吹くキャタピラで、
汚れた天国の日々を耕しつづけ、詩人であり生活保護受給者 である兄は、
今日も日がな寝そべり「国崩し」の夢を見る。
ロシアとウクライナの兄弟もいずれ、麦畑の穂波に、
互いの笑顔を見るだろうか?
広大な麦畑を縦横無尽に蹂躙してゆく、無限軌道の亡霊たちよ、
せめて蛇の健康を祝す風となれ。
 
戦争とは政治の失敗、
殺人とは風俗の失敗、
自殺とは世代の失敗。
 
ペテルブルグの原理主義者から「皇帝」と呼ばれるは彼は民衆へ言う、
諸君の意思を完璧にせよ、と。
彼は巧妙に念を押す、収穫を念頭におくな、ただ、
正しく種まくことを考えよ、愛するコロボークが狡いキツネに
喰われる前に、と。
 
19世期のロシア文学通を騙る皇帝は、帝政の反逆者であり、
決闘で死んだ詩人の言葉を捻じ曲げ、戦没兵士の母親たちに向かい、
「さらば、汚れたるロシアよ」の数行を暗誦してみせる。
トルストイやレールモントフの腐敗しない言葉を、腐敗した権力の
匂いけしに利用し、廃れた毒を流行らせる、祖父はかのラス・プーチンの
給仕係だったという、今やロシア正教会主席エクソシストである彼は、
ただ民衆が欲しい悪魔、欲しい荒地、欲しい飢餓を与え、
民衆の魂を塩漬けにする。
ようやく奴隷の喜びを与えてくれた皇帝へ、21世紀の農奴たちは、
万雷の拍手で応えるのだ。
 
唾棄せよ、市民よ、
唾棄せよ、労働者よ、
唾棄せよ、市民の樽から零れ落ちた兄弟よ、
我らの政治の失敗を、我らの風俗の失敗を、我らの世代の失敗を、
自身の失敗と認め、我が自身を唾棄せよ。
我らが生活のうちに失ってしまった生命はどこにあるのか?
我らが知識のうちに失ってしまった知恵はどこにあるのか?
我らが秩序のうちに失ってしまった自由はどこにあるのか?
いま我らが必要とするのは、我らの「哲学と詩」のメロディーだ。
詩とは失敗から生まれる、哲学の口笛なのだから。
 
蛇の健康を祝せ、市民よ、
蝦蟇の健康を祝せ、労働者よ、
麦の健康を祝福し、奴を撃て、市民の樽から零れ落ちた兄弟よ、
たとえ今日の昼に戦争が終わっても。
人生の「千日手」を恐れちゃいけない、
ネットカフェに立てこもった青年は、三十二時間後に引きずりだされたけれど、
負けを認めず、何度でも戦うには、哲学のラッパと、
失敗の口笛をうそぶけばいい。
ロシアとウクライナの兄弟よ、ひび割れた唇にも歌を忘れるな。
 
(終わり)
 

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