194.「コカトリスの憂鬱」(短編)

 コカトリスというのは、本来、気楽な生き物である。そのクチバシの魔力によって孤立する運命ではあるが、生きるに対しこれほど気ままな生物はないだろう。何せ食物は石である(クチバシが当たればイヤでも石化するのだ)。草食・肉食・雑食のどの生命体とも競合しない、と言うのは本当にストレスが生じない。
 次世代を生むのもコカトリス自身ではないし、従って番う必要もない。これほど楽な生き方があるだろうか?
 …
 と思っていたのは甘かった。冒険者の知恵を甘く見たのだ。簡単な仕掛けだったが、気付いた時には足には縄、頭上からは網が降っていた。完全に逃げられない。「詰み」である。だが、コカトリスを捕えてどうするのか? ニワトリなら卵を産ませるのだろうが。
 …
 ニワトリ以上に過酷でプライドの傷つく扱いがコカトリスを待っていた。事もあろうに、捕えた冒険者たちは男性自身を石化させて悦に浸っていたのだ。
「これで萎える事なく次々にプレイできるな」
 耳を塞ぎたいような計画が聞こえる。だが、囚われの身ではその下劣な目論見に加担するしかない、屈辱に塗れ、嫌悪に身をのたうち回らせながら。 
 そして、その男たちの行為は村中に流行った。もちろん、女たちも歓迎していた。
 …
 次世代が生れない、と思い当たった時には遅かった。その村は少子高齢化が進み過疎化して限界を迎え、崩壊した。
 やれやれ、人間でのは全く始末に負えない生き物だ。コカトリスは無人の村を闊歩し、小石を飲み込んだ。今日からこの村の支配者はコカトリスである。
(完)

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