2.チンチクリン理論とは?

 叔父が消防士でした。小学生の頃、日曜日の朝に当務明けの叔父を迎えに消防署に行くと、叔父は喫茶店でクリームソーダを奢ってくれ、その後、アーケード街までドライブしてくれ、漫画を買ってくれました。「ドラえもん」、「「バケルくん」に混じって「鉄腕アトム」も買ってもらいました。

 朝日ソノラマ版のアトムの単行本には、本編の前に手塚先生の前書きならぬ前描きが載っており、色々と面白い話が読めました。今回、ご紹介するのは「クリエーターは自分の作品は理解していないんだなぁ」というものです。

 本題。ある作品の前描きで、「アトムの等身を伸ばすとカッコいいのだが、人気が落ちるので困る。等身を下げてチンチクリンにすると、また人気が上がる…」と手塚先生が嘆いておられました。先生、私も残念です。先生はアトムの魅力を分かっていらっしゃらなかった。

 「アトムの背を縮めると人気が上がる」、これがチンチクリン理論の肝です。日本人や中国人は、こういうの好きなんですよ。欧米の白人社会では、豪傑はヘラクレス型の巨漢、と言うのが典型ですが、繊細なワビサビを好むジャパ~ンの皆さんにはノーグッドです(ふくろう男爵か?!)。これは中国文学からの影響と思われますが、この時点で中国もインド(仏教)の影響を受けているので、どれぐらい中国起源なのかは不明ですが(調べる気なし)、だいたい中国原産と考えていいのではないでしょうか?(無責任?)。

 中国4大奇書、と言えば、「三国志演義」、「西遊記」、「水滸伝」、そして最後の1つは「金瓶梅」か「封神演義」、となっております。「西遊記」は、本来の主人公であるはずの三蔵法師よりも孫悟空の方がメジャーかつ人気者、という困った存在ですが、「金瓶梅」以外はそんな感じです。主人公は大人しくて徳が高く、暴れん坊の部下が話を引っ掻き回します。そして人気が出るのは部下の方。「チョイ悪」とか「武勇伝」ってタイプですね。張飛や黒旋風といった体格のいい豪傑が多い訳ですが、悟空の他にも「封神演義」の哪吒などは子供(赤ん坊)で、チンチクリン派です。日本でいうと「熊と相撲を取る」金太郎が典型ですが、金太郎、悟空、哪吒、そしてアトム、と、童子が巨大なパワー(あるいは術)で大人をテンテコマイさせる、というのが日本や中国ではウケるのです(孫悟空の原型は孫行者であり、それ以前は虎が三蔵法師のお供だったそうで)。言うなれば「柔よく剛を制す」、大男が強いのは当たり前、そのセオリーを覆してこそフィクションの醍醐味がある…と考えたのかもしれません。

 この発想の子孫が、「リングにかけろ」全国(日本)大会第一回戦での高嶺竜児の対戦相手(巨漢ボクサー)であり、日米決戦での石松の対戦相手であり、「グラップラー刃牙」最大トーナメント編での刃牙の1回戦の相手アンドレアス・リーガンになるのです。日本人はジャイアント・キラーがお好きなようですね。

 もちろん「ドラゴンボール」の悟空(カカロット)も、同じ鳥山先生のアラレちゃんもチンチクリン理論の実践者です。特に悟空(サイヤ人)は、加齢と共に成長しますが、そうなると今度は悟飯という子供を設けてチンチクリンキャラを取り戻すのです。悟飯が育てば悟天が続きます。日本人がチンチクリンを好む限り…。

 日本人に受ける(アクション系)娯楽作品には、チンチクリン主人公がオススメです! クレしんとか。ぱお~ん。

 ということで、次回は1回飛ばして「ホームズよりワトソン」です。

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