193.「スライムの恐怖」(短編)

「冒険者になるなら親子の縁を切る」
 父親にはそう言われたが、オレは諦める気は無かった。絶縁? 結構だ。5人の幼馴染も同じ想いだった。何せ、こんなド田舎に突如ダンジョンが出来たのだ。一攫千金に憧れない若者はいない。
 オレたちは貯金をはたき、出来たばかりの武器屋(チェーン店)で装備を揃えた。
「出がけに店主が言ってたな。「スライムには気をつけろ」って」
 相棒が誰にともなく言う。確かに不思議だった。浅い階で出会うのだ、強敵な訳はあるまい。
 …
 オレたちがその甘さを認識した時には遅かった。天井から、床から、音もなく忍びよってきたソレは、頭から、足から、オレたちを包み込み始めた。
「窒息する!」
 咄嗟にそう思った。だが、それは違った。口内と鼻孔に侵入してきたソレは、呼吸を妨げはしなかった。確かに液状の粘膜に覆われはしたが、何故か息は出来ている。問題はそうではない。顔、いや表情だ。
 皆が惚けたマヌケ面をしている。目はうつろ、口は半開きだ。何故か「アヘ顔」と言う文字列が脳裏をよぎる。そして、その理由はすぐに分かった、皮膚感覚で。体感で。
 スライムは口、鼻、耳、その他の穴から体内に侵入し、媚薬成分をまき散らしていたのである。捕食対象が暴れないように快楽を与えているのだ、と本能で悟った。更に男の場合は、そのシンボルにまとわりつき、この世のものとも思われない恍惚感を味あわせている。
 オレは祈った。死体の皮膚や肉が全てスライムに吸収されるように。こんな無様な死に顔を残すのはイヤ、だ、ぜっ、たい、に…。
 オレの意識は朦朧としてきた。どうやら最期が近
(完)

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