久しぶりに旧友に会った話

 私は創作のメモ帳代わりに自分一人しかいないDiscordのサーバを使っているのだが、これはあまりに長文であるために邪魔なのでその文をここに移し閉じ込めることにする。まことにこれはなんのためにもならない雑文である。(Tくんには掲載の許可を得ている)

 これは新春の季節の話である。(導入)
 中学時代によく遊んでいたTくんという友人がいる。コンタクトをとり、Discordを用い久々に電脳会議やマイン・クラフティを行う日々を経て、Tくんは数年前からはじめた創作をしていると知る。油絵という高尚な趣味だった。そして私はついにTくんと会うことになった。
 来る当日、私が地方選挙の投票を終えた時、彼は通っていた絵画教室から帰ってきた(選挙に行け)。彼が帰ると同時に私が車で駅まで向かえに行き、その足で彼の家に遊びに行ったという流れである。

 中学が一緒ということもあって全然(誤用とされているが誤用じゃないという見方もある活用)お互いの家は近かった。 車を止め、庭を見ると懐かしい、尚のことインドアだが、当時は謎に運動神経が良かった私はこの庭で前宙を披露しようとし、見事に失敗したのを思い出す(運動神経良くねえじゃん) 。
 中にお邪魔すると彼の懐かしい部屋は健在だった。 当時、一人でやるのが怖かったからという理由でここまで持ってきてバイオハザード0をプレイしたのを思い出す。上からデケェカエルが降ってきてびっくりし過ぎて条件反射でポーズボタンを押しながら座位から3メートルくらい飛び上がった。
そんな彼は現在、12年前に発売されたPS3のダークソウル無印をめちゃくちゃ新鮮なリアクションをしながら楽しんでいた。オンスモにボコられラチの開かなくなった彼は、暗月の女騎士がいる篝火に拠点を移し、周りのデケェ巨人騎士(一体あたり1500ソウル)を狩りながら金策を行っていた。
 そんな思い出もある部屋の一室で順々にコントローラを交代し、金のために巨人騎士を屠りつつ、風の吹くまま気の向くままに語り合ったわけである。おおよそこの後7時間にわたって話すことになる。
 そんな彼の悩みを主とした話題に触れていく。彼の内奥に触れた話から鑑みて、上がった話題に対して私が私自身に対して思ったことも連ねて書く。

① 最高の素材を全部いれたミックスグリルは絶対旨い
 最初に触れた通り彼は絵画教室に通っている。彼が彼自身に思う絵を描く際の悩みとして、要素要素の全てを完璧に学習してから自分の描きたいものに挑戦したい、というのだ。
 たとえば風景を描こうとした場合、最高の地面を描くAさん、最高の空を描くBさん、最高の花を描くCさんの先人からそれぞれ学び、万全を期してからよし本命を描くぞと本腰を入れて『完璧の絵』に臨むわけである。
 うまいもんを全部ブチ込んだらぜってーうめえ!である。大変だ。
 私の場合は見様見真似でミックスグリルそのものの輪郭をまず作ってみて、徐々に全体的に美味しいミックスグリルを作ろうとする筈だ。私はテキトーに全体をつくり、彼はモジュールごとに完璧に仕上げてからドッキングという考え方なのかもしれない。

② AIアンドロイドカトリックミックスグリル教皇
「〜べきである」という啓蒙をしたがる教皇タイプは危険。最高の絵を描くという夢/理想が彼の中で絶対的なテーゼとして君臨し、それ以外は許さないという立場。これは本人も危険と自認していた。
 わかっているのにやめられないという、世知辛い宿痾だ。 理想や追い求める完璧像が常に視界の先にあるため、それを目指す。そして自分の作ったものと憧れの対象を見比べてその距離や落差に落胆する……を繰り返す人間を、私は少なからず二人知っている。 Tくんの場合は「こうあるべき」が先走り、それが自分自身にも牙を向けている。自身の作り出した「こうあるべき」に、他でもない自分自身が一番呵責されている。とんでもない自滅教皇。聖書で自分の頭をブン殴っている。ここらへんでダクソで死んだときに出るアイテムの説明で『告罪符』が現れ、二人で爆笑した。やっぱり政府に思想を盗聴されているかもしれない。
 彼は、全て理屈でできていると自分で言っていた。 「こうあるべき」という実行文を実行するだけのAIと同じとも自称していた。 カトリックなのである。間違っている、健全じゃないとわかっていながら「創作はこうあるべき」という原理主義の標榜を今更外せなくなり、聖書の無謬性を啓蒙し続けるカトリック。かたや「そんなの個人の解釈次第じゃね?」と自由に創作するプロテスタントに嫉妬しながら聖書で同胞異教徒余すことなくブン殴る逆位置の教皇なのである。
 彼の名誉の為に言っておくと、もちろん彼はそんな理由で他者を攻撃するなんてことはしない。しかし彼は「こうあるべき」を言わないながらも自他共に求めてしまうのだ。 そして抑圧された矛先は自身に向く。
 理論でできた彼は「矛盾が欲しい」と口にした。その言い方が切実で人間のファジーな感情を理解したいアンドロイドのように見て取れて面白かった。 でも、それをいうと矛盾なんて理論武装のAIアンドロイドカトリックミックスグリル教皇にもあるのである。
 例えば、ああ絵描きたくねえなあ……と思っても次の教室までに仕上げないといけないから渋々描く、というのはもう立派な矛盾なのである。私含め、矛盾というのは本人が気付いていないだけでごまんとあるだろう。彼の『完璧な絵を描くべき』というテーゼに対して反している。ちなみに、たとい今は下手でも、これは最高の絵を描くための布石と考えては駄目なのかと問うたところ、なんだか駄目らしい。
 そんな彼には夢があるという。キャンバスと一緒に森の中の丸太小屋に住んで創作気狂いになりたいというのだ。私は密かに腰の炎を燃やしながら応援します。

 彼には明確な目標がある。多分、私にはないのだ。尊敬や尊重の気持はあるが、理想像の人間そのままを目指すというようなことはしていない。気楽といえばそれまでだが、怠惰といえばそれまでだ。
 周りの旧友はぼちぼち都会に出たり結婚したり中には子供も産まれたりといった奴が出始めたのに、春にもかかわらず、芽が咲き、生命の啓蟄が始まっているにもかかわらず、こんなにも自分の世界が大好きで創作のあり方とか創作のこだわりや正義を持ったまま日々を過ごし、偏屈し視野の狭窄した人間が、よりにもよって近くに住んでいた十年弱会っていなかった友人にいて、私と全くの平行線を歩んでいたのである。マジでなんやねん。おもろすぎるだろ。外出ろや。(彼は絵画教室に通っている)
 ダークソウルの中のキャラクターはソウルが溜りに溜まっていた。篝火に座り、レベルアップをする。持久力に振る彼はその際に間違え、「記憶力」に1振ってしまった。ステータスを見ると理力信仰力は9。脳筋のクソバカだった。
 そんなこんなで21時を迎え、遅い夕飯を食べに行った。そこでもドリバーで白湯を飲みながら閉店時間まで居座る訳だが、昼過ぎからはじまったこれは累計で9,10時間は駄弁っていたことになる。大人になった二人で食べたガストのミックスグリルの味は重かった。(エモ〆)

 最後に彼に何か言いたいことはないか訊いたところ(引金に指をかけながら)、「ない!」と言ってくれた。


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