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ピンポン(鳴ったら)ダッシュ(で迎える)

今日行く、とシンプルな文をスマホが報せた。

気をつけて、と珍しくすぐに返信してぶり大根に火をかける。
ご飯、3合しか炊いてないけど足りるかしら?と一瞬考えて、冷凍庫の中を覗き込む。
前に冷凍させておいたあさりご飯があるから良いか。

エリンギを裂きながら、仕事のことを考える。
出来ることはほぼ終えたし、あとは事務仕事を終わらせれば済んでしまう。
やることがない、のも考えものだ。
前任から引き継いだときに、この仕事の量でなぜあんなにいつも手一杯のようにしていたのかと首を傾げたけれど、30分で終わる仕事を2時間掛けて終わらせるのは立派な能力だ。


娘がよく聴いている歌が頭の中で流れる。

らりぱっぱらぱっぱらっぱ
らりぱっぱらぱっぱらっぱ


あ。やだ。生姜ないんだった。

1番近所の生姜が売ってそうなお店まで歩いて15分。
車なら往復15分。

うん、後者だな。

鍵と500円を掴んでポケットに突っ込む。

「ねぇママ生姜買ってくる」
「行ってらっしゃーい」
「なんか甘いものも買ってきてー」
「買わない。500円しか持っていかない」

ソワソワする。
今日行く。日本語は主語や助詞や目的語がなくても伝わるのすごいなぁと感心する。

たぶん、寂しかった、とは言えない。
いつも通りのフリをして、何でもないを装って、横顔を眺めるのが精一杯だ。

何でもないのが1番だ。

無事に買えた生姜を粗く千切りにして、お皿に盛り付けて写真を撮って送り付ける。


外から聞こえる車のエンジン音に、いちいちハッとする。
奥歯がむず痒い。歯痒い、と言うことなのだろうか。

早く、インターホン鳴らないかな。

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