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私以外になれたら良いのにって時々思ったりするんだよ。

後悔することなんて何にも怖くない。
後悔なんていくらだってするから、今この瞬間を選び取りたいって思うのだ。

「どうしてそう刹那的なの」

呆れた顔の幼なじみが缶ビールを煽る。
横目で見ながら苦笑する。

「わかんない。なんでだろ」

安売りされていた鶏レバーを生姜をきかせて甘辛く煮たタレに絡めたものを出すと、幼なじみはすかさず口に放り込む。

「美味い」
「良かった」

この人の手を取れたら、きっと簡単に幸せに浸れるのに、と思う。
けど、私はそれをしない。

浸るような幸せより、息もできないような後悔に溺れるほうが、要は  好きなんだろう。
ばかみたいだけど。本当にばかだと思うけど。

「エイジ君はさ、優しくなかったことが1回もないよね」

首を傾げて自分の分の缶ビールを、幼なじみの缶に当てて乾杯をする。

「それ別に褒めてないよね?」
「うん」
「貴女、本当に面倒くさいね」
「褒めないでよ」
「褒めてねぇよ」

こんな軽口が好きで、ずっと他愛もなくいたくて、手を取らなくても離れていかないから、このまんまがいい。

あのね、と話を切り出す。
私の切り出し方はいつだって下手くそで、空気も脈絡も読まずに話し出すけど、そんなこともきっと慣れっこなのだろう。
2本目のビールを開けながら、幼なじみは視線だけこちらに向けた。

「そのうち良くない選択をすると思う」
「もういい加減にしなよ」
「うん。で、ワガママ言って良い?それでも、そのとき側にいて」

自分の声がすぼまっていく。
こんな恥ずかしいこと言ったことない。

幼なじみは目を丸くしてこちらを見ている。

「側にいて」

もう一度ハッキリと告げる。
ビールをいっきに飲み干したのに、なんだか喉はカラカラするし、無言の幼なじみに腹が立ってくるし、居た堪れなくて私も2本目を取りに冷蔵庫へ向かう。

「いるよ」

優しい声が背後からして、なんだか膝から崩れそうなのを堪える。
いつも通りが良い。これ以上なんて要らない。もうこの人からは何にも欲しくない。


私がどんなに道を間違えて汚れても、この人はきっと正しい道で待っていてくれてる。
「また派手に汚したね」と笑ってくれる。

その度に私はホッとして、泣き出したいのを堪えて、なんでもないようなフリをして汚れを叩きながら「ホントだね」なんて言ったりする。

それ以外の方法をあんまりにも知らなさすぎるのだもの。


私は近いうちに、多分、平気で後悔する道を選択すると思うし、タチの悪いことに「選択する」って解っているのに今はまだ悩むような素振りさえして決めかねている。


でも、今回は、もう頼んだから良いかな。


後悔は怖くない。痛いのは少し躊躇する。立ち上がれないと思いながらそれでも立ち上がろうとする自分に呆れもするし、嫌な性分だとも思う。

けど。私は私以外になれそうにない。

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