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オレアンドリン。

職場の駐車場でMさんと会った。

同じフロアなのに今日は姿が見えなかった。私
も外出したり監事会の準備に追われていたし、MさんはMさんで社用車の予約簿を触っていたから外回りしていたのだろう。

Mさんが隣接する民家の庭から伸びる低木を指さした。
「これなんて花咲くか知ってる?」
「知ってますよ」
「…さすが。ぐぐちゃんみたいな花、だよね」

嫌味のつもりだろうか?

夾竹桃。

6月になれば、鮮やかな明度の高い赤い花を咲かせる。

「触れない限り安全ですよ」

小首を傾げて笑ってみせる。
触れたりしなければ、ただの綺麗な花だ。
私みたい?気の利いた褒め言葉として受け取っておくに決まってる。

「知ってます?この花は、原爆から一年後、70年は草木の生えないと言われた広島の焦土に、最初に咲いた花ですよ。それを私みたいなんて、光栄です」

「勝てないね、俺」

マスクで見えないだろうけど、きっと私の唇は今鮮やかな赤な気がする。
花が綻ぶように、私も笑ってみせようか。

今や有名な話だけれど、夾竹桃は強い経口毒性を持つ花で、花だけじゃなくて木も葉も実にも毒があり、土にすら毒を持たせるほど。


勿論、見ているだけなら毒は回らない。
触れない限り大丈夫。

勝てない、なんて当たり前じゃない。

「だってもう、Mさんは触れちゃったじゃないですか」
「え、俺死ぬの?」
「夾竹桃みたいって嫌味言ったの、Mさんですよ?」

もう一度言うね。
見てるだけなら、毒は回ったりしない。

触れない限り大丈夫。

ただ口に入れたら最後。
オレアンドリンの致死量は青酸カリをも上回るんだよ。

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