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RINGOMUSUME「モドコモード」は「吹雪と雪を踏む音」で始まる



「モドコモード」は、RINGOMUSUME 4th Album「Eternity」(7月21日リリース)の収録曲です。
(現在、音源・MVは未配信です。radikoで6月12日のFM青森「RINGOMUSUMEのOH!ときめきゴールドサイト」を聞いてみてください。)

6月6日にRINGOMUSUME 4th Album「Eternity」の発売が発表されたとき、私は「モドコ」の意味を知りませんでした。
ネットで検索して、「こぎん刺しの基礎となる模様のこと」だとわかりました。

私は、根っからの津軽人です。先祖の墓に「文久」「天保」と刻まれているくらい昔から津軽に土着しています。
それなのに、今まで「モドコ」を知らなかった……。
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さて、
「モドコ」の由来ですが、津軽では名詞に「コ」を付けることがよくあります。(例:「お茶を飲んでください」=「お茶っコ、飲めへ」)

なので、「素(もと)+コ」なのだろうと思います。
(発音は、「モドッコ」がネイティブに近いと思います。「ド」にアクセントがあって、小さい「ツ」はあまり撥ねない感じ。)

思い返すと、子どもの頃の我が家は茅葺の平屋建てで、物置には先祖が身につけたであろう蓑、笠、毛皮などが仕舞ってありました。
はっきりとは記憶していませんが、こぎん刺しの野良着もあったはずです。

40年ほど前に家を建て替えたときに、父が全部処分してしまったと思われます。
今から思えばもったいないことですが、当時は茅葺の家や古びた野良着に価値を感じる人は少なかったのです。

(私の昔話はともかく、)
さらに検索していると、柳宗悦が「こぎん刺し」について書いた文章に出会いました。
(柳宗悦(やなぎ むねよし)は、民衆の手仕事による日用品に「用の美」を見出し、民藝運動を起こした思想家、美学者、宗教哲学者です(wiki))。

柳の文章を掲載している「Koginbank」サイトの説明によれば、こぎん刺し再興のきっかけとなった文章だそうです。

江戸から明治の初期にかけて隆盛したこぎん刺しは、青森県に鉄道が開通されてから急速に衰退していきました。明治末期にはこぎん刺しを刺す人はほとんどいなかったと言われます。そのこぎん刺しが昭和7年2月に発行された雑誌『工芸』14号で紹介され全国的に知られるきっかけとなりました。
Koginbank「Vol.2 こぎん刺し復興の鍵 『工芸』14号」より)

柳宗悦は、津軽の冬とこぎん刺しの切っても切れない関係について、次のように書いています。(Koginbank前掲ページ参照)

(一)冬に入れば津軽の吹雪は荒れ狂う。(略)年の半ばは降りしきる雪で埋められる。それよりも生活が埋められると云う方がいい。此長い時間をどう暮らすか。自ら野良の仕事は屋内の仕事に置きかえられる。洩れてくる暗い雪明りの下で、又細い燈明を頼りに、様々な手仕事が此時に始まる、之で時間を消すのである。否仕事が時間を吸いとるのである。

時間が残れば冬は呪いである。だが手仕事がある。之を始めれば時計の針も時を刻まない。「こぎん」も雪国の産物である。時間を忘れた産物である。せわしない国は、「こぎん」が育つ故郷ではない。何の摂理か、雪と手工芸とは結縁が深い。

また、こぎん刺しを生み出した津軽の女性たちを次のように褒め称えています。

(六)名もない津軽の女達よ、よく是程のものを遺してくれた。麻と木綿とは絹の使用を禁じられた土民の布であった。だがその虐げられた禁制の中で是程美しいものを産んでくれた。それを幸な不幸と云はうか、又は不幸な幸と呼ぼうか。人々は生活に即して、ものを美しくしたのである。之こそは工芸の歩むべき道ではないか。私達はその美しさに引かれている。数々の教へをそこから学んでいる。

(略)よし春が廻るとも、花を手向ける者は絶え絶えになってゆくであらう。だが私は代って此一文を捧げる。私は是等の文字が一つの「こぎん」である事を望む。之でその仕事を永く記念しよう。私と共に心の花を手向ける人は、今後も、いや増すにちがひない。「こぎん」は死なない「こぎん」である。


私は、これを読んで「モドコモード」が「吹雪と雪を踏む音」で始まるのは、こぎん刺しを生み出した津軽の風土への畏敬であり、津軽の女性たちへの尊敬であると感じました。

また、「モドコモード」は恋の歌になっていて、歌詞に次のような一節があります。

ひゅるりら 離れ離れね
ひゅるりら 春はもうすぐ

そういえば、たしかに「春の雪(溶けては固まりを繰り返し、表面がザラザラになった雪)」を踏む音のように聴こえます。

また、吹雪の音がやんで、雪を踏む音がしだいに駆け出すような、軽やかな感じになっているのは、冬の間会えなかった恋人に会える嬉しさが込められているのでしょう。

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多田慎也さんをはじめとする制作陣の皆さんは、こぎん刺しについて相当勉強していて、「モドコモード」には、まだまだいろいろな仕掛けが隠されているような気がします。

奥が深そうなので、気が付いたことがあればまた書きます。

【2021.6.26追記】

RINGOMUSUMEのメンバーが、モドコモードの始まりの音について、2021.6.26放送の「OH!ときめきゴールドサイト」で話していたので、その概要を記録しておきます。

・最初にデモで聴いたときは、メンバーも不思議な感じだった。「これは何だ」とびっくりした。

多田さんには「青森のふとした音を音楽にできないか」と前から言っていた。モドコモードを聴いて「そういうこと!」と思って、テンションが上がった(by 王林)

おわり

実のところ、ラジオの小さなスピーカーで聴いたときは、吹雪の音だということにも、すぐには気づきませんでした。
滝の音?車の音??などとトンチンカンなことを考えていました。

見出し画像の本は、「モドコモード」に触発されて買ってしまった「図説みちのくの古布の世界」(田中忠三郎著、河出書房新社)です。

こぎん刺しを知ると、「モドコモード」を聞く楽しみが倍増します(たぶん)。



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