このまま

『このまま』って、なんか切りとって見てみると。
すごく変な感じがした。
なんとも言えない違和感が、ほんの少し心をにごす。
どうして、いま、立ち止まって、そう思ってしまったのだろう。
「このまま」
音にすれば、なんともない。
一瞬だからなのか。
それに続ける言葉を、口に出せないからなのか。
『このまま』という、不安な文字。
歩みと、時間を止めてしまえる、どこにも存在しない、魔法。
「このまま、」
そう。この気持ち。この違和感。
それは、その先に続くのが、願望だから。
ただの願いで、不確かな希望で、何ひとつ叶うことのない、妄想。
「なにも変わらなければいいのに」
口にしても、同じ。
魔法は、御伽話の中にしかなくて。
私が見つめる世界には。
流れる雲と、吹く風。
沈む太陽に、欠ける月。
泣きそうなあなたと、同じように息をする私。
目を閉じたって、変わらない。
見えづらくなるだけで、そのままだ。
魔法なんて、ない。
『このまま』も『なにも変わらないですよ』も。
心の中にしか、ないんだ。
月が、魔法のように形を変えたって。
目を開けて見える世界は、このまま。
何も変わらない。
本当はずっと、月は丸いまま。
「変わらないわけ、ない」
そう。その当たり前が、変えられないのと、同じ。
このまま。

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