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天竺鼠単独ライブ「やっぱツアーっしょ!!」ルミネ公演【ライブレポ】【ネタバレ有】

 2021年12月29日(水)に、ルミネtheよしもとで天竺鼠の単独ライブ「やっぱツアーっしょ!!」が開催された。タイトル通りツアーで三箇所をめぐるライブだが、開催地は全て都内。この日はその2公演目だった。

 暗転すると、突然モニターにダイアン・ユースケの画像が映し出される。しかもかなりの長尺。映った瞬間は大笑いしたが、あまりにその時間が長かったので「もしかしてこれで今日のライブ終わり?」とまで考えてしまうほど。後ろの席にいた他の客も「ずっとこれ……?」と不安を口にしていたが、少しずつ画面の端から幕が閉まる映像に変わると、画面のユースケが幕の中へと消えていく。それと同時に目の前にある現実のステージの幕がゆっくりと開いていくと、そこにあったのはダイアン・津田がごいごいすーポーズを取っているパネル。まさかの展開に会場は大爆笑だった。
 ルミネのステージにただ一つ立つ津田のパネルと対峙していると、舞台袖からゆらりとジャルジャル・後藤の姿が。サプライズゲストの姿に会場は大盛り上がりだったが、当の本人は不思議そうな顔をして津田パネルを舞台袖へと下げるだけ。ここでやっと天竺鼠・川原が登場するが、手に持っているのはさっきまで舞台上に置いてあったものと全く同じ津田パネル。それを置いて捌けると、再び後藤が登場し、不思議そうな顔で下げていく。この動作が何度も何度も繰り返され、変な世界へ迷い込んでしまったな……と思うと同時に、天竺鼠の単独ライブに来たんだな……と実感することも出来たので、まさに"天竺鼠単独のオープニング"に相応しい舞台だった。
 何十回、何百回にも感じられる時間だったが、暗転してようやく会場のモニターにOPVが流れ始める。そちらに気を取られていると、観客が数名クスクスと笑うので、不思議に思って舞台に視線を戻してみると、まだ津田パネルの交換が行われていた。一体いつまでやるんだ。OPVはかなりオシャレな映像であったのに、そちらが気になって見れたものではなかった。

 出囃子が流れ、暗転されたステージ上に落語の高座が設置される。その間も津田パネルは忙しなく受け渡されている。着物を着た天竺鼠・瀬下が登場し、落語を披露。しかしそれでも津田パネルの受け渡しは終わらない。瀬下の前に置いてみたり後ろに置いてみたり、様々なパターンで津田パネルがステージ上を行き交う。気が狂いそうになった。瀬下の落語の内容なんて覚えていない。ハッと気がついて意識を落語に戻しても、何の話だか分からない。全部、津田のせいだ。

 1本目はドラマの撮影のネタ。俳優・瀬下が良い演技をして1発OKを出すが、「いいね」と呟いた監督・川原の声が入ってしまったため撮り直しになってしまう、というコント。瀬下ほど困り顔や不服な顔が面白い男はいない。どんどん暴走を極めていく川原に強いツッコミがあってもいいものの、瀬下は"キャスティングされている立場なのであまり強く言えない俳優"という設定を遵守し、ただただ従順に演技を繰り返す。ツッコミらしいツッコミがないコント。しかしそれこそがコントの真骨頂なのかとさえ思う。

 VTRは意味ありげな英語の文章が永遠と流れるだけのもの。次のコントのプロローグだろうか。そんなことを思いながら聞いているが、なかなか終わらない。長すぎる。体感では10分以上あった。しつこいの頂点だ。エンディングで川原は「1公演目では英語が終わった後にアラビア語が流れるくだりもあった」と語る。「流石に長すぎて今回はカットした」と言っていたが、英断である。1公演目の観客の心労は計り知れない。

 2本目は喫茶店のネタ。異常に机が高い喫茶店で、店員の瀬下は「置いときますねー」とその机にコーヒーを置くのだが、川原は気にも留めずそのコーヒーを飲む。その割には他の違和感にはどんどんツッコんでいくので、なんでそこだけツッコまないんだ!? と不思議な気持ちにさせられるネタだった。瀬下は困り顔が面白いが、「当然ですが?」みたいなスッとぼけ顔も面白い。"喫茶店のドアが小さすぎて出られない"という不思議な設定にも澄ました顔をしている。面白かった。

 続いてのVTRは、天竺鼠の2人がスタジオでドミノをしている映像。ほんわかする映像かと思いきや、川原が離脱し、必死にドミノを築く瀬下に容赦なくホースで水をぶっかける。あまりに無慈悲なのだが、セシタマンこと瀬下は「チャーンス!」と雄叫びをあげ、負けじとドミノを並べていく。年賀状に「あけましておめでとうございます」と一生懸命文字を書く瀬下にも水がかけられる。必死に大食いをする瀬下の口元にも水が……と思いきや、自分でかけている。死ぬこと以外NGなしとはこの事だ。あまりにむごい映像なのに、いいぞセシタマン! という気持ちにさせられる。これまた不思議な感覚だった。

 3本目は画家のコント。個人的にこれぞ天竺鼠! と感じたネタだった。川原のシュールなセンス系ボケが活きていて、それでいて瀬下の困り顔も存分に楽しめる。1つ前のネタとの繋がりが見えた瞬間は大笑いした。川原は何をやっても川原だが、だからこそ面白い。

 そしてVTRは、川原がテレビを見ている映像。動物の和やかな映像を見て大笑いする川原だが、画面に津田が映った途端ピタリと笑うのを止める。そして動物に変わると再び笑い出し、津田に変わるとまた止まる。これを繰り返していると、「もう朝やから寝なさい」と吸血鬼のおばさんの格好をした瀬下がテレビを消してしまう。テレビを見ていた川原がカメラを振り返ると、口元には大きな牙が付いており、こちらを威嚇するように牙を剥く。しばらくそのまま「ガルルル……」と言っているのだが、ずっとやっているうちに噴き出してしまい、口に付けていた牙が口から飛び出てしまってグダグダに。どこから着想を得てこんなVTRになったのか理解が追いつかなかったが、なかなかシュールなVTRだった。

 4本目のコントのタイトルは……何と言えばいいのだろうか。コントだったのかもよく分からない。何度も言うようだが「不思議な世界に巻き込まれてしまった」の頂点のようなネタだった。周りの観客は笑いどころらしき箇所で笑っていたが、私はずっと「??」という感情以外なく、これで笑える観客は本当に全員気狂いだと思った。貶しているわけではない、自分の理解力を憂いているのだ。劇場に入場する際、カップルで来ている観客を数組見かけたのだが、どこでこんなヤバすぎるライブへ共に行くパートナーと出会ったんだと震えた。けれど単独ライブでしか見られないネタなのだろうと感じて楽しむことは出来ていたし、不意に笑いが漏れてしまうこともあった。ただ自分が何を思って笑ったのかは分からなかった。

 次のVTRは、川原が瀬下の娘・陽咲(ひさき)ちゃんとネタ作りをする映像。「陽咲は何歳になったの?」と川原が尋ねると「11歳」と答える陽咲ちゃん。「じゃあ2で割り切れないね」と川原がよく言うフレーズを投げつけると、陽咲ちゃんはたった一言「うん」と答えた。ツッコまず適当に流している姿勢が素晴らしい。
 その後ネタのアイデアを考えてきたという陽咲ちゃんが「腹立つ動き」を提案。実際にその動きを披露すると会場は爆笑。独特の感性を持った動きに芸人の血を感じる。川原は何度かやらせてみて、「(動作は)6回より5回の方が腹立つ」「(回数が)2で割り切れると、腹立つけど『2で割り切れてもうてるやん』ってなる」「2で割り切れない方が腹立つのが増幅する」などとプロ目線からアドバイス。「自分でどう思う? 聞いたら『ああ』ってなる?」と尋ねると、またまた「うん」と答える陽咲ちゃん。こんなはちゃめちゃ理論を理解(しようとせずに受け流すことが)出来る陽咲ちゃんに、川原は「陽咲は天才肌やな」「お父さんより理解力が高い」とベタ褒めだった。
 この映像は川原の公式YouTubeにもアップされている。
相方の娘とネタ作り【天竺鼠 川原 究極シリーズ】(天竺鼠・川原チャンネル)

 そして5本目のネタでは、陽咲ちゃんの好きな食べ物である「たこ焼き」と嫌いな食べ物である「納豆」を登場人物に置き、陽咲ちゃんが考えた「腹立つ動き」「不安な人」をメインにしたネタを披露。変にアレンジを加えたりせず、陽咲ちゃんが考えたものをそのまま使ってネタとして仕上げているのが素晴らしい。川原が加えた要素と言えば"2で割り切れない方が腹立つ"くらいである。陽咲ちゃんの才能をそのまま生かしたコントだった。

 続いてのVTRは陽咲ちゃんと川原が仲睦まじく追いかけっこなどを楽しむ映像。こちらもYouTubeに載っている。説明が難しいのでリンクを載せるだけにするが、心温まる映像でおすすめである。
川原❤️相方の娘【天竺鼠 川原 究極シリーズ】

 最後のネタは漫才。川原が胸元に激しくフリルのついたフィギュアスケートのような衣装で登場するのだが、瀬下がそれにツッコむ隙もなく矢継ぎ早に話を展開していく川原。その話の内容も「鼻血で空を飛ぶ」という不思議な内容で、これまた理解できない。結局瀬下がツッコめないまま漫才が終わってしまった。瀬下はやはり振り回されることが板についている。

 それが終わるとゲスト・ジャルジャルとのトークコーナーへ。天竺鼠の2人とジャルジャルの2人が並んでステージに登場すると、まずは「1公演目が終わった川原から2公演目の川原へ」というメッセージVTRが始まる。ジャルジャルに対し「津田の悪口とかも話しましょうね!」「あれも話しましょうよ。大阪時代の……」と、2公演目でジャルジャルと何を話そうかと期待に胸を膨らませ楽しげな川原の映像だったが、"後藤とナンパをした話"や"福徳とスマイル・ウーウェイよしたかのカバンを隠した話"を話しきると、「以上! ジャルジャルさんと話そうのコーナーでした!」と締め括られ暗転。ステージ上のジャルジャル、瀬下は一度も口を開くことなく退場してしまった為、観客席からは思わず悲鳴のような騒めきが起きた。せっかく目の前にスペシャルゲストのジャルジャルがいたのに、声すら聞くことができずライブが終了。最後まで不思議な空間だった。

 エンディングで川原は「まだ公演が残っているのでネタバレなど投稿しないように」と注意を促すが、こんなものどうネタバレしろというのか逆に教えてほしいくらいだった。長すぎるアラビア語のVTRをカットしたとのことだったが、それでもライブはだいぶ押して終了。ルミネを出て新宿駅の風を浴びた時、あぁやっと現実世界に戻ってきた、という気持ちになった。ずっと異世界にいたが、その異世界に馴染み、戸惑わずに楽しめる人間に早く私もなりたいものだと未熟な自分に鞭打つようなライブだった。

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