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禁酒令発令前の寸刻のつなぎ。

「焼鳥ぶらぶら」2021年5月3日(火)

水炊きで満腹の体を携えて、川端から中洲へと足を伸ばし、街の様子を伺ってみた。
想像通りの殺風景な夕景に沈む中洲。
通り過ぎる人々と言えば、活力の溢れた若者ばかりであった。
中洲の屋台に足を伸ばすと、殺風景な夕景を相殺するかのような人混みで、数の減った屋台の前には行列を成し、風通しの良さげな作りとはいえ、屋台の中は密集と密接の混雑を宿していた。
さすがにその場は避けなければ、と咄嗟に思った。
心地よい涼風が吹き過ぎる川を越えて天神へ向かった。
時刻は19時を過ぎていた。
灯火を消す店が見受けられる中で、何かを見出そうと歩くも、得体の知れない焦燥と疲労が背後から迫っているようであった。
時の猶予の迫る中で、さらなる焦燥感に煽られて赤提灯に吸い寄せられた。
細長く伸びるカウンター席、そしてその奥にある座敷席からは豪快な話し声が迫り来る。
カウンター席に座すと、隣の席からはアクリル板越しに普遍的な博多弁で語り合う客が愉快げに響き合わせていた。
「まもなくお酒のラストオーダーです」
時刻は20時直前であった。
とりあえず、という言葉はもはや無用であった。
歩き疲れた体は生ビールを欲した。
スタッフおすすめの「地だこ刺」と「つなぎ」をアテにして、博多の短い夜を締めくくろう。
おすすめ通り、鮮度が高く柔和な「地だこ刺」は噛むほどにその味の変化を楽しめるのだが、脇役のわかめもそれに優るとも劣らない。
「つなぎ」がキャベツを携えて訪れた。
文字通り、心臓と肝臓をつなぐ部位は、ほんのりと甘いタレに包まれて仄かな弾力伸びる印象を与えるも、「地だこ刺」同様に噛む悦びを謳歌できる。
だが、もはや閉店であった。
博多の夜は、残酷過ぎるほど短い。
あらためて心地よい夜風が過ぎてゆく街中を歩きながら、感染拡大する街の旅の行方を再構築しようと試みることにした…

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