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スパイスラーメンという新潮流の不意の試み。

「辛いラーメン14」2021年2月28日(日)

透徹とした夜の空に、朧げな光を放つ月が浮かんでいた。
もうすぐ冬が終わるはずだった。
なのに、何故に寒いのであろう。
“永遠というものは、何か不可解な観念、何かとてつもなく大きな物だ”
と、ロシアの文豪ドストエフスキーは書き連ねた。
きっと永遠にこの寒さが続くはずもなく、さもなくば永遠などは存在しない、と焼鳥と酒で酩酊した思考が迷走しているだけなのかもしれない。
その酩酊した思考は、ある種の食欲の麻痺を呼び寄せていた。
意識的に貪欲に何かを求めて、月光を浴びた雪道を慎重に歩いた。
ラーメンの文字がはためくのぼり、そして店内の灯りが歩道に溢れていた。
以前にも訪れたラーメン店であることを思い出した。
辛いラーメン、まさに店名もそのままに、定かならぬ食欲がいっそう頭をもたげていた。
空漠とした辺りとは裏腹に、店内はほぼ満席に近かった。
券売機で辛いラーメンを購入しようとすると、
その横に「スパイスラーメン」の文字が招いていた。
おそらくスパイスラーメンは、今の潮流なのであろう。
澱むことなく「スパイスラーメン」を選んだ。
アクリル板で挟まれたカウンター席の1席に座した。
テーブル席もカウンター席も若者と言える層が客席を支配していた。
それに対して、スタッフは調理担当の1名のみで、
後片付けもままならないほど余裕がないように見受けられた。
当然にしてラーメンの到着に時間を要したものの、スマートフォンの時代ともなれば、多様なアプリコンテンツによって時間の費消など容易い。
『お待たせしました』と調理スタッフが心許なく声を発して、カウンター越しに「スパイスラーメン」が運ばれた。
辛いラーメンとも異なる薫りが目の前に漂う。
それは鋭利な辛さとは異なる、スパイスならではのコクなのだろうか?
優しいわけではないが、突き放すような辛さでなく、むしろ惑わすような辛さと言えば良いのだろうか?
辛味噌ベースのスープが絶妙に縮れ麺が抱き合い、程なくしてスパイスが体内を駆け巡る。
そのループは、まるで永遠の不可解な観念でありながら、丼は見事に空になり、永遠のループは途絶えた。
残ったものは、スパイスで熱した体と永遠などない満足であった。
外に出て再び夜空を見上げた。
紺青を深める夜空に月が満面の笑みを浮かべているように見えた…

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