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3号液について思うこと

はじめに

 今回は医療者向けの記事になります。医者になってからずーっと思っていることがあって、今回はそれを書いてみようと思います。輸液についてです。

輸液は細胞外液, 1号液 (開始液), 2号液, 3号液 (維持液), 4号液, 5%ブドウ糖に大別されます。実際に臨床の現場でよく使われるのは細胞外液、1号液、3号液、5%ブドウ糖で、2号液と4号液はほとんど使われません。

この3号液(商品名 : ソルデム3A, ソリタT3等)というものが、輸液を学べば学ぶほど、医者をやればやるほど存在意義がよくわからなくなってきました。というか、極論いらないのでは・・?とすら思っています。

3号液の問題点について書いてみようと思います。

※どうでもいいですが、写真は細胞外液です笑。

そもそもなぜ輸液をするのか

 輸液って入院患者の多くになされるのですが、よく見てみると「これなんで輸液が必要なの?なぜこの輸液?」と思ってしまう輸液が多々あります。

輸液ってなんとなくオーダーしてしまいがちですが、理想的には他の治療と同様明確な根拠を持って行われるべきだと思います。なんとなく手術するとか、なんとなく中心静脈カテーテルを入れたりしないのと同じです。

輸液は経口摂取にて十分な水分や電解質、栄養が摂取できない場合に行われる治療です。体液異常を是正することが目的になる場合と、生命維持が目的になる場合があります。

絶食患者は3号液4本でall OK?

 今でもよく覚えているのが、研修医になりたての頃のエピソードです。とある外科系の科をローテーションしていると、術後に絶食になる患者が多いため、看護師から輸液のオーダーを頻繁に頼まれるのです。

外科って基本的には手術が主体で、病棟管理にかけられる時間が内科に比べるとかなり少ないんですね。なので輸液のオーダーでうんうんと頭を悩ませる暇なんてあまりないわけです。

途方に暮れていると、とある外科の上級医からこんなことを言われました。
「あのな、食えない患者には3号液を4本入れておけばそれでOKだから!」

ろくに勉強をしていなかった私は、この先生すごいぜ!と感心し、片っ端から絶食患者に3号液を4本、というオーダーを出しまくったのです。

結果どうなったか??ほとんどの患者で問題は起こりませんでした。
しかしながら、なーんだ、やっぱり3号液使っておけばいいじゃないか。。。ともなりません。

一部の患者で低ナトリウム血症や高カリウム血症となってしまいました。術後の患者はストレスがかかっており、SIADHを発症しやすくなっているため容易に低ナトリウムに陥りやすいのです。

また、腎不全のある患者では3号液4本でカリウムが40mEq負荷されるので、もともと高カリウム血症のある患者では当然高カリウムが増悪するリスクがあるわけです。

そのため、当然といえば当然なのですが、絶食=3号液4本でよいわけはありません。

なぜほとんどの患者で問題が起きないのか?

 そんなこと言ったって、俺は3号液で問題が出たことなんてほとんどない!という意見もあるでしょう。しかしながら、それはただ腎臓という臓器が優秀であるということです。

3号液のような低張液が輸液されると、腎臓はそれに合わせてより低張な尿を生成することができます。なので、実際に電解質異常はほとんどおきません。

しかしながら、先ほども申し上げた通り、SIADHなどの尿を低調にできない病態やカリウムの排泄が低下している患者では、足元をすくわれる可能性があります。

3号液の問題点

 では改めて、この3号液の問題点を見ていきましょう。

  1. 必須と言うシチュエーションがない

  2. 維持液という名前

  3. 低ナトリウム、高カリウム血症

 輸液には、「その輸液でないとだめ!」というシチュエーションが存在します。例えば細胞外液ですが、代表的なものとしてショック状態の時があります。血圧を維持するためには、有効循環血症量を即座に増やさないといけません。他にも嘔吐や下痢に伴う脱水、糖尿病性ケトアシドーシスなども細胞外液が必要です。

では、3号液でなければいけないシチュエーションを考えるとみると。。
いやあ、困ったことにないんですよ。腎臓内科的な立場としては、高張性脱水などで尿生化を用いて計算した結果3号液、、ってことがなくはないですが。

でも、絶食時によく使われる輸液の組成は3号液ベースになっているじゃないか!と言われそうです。確かにビーフリードや多くの中心静脈栄養のキットは3号液の組成になっています。しかしながら、これはあくまで結果論だと思います。

逆に、中心静脈栄養を自分で組むときは塩化ナトリウムを加えて1号液の組成にすることが多いですね。看護師からは不評なので、腎機能や電解質が安定している患者にはできるだけキットを使うようにしていますが。

この3号液の維持液っていう名前がすごく良くないと思うんですよね。これ使ってれば患者の状態を「維持」できるという誤解を与え、全く頭を使わないで輸液をオーダーする誘因になっているように感じるのです。

おわりに

  今回は3号液について語ってみました。よく輸液とか抗菌薬は研修医のうちに勉強しておけ、と言いますよね。これはやはり正しいと思います。

輸液や抗菌薬ってもう今から何か大きな変化がある領域ではなく、かつ適当にやっても何とかなってしまうからです。しかしながら、裏を返すと輸液や抗菌薬が適当な医者は一発でちゃんと勉強してこなかったのがばれてしまうとも言えます。

 今ではもう腎臓専門医とはあまり胸を張って言える立場ではありませんが、今後も輸液にはこだわって臨床にあたりたいと思います。

 


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