夢枕 第三話

「杉田上手から投げる!崩して寄る!」
「麗子其れを堪えて下手!下からのカチ上げー!」
 この攻防が立ち合いから2分も続き、杉田と千葉の両名は土俵中央で組み合ったまま、動けなくなってしまった。
 止む無く、立行司・神谷伊之助は待ったを掛けて水入りになるや、場内割れんばかりの拍手と共に杉田、チバレイの大合唱となった。
 無理もない、水入りなど女子大相撲創立以来初の珍事であり、古来大相撲の歴史上、昭和47年(1972年)・秋場所以来絶えて無かった現象なのである。
 杉田・千葉の両名とも当然、疲労こんぱいしており再開など要求出来る状況ではない、通常なら。しかし二人とも劣化左翼の荒波を越えて三役迄駆け上がった猛者である、それでも尚闘志満々の表情で此処で止めようものなら食って掛かる勢いであった。陛下が出て来なければまず不可能に思えた。
「杉田!今度の寄りはどうか!通算12分を経過しようとしています!信じられません!それでも麗子堪えるー!」
 結果は、二枚蹴りで相手を崩した杉田がそのまま体を預け、寄り倒しで杉田の勝ちであった。しかし、誰もが思った。
「此処までやったチバレイに黒星がつくのか?」
「しかも今場所12勝してるんだぞ?」
そんな雰囲気が渦となり二人の同時昇進はとり行われた。
 此れが「平成末期神話」と称された、杉田・千葉による大一番の顛末であります。(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?