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SARS-CoV-2 オメガ株の恐怖

※フィクションです

2021年12月 中国・武漢

封鎖された海鮮市場跡地で、奇妙な生物(それを生物として定義して良いかは議論の余地があるが)が複数発見された。
吸血ネズミと呼ばれたそれは、強い凶暴性を示し、人間を含むあらゆる動物に噛み付く習性を持っていた。

2022年4月

いまだコロナパンデミックの渦中にあった国際社会は、さらなる問題に直面した。
Sars-Cov-2における、最強の変異株のアウトブレイクが始まったのである。
オメガ株(Omega variant)と呼ばれるそれは、ヒトに感染したときに現れる症状が既知のものとは全く異なっていた。
交感神経が激しく活性化され、狂騒とも言える状態に感染者を陥れるのだ。
逆に呼吸器をはじめとする従来株で発症する身体機能の低下は現れず、活性化された神経系により、あらゆる身体機能の向上が確認された。

だが、オメガ株の最も重大な症状は、感染者から完全に社会性を失わせてしまうことにあった。
激しく血を求め、あらゆる哺乳類に噛み付きたくなる衝動が押さえられなくなるのだ。

Twitterでは、自然発生的に感染者が #オメガゾンビ と呼ばれるようになった。
始めは揶揄として呼ばれた呼称であったが、実体としてはまさにゾンビであることが確認されると、さすがのTwitter民も決まりが悪そうに閉口するしかなかった。
感染者の捕捉・治療に失敗した地域では、暴力事件の頻発を皮切りに、暴動が発生しつつあったのである。

これは、つまりオメガ株感染者への対処の所管が、医療から治安維持、そして安全保障へ移ることを意味した。
世界は対ゾンビ戦争の時代に突入しつつあった。


一方で、オメガ株もSars-Cov-2の変異株の一種であることから、一部のワクチンが有効であることも確認されていた。
高齢者接種を優先した地域では、暴徒化したワクチン未接種感染者の若者たちが、接種済の老人たちを殺戮する事例もしばしば観測された。皮肉と言うには、あまりにも痛ましいというほかない。


軍事革命

ワクチン接種者とオメガ感染者の戦闘は、新たな知見をもたらした。

獲得した免疫系の種別――つまり、摂取したワクチンの種類――に応じて、オメガ株再感染時に起きるブースター効果が異なるという事実である。
mRNA系は全身の筋肥大を、ベクター系はヘモグロビン量の増大を……というように。
謂わば免疫反応が終わるまでという時間限定ではあるものの、ある種の特殊能力が発現するとも言い得た。

オメガゾンビとの戦いの中、各国の治安部隊がこの特性に着目するのは、当然の帰結であった。
ブースター効果が現れている兵士向けの重装甲など、新たな装備を次々と生み出した米国軍産複合体の開発能力は、流石としか言いようがない。

一方で、水際対策を突破したオメガ株がアメリカ社会にもたらした危機は深刻であった。
共和党支持者に多いワクチン未接種者が次々とオメガゾンビ化したのである。

そして、オメガゾンビを率いて連邦政府への反旗を翻したのは、アリゾナの州軍施設から強奪されたファイザーブースター用特殊機動装甲を纏ったドナルド・トランプその人であった。

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