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上下分離方式について

近江鉄道とは?

図:日本経済新聞より転載https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51810850V01C19A1LKA000/

近江鉄道は滋賀県東部にあるローカル鉄道で、彦根市、近江八幡市、甲賀市、東近江市、米原市と、日野町、甲良町、愛荘町、豊郷町、多賀町の5市5町間で運行しています。 ​ 年間乗車数はおよそ369万人(2020年度)で、主に通勤や通学に利用されており、主にJRへの接続のために使用されています。しかし、平日の昼間はほぼ乗客がいない列車もあり、50年前と比べて6割以上減っており、2018年の資料では、黒字路線は以下の②、⑦のみとなっています。

近江鉄道資料より抜粋https://www.ohmitetudo.co.jp/file/group_oshirase_20181218.pdf

 1994年以降、赤字が続く

※近江鉄道ホームページより(https://www.ohmitetudo.co.jp/file/group_oshirase_20181218.pdf)

年々拡大する営業赤字は18年度には3億8千万円。 駅や線路の維持管理費も非常に高額で、年額平均で5億ほどの酷い赤字が続いています。

列車を自分で少し運転できる、ビアガーデン列車など様々な企画を催したり、駅の無人化、ワンマン運行など経費削減を行ったりして、経営努力を積み重ねてきたものの、自家用車の普及と人口減により、年間数億もの赤字は今後も解消できる見込みはありません。 ​近江鉄道は「民間企業の経営努力による事業継続は困難」として2016年、滋賀県に協議を申し入れました。  
 

​ 廃線ではかえってコスト増?

実は近江鉄道、一時は廃線にしたらどうなるのかも検討されました。
そこで「鉄道を残すことで自治体が負担するコスト」と 「廃線によって自治体が負担するコスト」を試算されました。  

その結果、
①沿線道路の車の交通量が増加するため、道路の拡張工事の費用
②鉄道を通学で利用する高校生のスクールバスの費用

などで、年間19億円が自治体負担として必要だと試算されたようです。 ​
その金額は近江鉄道の鉄道事業に関する年間の赤字額を上回っているため、鉄道事業の赤字を穴埋めしたほうが経費を抑えられると判断されました。
そのため、近江鉄道の存続が決定。

2019年11月、滋賀県では「近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会」が発足。 元JR職員でもある三日月大造知事が会長で、JR西日本、信楽高原鐵道、沿線の教育委員会やPTA、大学教授などで構成されています。
そこで上下分離方式の導入が検討されることになりました。​

​上下分離方式とは

上下分離方式とは、自治体が線路や駅舎などを土地や建物などを保有・管理し、民間がその上の部分にある列車の運行を行う運営方式のことです。列車だけでなく、空港などでもこのような方式を取られる場合があります。 ​ この方式は、鉄道会社が維持管理費用に赤字を抱えることが多いため、自治体が管理や修繕の費用を負担することで、事業者の負担を軽減し、赤字の地域交通を維持することが狙いです。 ​

滋賀県内では甲賀市を走る信楽高原鉄道が2013年度から上下分離方式に移行しました。この移行により、黒字に転換しましたが、コロナ禍の影響で再び赤字となっています。


​上下分離方式のパターン

2019年5月の評議会では、「上下分離方式」の3パターンに分けて10年間(2018年度~27年度)の収支の試算をしました。

3パターンとは、沿線自治体が近江鉄道の、

  1. 線路のみ保有した場合

  2. 線路と電路のみ保有した場合

  3. 線路と電路、車両の全てを保有した完全分離方式

です。 ​ このうち、線路と電路、車両の全てを保有する完全分離だと、 ​

①近江鉄道も年間平均約1億7900万円黒字
②自治体負担も半額(年間平均約2億9000円/国からの交付金によりほぼ半額)
になるので望ましい、という結論の試算が発表されていました。 ​
 

最終的な試算について

アンケートまとめと試算:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5170477.pdf ​

2020年1月に近江鉄道沿線の住民に対して「一般社団法人システム科学研究所」がアンケートを実施。そのアンケート結果から最終的な経費が試算されたようです。
システム科学研究所は、1972年(昭和47年)に京都の財界、学界、文化人等が発起人となり、通商産業省(現 経済産業省)所管の社団法人として設立された法人のようです。
60代以上がアンケート回答者の50%を占めています。

アンケート内容等:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5182626.pdf


代替手段の検討

  • バスはランニングコストが鉄道の約半分になるものの、バス車両の確保、初期投資として30億円必要なのと、運転手の確保の問題があるとの試算。

  • バス・ラピッド・トランジットとライトレールは経費が掛かりすぎて論外。

とのことで、いずれの交通方法も、評議会では「鉄道を存続させるよりも、優位性が見当たらない」と総合的に判断され、2020年12月17日、「近江鉄道の存続」で全会一致したのです。

https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/31617.pdf

  

上下分離方式の導入まで

2024年に導入開始するため、2022年12月に近江鉄道線管理機構を近江鉄道本社敷地内で発足。 2023年4月から稼働、同年12月に国土交通省にて申請を行う予定のようです。 ​上下分離方式が正式に認められるには、上下分離方式により近江鉄道が黒字化することが条件のようで、2023年4月から上下分離方式の為の調整、申請のための準備が行われています。近江鉄道線管理機構は現時点(2023年3月時点)では当面無給であると交通戦略課の方から聞いております。

交通税と近江鉄道

滋賀県交通戦略課にお伺いしたところ、年間89億もの試算がなされている交通ビジョンと近江鉄道の話は別とのことです。 交通ビジョンは「滋賀県の交通の在り方」の理想を掲げたものです。一度県庁の方にお伺いした際に「交通ビジョンは近江鉄道とは別。鉄道をどうするかの前に一度、県がこれから目指すビジョンを想定したもの」と言われました。

その、今後のビジョンとはこちらです。

これ以上の増税は不要

便利になるのは良いことですが、便利になるからと言ってその財源の一部として増税を決定してしまえば、ますます税金が上がっていきます。交通税だけなら大きな額ではないかもしれませんが、それが積み重なって現在の国民負担率47.5%が存在しています。

近江鉄道を維持し、便利さを向上させるとしても、年額50億の経費は、滋賀県の歳出650億円からすれば10%にもなっていません。

これ以上の増税は、更に経済成長を止めてしまい、日本という国の力を更に失わせてしまいます。もう日本には、必要な増税は1円たりとも存在していません。

税金は思っている以上に無駄に使われていますし、一部の人にだけ利益が行き渡るように使われている残念な部分もあります。増税して県民や国民の負担を高めるのではなく、そのように他の歳出を付け替えることで十分、交通税として徴税される金額はまかなうことが出来るでしょう。

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