SF的小噺「七話 食糧」
長期休暇のついでに欧州と呼ばれた地域にある食料工場を訪れた。
前世紀の核兵器・生物兵器の多用により土壌・海洋は汚染され、現代の地球では昔のような農業や漁業は営まれなくなった。全て工場で作られる。
工場では、宇宙での移民・移住により発達した高効率の食料生産技術が応用されることになった。
工場といっても、人間が従来食料としてきた動植物や昆虫を超高効率で生育させる場所である。宇宙では、有機物を合成するタイプの食料生産技術も普及してきているが、地球上ではまだまだこれからである。
食料工場の中心部は、多数の核融合炉である。これが、太陽光からだけでは得られない強い光や熱を提供する。
生産物の全てに生育速度を上げるための遺伝子改変が行われていて、通常の数倍の速度で成熟するようになっている。また、人工土壌、空気、水に含まれる細菌などの成長阻害要素は徹底的に除去されている。
ここを訪れたのは昔ながらの料理を食べさせてくれる場所があるからだ、地球に住む人間には、まだ口から栄養を摂る習慣が残されており、味覚を楽しむ贅沢がある。
つづく