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蒼穹の見聞録-Lagra myth-1 hecto

1章
エノク書

いつの話かは問題じゃない。

誰が信じるか信じないかも。

これは、私だけの物語だから‥‥

そして、いつしか私自身も忘れてしまうだろうから‥‥


これはまだ、

惑星「ラグラ」が

誕生する前の

私の、最初の物語

風の流れを感じる。
まるで鳥になったような‥

そんな記憶

どこか懐かしい気すらしない

そんな‥‥

いつの記憶かさえ
わからない

ああ そうだ

これは夢‥‥

夢だ

目を開ける。

うっすらと‥いえ、
眩しさに刺す様な光の本流に
目覚めざるをえない光景が
目に入る。

そう言えば、私、これで何回目だろう?

生きて、死んだ時の様に
意識の遮断を余儀なくされて‥‥

目の前の先生が頭上の輪を光らせて答えた。
隣の目玉も何か言う。

先生 「良い兆候だな、夢を見ていた自覚が感じるまで回復するとは」
目玉 「そっスね」

エノク「先生‥私また‥?」

私は恐る恐る先生に聞いた。
先生は相変わらず沈着冷静だ。

目玉「大丈夫、今度は先生を吹っ飛ばしてないスよ」
先生「黙っとれ蒼穹(そら)」

私の直感が正しければ、恐らく1339回目の遮断‥‥

その時、再び意識の暴走の兆候が私を襲う。
自身に高ぶる、抑えきれないネガティブな本質。
隙あらばその一帯を吹き飛ばしてしまう程の‥‥

嫌だ。

誰も傷付けたくない。

さっきだって‥‼︎

狂った聴覚で2人の声が聞こえた。

蒼穹「またシャットダウンスか?」
先生「仕方あるまい。このままでは危険だ」

無理もなかった
それだけ私は、私の「魂」の修復が困難な状態で

イレギュラーな暴走を止める為に
気の遠くなる、意識の遮断を繰り返していた。

必死で抑え込む私、顎にヒビが入る勢いで歯を食いしばる。
私の直感を信じ、先生に推奨の意思を伝える。

失敗すれば、此処が吹っ飛んでしまうリスクがあったとしてもだ。

エノク「遺伝子の羅列に埋め尽くされた、人格を司る
    項目の値が一つ上下しただけ‥‥‼︎
    ほんの‥僅かな違いから出る拒絶反応が
    そもそもの原因なんだわ‼︎」

続けて推奨する。
先生は冷静に私の話を聞く。

エノク「先生」

そう、原因はそこだ。

私達の絶対に変わらないもの
変えることの出来ないもの
そのオリジナルに到達する為の値‥‥

「ミュート」「エンゲ」

私の基準値から更に手を加えるリスク。
下手をすれば‥暴走で済むだろうか?

それでも‥「私」に近づく為には、必要な修復。
人格を司る羅列の項目にはそれぞれ名称が決まっている。

私が暴走して放った一度きりの「ベクトル」それは、
先生の体である「義体」の
半身を進行方向に向けて放ってしまった事‥

先生の翼を私が奪ってしまった‥‥
それでも、前のラボごと吹き飛ばしてもなお、
献身的な修復に向けて、先生は私をオリジナルの魂に
戻そうとしてくれている。

私が振り返っている間、今までにない変化が兆候として現れた。

目元が数回ブレる。私に当てがれた無色の「義体」に色が現れた。

先生 「直感がお前を取り戻したか」
エノク「先生、私の手が動くわ」

たったそれだけの事が叶わなかった‥思う言葉さえ。
寸分違わぬ違いが拒絶反応を生む。

けど、これで私は元に戻れた。

自分を抱きしめ、私は泣いた。

それさえ出来なかったから。

先生は乗り切った様に微笑んで言う。

先生 「どうだ、久方ぶりの自分は?」
エノク「うう‥」

言葉にならない。
自分という魂の二乗が完成されるに至るまで1339回目の失敗を繰り返して

奪って、やっと救って頂いた。


私は私に、やっと戻る事が出来た。

続く‥

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